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伝わる文章とは?その10「辞書は絶対じゃない」

このコラムも10回目ということで、ちょっと文章の書き方から離れた話をしたい。それは「辞書は絶対じゃない」ってことだ。

編集者・校正者として他人の文章を読んでいて、違和感を覚えたときは辞書に当たるようにしている。私がメインにしているのは「広辞苑 第七版」だ。しかし、よく耳にする言葉でも載っていないことがある。

例えば、最近はビジネス用語として罷り通っている「一気通貫」という言葉。書き手は「最初から最後まで」と言う意味で使っているらしいんだが、「一気通貫」は麻雀の役の名前で、広辞苑には載ってない

ところがWeb辞書の「goo辞書」にはあって、ご丁寧に「企画から生産・流通・販売まで一気通貫で請け負う」という例文まである。(出典:小学館 デジタル大辞泉)

一気通貫

紙の辞書の編纂には何年もかかるので、最近になって使われだした言葉が載っていなかったりするのは“よくあること”だ。その点、デジタル版は追加・修正も簡単なのだろう。

そもそもで辞書のほうが怪しいケースもある。例えば「爆笑」だ。goo辞書では「大勢の人がどっと笑うこと。また、その笑い」とした上で、「一人または数人が大声でわっと笑うことの意でも用いられる」という補足説明が付いている。

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爆笑はもともと「大勢の人がどっと笑うこと」とされていたのだが、どこかのタイミングで「一人でも爆笑できるんじゃね?」ってことに気づいて補足説明が付け加えられたのだろう。考えてみれば「爆睡」も「爆買い」も一人でできる。爆=大勢じゃあないってことだ。

広辞苑を見ると、2008年1月発行の第六版の「爆笑」の定義は「大勢が大声でどっと笑うこと」だったのに、2018年1月発行の第七版では「はじけるように大声で笑うこと」に変わった。2008年からの10年の間に人数は何人でも良くなったのだ。ちなみに「爆睡」はどちらにも載っているが、「爆買い」はどちらにもない

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辞書に載っていないから間違いというわけではないし、辞書が正しいとも限らない。言葉を使うって難しいなぁと思う次第。



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