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コンドルの里 前半 〜ねむねむの森より〜

(あらすじ)
ねむねむの森にはとても仲の良いコンドルの夫婦が住んでいます
ダンナさんコンドルは大きな羽を広げ
いつもねむねむの森を高い空から見守ってくれています
小さな体のおかみさんコンドルはお喋り好きで世話好きです
お菓子を作らせたらここら一帯の森の動物たちで
おかみさんの右に出る者はありません
この夫婦は同じコンドルの里で生まれ育ちました
この二人が夫婦になるまでの小さな恋の物語です
(あらすじ終わり)


ねむねむの森に秋の足音がきこえてきました
太陽さんの光を集めていた葉っぱさんたちはその役目を終え
今度は土さんを元気にするために地面に舞い降ります
地面に舞い降りる前に葉っぱさんたちには
とびっきりのお楽しみがあるんです
それはなにかというと
赤色黄色茶色橙色緑色の無限の組み合わせで
葉っぱの色が変わること
じぶんはこんどはどんな色に変化するんだろう?
葉っぱさんたちはそれぞれわくわくどきどきしながら
朝と晩にだんだんつめたくなる空気や
じぶんの中にのこっている太陽さんの暖かさを感じています

そんな葉っぱさんたちの様子を大きなもみの木さんの上で
一緒に並んで眺めている二羽のコンドルがいました
大きいコンドルと小さいコンドルです
ちいさいといっても 鳥さんたちの中では誰よりも大きいのですよ

小さい方のコンドルはあのおかみさんです
ねむねむさんとうみちゃんと一緒にリーシャ村へ向かった
カラスくんを見送ってから
何回太陽さんが顔を出したでしょう
何回3時のおやつを作ったでしょう
ねむねむの森の季節はうつりかわり
今年もだんなさんと一緒にコンドルの里へ里帰りする季節になりました

「おふたりさん旅のしたくはすみましたか?」と
もみの木さんがはなしかけました

「もみの木さん ええ いつでも出発できますよ
今年は何羽ものとりさんたちがおやつ作りをやりたいと言ってくれて
何羽ものとりさんたちが森のまわりの見回りをしてくれると言ってくれて
わたしもだんなさんも安心して里帰りができます
きっと あの日 みんなでねむねむさんたちを見送った日
みんなの心にもきっと 勇気の宝箱が置かれたのでしょうね」
と答えて
コンドルのおかみさんは隣で静かに森をながめているだんなさんに
にっこりと笑いかけました

だんなさんはコンドルのおかみさんに微笑み返し
「さあ 羽も十分乾いたようだし そろそろ出発しようか
もみの木さん いつもありがとう いってくるよ」
と言ってもみの木さんのてっぺんから勢いよく飛び立ちました

そのだんなさんにつづいてコンドルのおかみさんも
「今回はお土産話がたーくさんあるわね
たのしみたのしみ もみの木さん いってくるわね」
と言い 飛び立ちました

二羽のコンドルは一年に一度森の葉っぱさんたちが色づき始める頃に
生まれ故郷のコンドルの里へ里帰りします
二羽は同じ里で生まれ
一緒に飛び方を学び
一緒にごはんの探し方を学び
一緒に卵の暖め方を学びました

今ではねむねむの森でコンドルのおかみさんと呼ばれている
小さな方のコンドルは名前をジュリといいます
そしてジュリの大切なだんなさんとなった
大きい方のコンドルは名前をマキといいます
ふたりとも綺麗な赤い目をもちふわふわの白い襟巻きをまいています

ふたりは里帰りするときはいつもふたりがまだコンドルの里で暮らしていた頃の昔話をしながらときどき休憩しながらゆっくりと飛んで行きます


ふたりの昔話から知った
コンドルの里のことをお話ししましょう
そしてふたりが綴ってきた物語の世界を一緒にのぞかせてもらいましょう



ここは「コンドルの里」
地上のなかで 一番天空に近いところ
山々が連なり 草原が広がるところ
ここにコンドルたちが暮らしています

鳥たちの中で一番の大きな羽を広げ 
上昇気流に乗って 優雅に滑空する姿は気高く
ほかの何者をも寄せ付けない雰囲気を感じるかもしれません

実際のコンドルたちは優しく穏やかで仲間思いです
仲間とともに助け合いながらそれぞれの里で生活しています
だからわたしたちは 親しみを込めてこの場所を
「コンドルの里」 と呼ぶのです

コンドルたちは皆で協力して子供達を育てます
大切な雛たちは一羽ずつ広いほらあなに入れられ
飛べるようになるまでそこで生活します
それは外敵から雛たちの身を守るためです
雛たちはそのほらあなで親コンドルが運んでくるごはんを待っています
ときにはごはんが運ばれてくるまで何日もじっと待ち続けることもあります

コンドルは飛び立つ前に羽を太陽の日差しで暖めなくてはならないそうですだからお天気の悪い日が続くと飛び立つことができず
何日もごはんを探せない日が続きます
コンドルたちが醸し出す じぶんを律しているような雰囲気は
幼い頃から自然をあいてに どうにもならないことはじっと我慢する
そういう生活を送ることから身につく雰囲気なのかもしれませんね

今日は雲ひとつない空に朝日が元気よく昇りました
お父さんコンドルたちが
巣立ちの近い三羽の若いオスのコンドルたちを引き連れて
ごはんを探しに草原に向かって滑空して行きました

コンドルはオスもメスもどちらも同じようにごはんを探しにいき 
卵を暖めます
今日はお父さんたちがごはんを探しお母さんたちが卵を暖める日のようです

お父さんコンドルと若いオスのコンドルたちの
ごはん探しの様子はどうでしょうか
上昇気流にのり少し南の乾いた土地の方へ
十数羽のコンドルたちが滑空している様子はとても勇大です
一羽の若いオスコンドルが
「あ!あそこに牛が倒れているよ」と叫びましたが
「いやいやあれは大きな岩さ」
とお父さんコンドルが言いました
コンドルは息の絶えた大きな動物を空の高いところから見つけます
「おっ あそこに動かなくなっているものがいるぞ」
と一羽のお父さんコンドルが進路を変え
それに続いて十数羽のコンドルたちがいっせいに弧を描き
吸い込まれるように乾いた地面に向かっていきました

若いメスのコンドルたちはどうしているのでしょう
巣立ちの近い若いメスのコンドルたちは
卵のおかれている広いほらあなに入り
お母さんが卵を暖める様子を見ながら
もうすぐやってくる巣立ちのことについてお喋りをしています
卵が置かれていほらあなを一つ一つたずねながら
お母さんコンドルや仲間のコンドルたちとのお喋りを楽しんでいます
ある若いメスコンドルはつい昨日若いオスコンドルから求愛されたのだけどどうしようかしらと相談したり
別のメスコンドルは卵を産むってどんな気分なのかとお母さんコンドルを質問責めにしたり
メスとしての未来に夢を描き憧れを抱き
赤い目をより一層キラキラと輝かせています

コンドルたちの伝統のひとつにこんなものがあります
どの里でも成長した雛たちに飛び方を教えるのはその親ではなく
その里の長老コンドルの役目なのだそうです

このコンドルの里でも いいお天気の今日は
長老コンドルが五羽のコンドルの子供たちに飛び方を教えています

長老コンドルは子供たちが練習しているところを見守りながらも
一羽のメスのコンドルのことが気にかかっていました
その若いメスのコンドルは
卵を暖めているお母さんコンドルのいるほらあなにいくのでもなく
他のメスのコンドルたちとおしゃべりするのでもなく
ひとり山のうえにある大きな岩の上にとまって
さっきお父さんコンドルたちが飛び立った方をじっとみつめています

その若いメスのコンドルは名前をシャリーといいます
シャリーには昔からどうしてもわからない
どうしてもなっとくすることができないことがありました
どうしてじぶんには他のオスのコンドルのようにトサカがでてこないんだろう?
どうしてじぶんの目は他のメスのコンドルのように赤いんだろう?
どんなに考えても考えてもさっぱりわかりません
そして心はどんどん苦しくなるばかりです

シャリーも小さい頃 長老コンドルに飛び方をおしえてもらいました
同じ頃に生まれた雛たちが集められ 
みんな同じように長老コンドルと一緒に過ごしていました

シャリーは仲間のなかでもひときわ体と羽が大きくて
上手に遠くまで飛べるようになったのも一番早かったのです

仲間のみんなが飛べるようになったある日
ひとつのほらあなから
「お父さん組はこっちにおいで〜」
べつのほらあなから
「お母さん組はこちらにいらっしゃ〜い」
という声がひびきました

みんなじぶんの行くべき方を知っています
もちろんシャリーも「ぼくはお父さん組」と知っています

お母さん組のほらあなには五羽の子供のコンドルたちが集まり
お父さん組のほらあなにもシャリーを含めて五羽の子供のコンドルたちが集まりました
お父さん組を見守っているお父さんが言いました
「シャリー きみはお母さん組だよ」と
シャリーはびっくりして
「どうして?ぼくはお父さん組じゃないの?」とたずねました
お父さんはすこし困った様子をみせましたが
しっかりした口ぶりで話します
「シャリー これからきみはお母さんたちからたくさんのことを学ぶんだ
立派なメスのコンドルになれるようにね」と
シャリーは
「いやだいやだ! ぼくはお父さん組だ!」
と泣き出しました
泣きながら ほらあなのなかでめちゃくちゃに飛び回るので
お父さんコンドルは他の子供のコンドルたちに別のほらあなへ行くように言い
自分はシャリーを守るように 大きく翼を広げました
シャリーの鳴き声を聞いて他のお父さんコンドルが駆けつけ
同じように翼を大きく広げました

めちゃくちゃに動いているシャリーが
壁や天井にからだをぶつけないよう 
せっかく生え揃った風切り羽が傷つかないように
二羽のお父さんコンドルは大きく翼を広げてシャリーを見守ります

ひとしきり泣き叫んだシャリーはさすがにくたびれて
ほらあなの真ん中で座り込みました
二羽のお父さんコンドルはほっとして翼をとじましたが
はじめてのことに どう声をかけていいのかわからず
じっとシャリーをみつめていました
そこに長老コンドルがやってきました

その姿をみたとたんシャリーは長老コンドルにかけより
「長老!ぼくはお父さん組だよね!ぼくはずーっと前から知っていたんだ!ぼくのことだもん!ぼくが一番よく知ってる!ぼくはお父さん組だよね!」とうったえました

長老コンドルは柔らかに微笑みながら
静かな声でシャリーに話しかけます
「シャリー なにも心配しなくていいんじゃよ
おまえの心はおまえのものじゃ
おまえがじぶんはお父さん組だと思うのならばそうなのだろう
ただ これから先
おまえは他のお父さん組の仲間との違いをいやでも知ることになる
昨日 みんなで自分の姿がみえる池にいったじゃろう?
そこでみた姿はどうじゃった?
今はみんなと同じすがたじゃったろう?
しかしな シャリー
これからお父さん組のなかまにはトサカが生えてくるんじゃ
そしてお母さん組のなかまの目は赤くなってくるんじゃよ
シャリー
おまえの目はすでに赤くなってきたのを昨日じぶんでもみたはずじゃ
シャリー いいかな 
これだけは覚えておいで
おまえの心はおまえのものじゃ
おまえの心がお父さん組だとおもうのならば
その心に従ってお父さん組にいればいい
身体も大きく飛ぶのも上手で早いから
お父さん組の中でも全く問題ないじゃろう
ただ 
どうしたわけか
おまえは心と体がべつべつのようじゃ
どんなに待ってもおまえの頭にはトサカは生えてこない
これだけは確かなことじゃ
そしてシャリー 
このことはおまえの心を苦しくするかもしれん
もし これから先 
少しでも心が苦しくなったら
そのときはすぐに
お父さん組からは離れるんじゃ
よいかな 
それをこの長老と約束しておくれ」

長老の穏やかな声を聞きながら
シャリーは昨日じぶんの姿が見える池で
じぶんの心によぎった小さな不安を思い出しました

長老の言うとおり
自分の目がほかのどの子供のコンドルよりも赤かったのです
それはまるでお母さんコンドルたちのようだと思いました
でもすぐに
その小さな不安を大きな期待が掻き消しました
「いつかトサカが生えてくるかもしれない」という期待
「そのときは 今長老が話したことは間違いだったと
今はみんな勘違いをしているんだと 
ごめんよシャリーとみんながあやまるに違いない」という期待

シャリーはこの大きな期待を心の底から信じていました
そしてお父さん組を離れるつもりはないと長老コンドルに伝えました

#創作大賞2023 #ファンタジー小説部門

コンドルの里 後編
https://note.com/bacchan_canada/n/ndc9a77b7e748

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