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ふくろうのおやつ (後)

今朝の森の様子がいつもとちがうことに気がついたのは
この森でどの木よりも大きく元気に育っているもみの木さんでした
もみの木さんは 頭のてっぺんでぐーぐーいびきをかいて寝ている
三人の仲間に声をかけます
「ふくろうくん 亀の子くん 白へびちゃん
おきておきて なんだか面白そうなことが始まっているよ!」

まず目を覚ましたのは早起きの白へびちゃんです
「おはようもみの木さん どうしたの?」
そういいながら
もみの木さんの木の穴から出てきた白へびちゃんの耳に聞こえてきたのは
草や枝をかき分けて進むどうぶつさんたちの音
空を四方向に飛んでいくとりさんたちの羽ばたく音です

次に目を覚ましたのは亀の子くん
太い枝の上でゆっくり甲羅から頭を出した亀の子くんが聞いたのは
いろんな木や草とお喋りしているどうぶつさんたちの声
お空で輪になってなにか話し合っているとりさんたちの声でした

お空から聞こえる声の中で一段と大きく聞こえる声がお父さんふくろうです
「よし!それじゃあみんな仕事をはじめてくれ!」
と合図をしたお父さんふくろうの大きな声で 
おねぼうのふくろうくんが目を覚ましました

「なんだなんだ!なにがはじまったんだ〜?」
とわくわくを隠せない様子でふくろうくんが起きてきました

「おとうさ〜ん! なにやってるの〜?」
とふくろうくんがお空に向かって叫ぶと
お父さんふくろうは
「この森に小道をつくるんだ おまえたちもてつだっておくれ!」
と叫び返しました

ふくろうくんは亀の子くんと白へびちゃんと目を合わせました
そして三人同時にさけびます

「大変だ!きらきら池がみつかっちゃう!」

それは昨日のことです
この小さな冒険家さんたちは森の探検にでかけていました
太陽さんと楽しくおしゃべりしながらも
何か面白いものはないかなぁ 面白いことはおきないかなぁと
目をキョロキョロ 鼻をくんくん 耳をすましながら飛んでいると
ふくろうくんに抱き抱えられていた亀の子くんが
森の中にきらきら光るものがみえるというんです
するとふくろうくんの背中にのっていた白へびちゃんが
そのきらきらの方向からとってもいい匂いがするというんです
ふくろうくんは二人の言うきらきらのところを目指して飛んでいきました
三人が到着したところにあったのは
それはそれはきれいな きらきら光る小さな池でした
亀の子くんがみた光は この池に太陽さんの光が差し込んで
反射をしていた光だったんです
そして白へびちゃんが感じた匂いは 池のまわりに生える木になっている
赤や黄色やオレンジ色の木の実の匂いでした

三人はしばらくの間おしゃべりするのを忘れて
池の水をごくごくと飲み
池のまわりに生えているいろんな木の実をほおばりました
ひとしきり飲んで食べてお腹がいっぱいになった三人は 
この池を「きらきら池」と名付けました そして
この「きらきら池」をじぶんたちだけの秘密の場所にしよう
と決めたのです
「きらきら池」のまわりに 入っちゃダメだよ という意味の
ばってん印をたくさん作り
昨夜はもみの木さんの上でお祝いをしたところだったんです

それが一晩あけたら 大ピンチです
これだけの数のどうぶつさんたちが森の中を歩きまわり
これだけの数のとりさんたちが空の上から森を観察していたら
あーっと言うまにじぶんたちの「きらきら池」がみつかってしまいます
ふくろうくんと亀の子くんと白へびちゃんは
どうしたら「きらきら池」がみつからないですむか一生懸命に考えました

(きらきら池に行って誰かがきたら追い払おうか)
(きらきら池の上に草や木をかけて見えないようにしようか)
(きらきら池の周りの木の実を全部つんでどこかにかくしてしまおうか)
などなど いろいろと考えましたが
考えている間にも どうぶつさんやとりさんたちはどんどんどんどん
森の中に小道を作り始めています

小道が作られる様子をみていたもみの木さんがいいました
「どうやら小道は4本できるようだね
そしてその4本は僕の方に向かってきているような気がする」と

その時
ばっさばさ と力強い羽の音がして
お父さんふくろうがもみの木さんの枝にとまりました
「もみの木くん おはよう」

「ふくろうのふうさん おはようございます
今日は森の大工事ですね」
ともみの木さんがあいさつをすると
お父さんふくろうは真剣な顔になっていいました
「そうなんだ もみの木くん
どうぶつやとりたちみんながこの森に来る時は
あったか池のある岩山だけをめざして来ていたんだが
この森はきちんと整えてあげたらとっても素晴らしい森になるとおもうんだ
美味しい木の実のなる小さな木の芽がいろんなところに生えているんだよ
その木の芽たちを正しい場所に移してあげて
太陽さんの光がしっかり届くようにしてあげたり
すみかの必要なものたちが安全に暮らせるように
どこになにがあるのかわかるようにしたら良いと思うんだ」

お父さんふくろうの言葉を聞きながら
三人の小さな冒険家たちはどきどきしています
お父さんはその様子に気づいているのかいないのか
もみの木さんに話をつづけます
「そこでね もみの木くん
みんなと話し合ったんだが、すべての小道を ここ もみの木くんのところへ通じるように作ろうと思うんだ
君はこれからもっともっと大きく力強く育つはず
そしていづれはこの森を見守る大きなシンボルになると思うんだ
君の枝は広く広くひろがるだろう
その下には安全な広場ができて小さなどうぶつや子どもたちが安心して過ごせる場所になると思うんだ
どうだろう もみの木くん」

お父さんふくろうの言葉を静かに聞いていたもみの木さんは驚きもせずこたえます
「ふくろうのふうさん
もちろんいいですよ
ぼくはそうなるだろうなぁっておもっていたんです
ずーっとまえから うん 生まれた時からそうなるだろうなぁっておもっていたんです
ぼくはもっともっと大きくなるし 力強く根をはるし
ぼくの枝は広く広く広がります
ぼくは今もそうしているように これからもずーっとこの森を見守って行きますよ」

お父さんふくろうは
「そうかい もみの木くん ありがとう」
とにっこり笑って言いました

そしてやっと 落ち着かない様子でお父さんふくろうを見つめている
三人の小さな冒険家たちに顔を向けました
「おまえたちにも手伝ってもらえたら たすかるんだがなぁ
この森に来るたびに三人でいろんなところへ行っているのを知ってるぞ
もしかしたらこの森のことを誰よりも知っているのはおまえたち小さな冒険家さんかもしれん」
と話しかけました
もみの木さんは お父さんふくろうの様子をみて
まるで笑いを一生懸命こらえているようだ と思いましたが
三人の小さな冒険家さんたちは「きらきら池」のことで頭がいっぱいで
お父さんふくろうの様子を感じる余裕は全くありませんでした
ですがお父さんふくろうが言った「冒険家」という言葉が
三人の心に とくにふくろうくんの心に響きました

ふくろうくんは決心したようにお父さんふくろうの前にでました
そして大真面目な顔で話し始めます
「お父さん ぼくたちは昨日すごい場所を発見したんだよ
それは小さな池なんだ
場所は、、、ごめんなさい 言えないんだ
ぼくたちはそこをきらきら池と名付けてぼくたちだけの秘密の場所にしたんだ
だって
その池の水はとっても美味しくてたくさん飛びまわった体にとってもよく染み渡るんだ
そしてね
その池のまわりには良い匂いのする木の実がたーくさんなっていて
食べるとどんなに大変な冒険の後でも体がすっきりするんだ
だからこの場所はぼくたちのために現れてくれたんだと思ったんだ
でも
でももう きっともう みつかっちゃったよね」
真剣な顔で悲しそうに話すふくろうくんが可愛くて
お父さんふくろうは笑いたくなるのを一生懸命に我慢しました
だってふくろうくんは大真面目なんですから

お父さんふくろうは答えます
「それはすごい発見をしたなぁ
まだ だれからも そんなすごい池を見つけたなんていうお知らせはきていないぞ
さすが小さな冒険家さんたちだ
その池はたしかにきみたち冒険家のために現れた池で 
他のものたちには幻の池なんだろうなぁ
うらやましいなぁ」

それを聞いたふくろうくんの目が丸く丸く大きく大きくきらきらと輝きました
亀の子くんも首を大きく持ち上げてにっこり笑いました
白へびちゃんは嬉しくて嬉しくて亀の子くんの背中の上でくるくるくるくる踊りはじめました

「そうなんだね!まだ見つかっていないんだね!
お父さん その幻の池のこと みんなに内緒にしてていい?
お父さんもだれにもはなさないでいてくれる?」
ふくろうくんの興奮した声に
今度はお父さんふくろうが大真面目な顔になっていいました
「もちろんさ その池はお前たちのものだよ
誰にも言わない 約束する
お父さんはこのもみの木くんを離れたら
今聞いたことは忘れることにするよ」

お父さんふくろうは
大きく羽を広げて 亀の子くん 白へびちゃん そしてふくろうくんを
順番に見つめて 大きく笑いました
この仕草は おとなのとりさんたちが
わかったよ やくそくするよ ということを相手に伝えるためにする仕草です

「お父さんは仕事に戻るよ
小さな冒険家さんたち 君たちは今日も一日元気に過ごすんだぞ」
と言ってお父さんふくろうは飛び立ちました

「よかったなぁ 冒険家のみなさん」
というもみの木さんの声を聞いて
ふくろうくん 亀の子くん 白へびちゃんは
安心したように「うんうん」とうなずきました

白へびちゃんがいいました
「ねえねえ 今日はきらきら池の水と木の実をたくさんつんで
みんなにたべてもらいましょうよ!」

ふくろうくんが心配そうに言います
「そうしちゃったら みんながその場所を探しに行こうとしないかな?」

亀の子くんが首を大きく振って言います
「大丈夫さ あれだけたくさんのばってん印をつくったんだ
みんなこの先は入ってはいけないって思うはずだよ」

もみの木さんが静かな声で言います
「冒険家さんたち 心配はいらないよ
この森の見守り役のぼくがみなさんの味方なんだから」

その日 この「あったか池の森」では たくさんのどうぶつさんやとりさんたちが
小道をつくる音と一緒に あちらこちらでひそひそ話す声や
くすくす笑う声がずーっと続いていました

そんなことには気が付かず
小さな冒険家のふくろうくん 亀の子くん 白へびちゃんは
お母さんふくろうのところへ行って
つるであむカゴと 大きな葉っぱで作る水入れの作り方を教えてもらい
それをもって あの「きらきら池」へ向かいました

どうぶつさんやとりさんたちは森の木や草たちと相談しながら
くねくねと曲がる4本の小道をもみの木さんに向かってつくっていきました
途中にたくさんのばってん印をみつけたくまさんは
その場所に近づかないように気をつけながら
ゆっくりと小道のもとにするために地面を踏み固めていきました

あったか池のある岩山のまわりにも小道が作られ
ふたつの場所からにんげんさんが岩山に登れるように石を重ねて山道をつくりました
「あったか池の森」に小道ができたというお知らせをもらった
リーシャ村のにんげんさんたちはどれほど喜んだことでしょう
村でとれた美味しい野菜や果物をもってみんなで森にやってきました
その中には小さな赤ちゃんを抱いたお母さんがいました
お母さんはとってもくたびれた様子で歩くのも大変そうでした
その様子をみたお母さんふくろうがお父さんふくろうに言います
「ふうさん ふうさん
あのにんげんのお母さんは歩くのがつらそうだよ
運んであげたらどうだろう」
「くうさん
ああほんとうだ
よし そこのつるであんだかごに入れて運んであげよう」
お父さんふくろうは仲間の力持ちのとりさんに声をかけ
にんげんのお母さんのところへ飛んでいき 
お母さんと赤ちゃんをかごにいれ ひとっとびに岩山のあったか池まで
運んであげました
あったか池のところで待っていたのはお母さんふくろうたちです
にんげんさんたちにあったか池の入り方を伝え
一緒に食事の用意をし 一緒にあったか池に入り いろんなおしゃべりをしました

あるところからどっと歓声が湧き上がります
妹ちゃんふくろうが歌い始めました
その歌に合わせて踊り出すどうぶつさんやとりさんやにんげんさん
今日の「あったか池の森」はいままででいちばんにぎやかな日になりそうです
この森が「ねむねむの森」と呼ばれるようになるずーっとずーっと前のお話です

#創作大賞2023

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