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ねむねむの森 〜さいしょのおはなし〜

~さいしょのおはなし~

わたしのなまえは ねむねむ
「ねむねむさん」
とよんでください
わたしはいつもは ねむねむの森にすんでいます

こうみえても
けっこういそがしく しごとをしています

夜 ねむれない小さな人たちのところに行って
小さな人があんしんしてねむりにつけるように
お母さんのおてつだいをしたり

夜 ねむれない大きな人たちのところに行って
大きな人たちのねむりをジャマするものたちと
はなしをして ジャマをしないようにおねがいしたり

ねむりについてけんきゅうしている けんきゅうしゃ や
ねむりグッズをかいはつしている かいはつしゃ や
せかいのみんなが いいねむりにつけるよう
いっしょうけんめいにかんがえている人たちのところへ行って
すごいアイデアがうかぶように
アイデアのフタをあけるおてつだいを
しています

さて
そんなふうにいそがしいわたしが
わざわざここへやってきたのには
りゆうがあります

みなさんにあるお話をするためです
そのお話とは
ずいぶん前のできごとですが
このわたしが
今のように「ねむねむさん」としておしごとをがんばる
きっかけになったできごとです

今からずいぶん前のあるあさ
とつぜんごごごぉ〜っと
大きな音がしてじめんがふるえました

わたしは なんだろう とおもい
森の中でいちばんせのたかい
もみの木さんにのぼり
あたまのてっぺんにおじゃまして
音のする方をじっとみつめました

すると
今までとおくのほうに見えていた
水さんのあたまがぐんぐんもり上がり
どんどんお口を大きくあけながら
こちらへ向かってくるではありませんか

わたしはおどろいて
もみの木さんのあたまにしがみつき

「ねえねえもみの木さん
水さんが大きなお口をあけてこちらにくるようだけど
どうしたんだろう」

とたずねました
するともみの木さんはこうこたえました

「ねむねむさん
おどろかなくても大丈夫だよ
水さんやこの森やわたしたちはみんな
地球さんの上にいるのだけど
地球さんはときどき よそうのできない うごきをするんだ
わたしは生まれてからなんどか
水さんが大きな口をあけるのをみてきたけど
この森まできたことは いちどもないんだ

でもきょうのお口は今まででいちばん大きいね
もしかしたら水さんのこえを
はじめて きくことになるかもしれない」

わたしは
「地球さん」
というなまえをきいたことがありました
わたしが生まれてしばらくたって
お母さんが
(このせかいはすべて地球さんの上にあるんだよ)
とおしえてくれたからです
でも地球さんがとつぜんうごきだすとは
しりませんでした

「ねえねえ もみの木さん
地球さんがときどきうごくということは
それはどういうことなの?
もみの木さんが風にふかれて
ゆらゆらゆれることと おんなじ?」

「そうだね
地球さんのことは
地球さんにしかわからないけれど
わたしが風にふかれてゆれるように
何かにつつかれたのか くすぐられたのか
地球さんがうごくことにも
なにか りゆうがあるのかもしれない」

「ねえねえ もみの木さん
もしいま もみの木さんが風にふかれると
ぼくはこまっちゃうなぁ
ぼくがふりおとされないように
小さくゆれたり
ぼくのことをつかまえていてくれる?」

「ねむねむさん
それはできないんだよ
わたしは風にふかれたら
ふかれたままでいることが わたしなんだ
だからね 
ねむねむさん
わたしのあたまにのぼってきてくれるときは
もしかしたら
風がふいて大きくゆれるかもしれない
ということを
あたまのかたすみに おぼえておいたほうが
いいかもしれないね」

「もみの木さん
もしいま 大きな風がふいて 
もみの木さんが大きくゆれたら 
ぼくはとってもこわいから
下のほうにおりて
はっぱがたくさんあるところで
ゆれてもへいきな ふといえだに すわることにするね」

ねむねむさんはするするっともみの木さんをすべりおり
まん中あたりのふといえだにすわりました
大きなもみの木さんなので
まだとおくにいる水さんの大きなお口の上のほうがみえました

「もみの木さん
水さんがあの大きなお口のまま
この森まできたら どうなるの?」

「ねむねむさん
それはわたしにもわからないけれど
いままで
水さんの大きなお口がとじたときにはね
それまでとおくにみえていたでこぼこしたものがなくなって
まったいらになるんだ
まるで水さんがぜんぶをのみこんでしまったかのように」

「もみの木さん
じゃあ水さんの大きなお口がここまできたら
ぼくもこの森もみーんな水さんにのみこまれてしまうの?」

「ねむねむさん
そうだね そうかもしれないね」

「もみの木さん
水さんが大きな口をあけるのは
地球さんがうごくからっていったよね
地球さんがうごかなければいいのに
どうして地球さんはがまんができないんだろう」

「ねむねむさん
そうだね
地球さんもわたしたちみんなとおんなじように
いきているからね   
いきていれば とつぜんあくびがでたり
くしゃみがでたり どこかかゆくなったりするでしょ
そんなときに じっとしていなさい といわれても
とてもむずかしいことだよね」

「もみの木さん
それはわかるけど
だけど とつぜん地球さんがうごいて
それで 水さんが大きな口をあけてやってきて
ぼくたちみんなをのみこんでしまうのは いやだな
なにか りゆうがあるというなら しりたいよ」
     
「ねむねむさん ほんとうに!
わたしもほんとうにそうおもうよ
そしてわたしもながーいあいだ どうしてだろうってかんがえていたよ
でもね 
こたえはまだでていないんだ
というよりも 
りゆう なんてないのかもしれない
りゆう なんてなくていいのかもしれない

おもうようになってきたんだ

とつぜん なんのおしらせもなく地球さんがうごくこと  
そのことに いみがあるのか いみがないのか
わたしたちに いいことなのか わるいことなのか
さっぱりわからないけれど
わたしたちは地球さんの上にいる
ということは
地球さんのうごきにさからうことはできない
さからわなくてもいいことなのかもしれない

いまを いきることを たのしめばいい

ただただ そういうことなのかもしれない

と おもうようになってきたんだ」
           
ねむねむさんは
もみの木さんのことばをききながら
ごごごぉ〜という 
水さんのおとがだんだんと ちいさく とおく なっていくのを
きいていました

「もみの木さん
なんだかねむくなってきたよ
こんやはここでねてもいいかな?」

「ねむねむさん
いいよいいよ
いつでも いつまででも
あんしんして ここでねていいよ」


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