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【ショートショート】クソださ兄貴【兄視点】


(※上は【弟視点】です。読み比べてみてね⭐)

世の中には、理解しがたいものが数多く存在する。
その中でも俺が殊更に理解しがたいもの――それは、

「オシャレ」だ。

俺にはオシャレの「お」も「しゃ」も「れ」も解らない。
3つ下の弟に「クソださ兄貴」と呼ばれて27年になる。
そんな弟は所謂「オシャレ男子」だ。
そして、とてもモテている。
あと3年で魔法使いになれそうな俺と違って、弟は彼女(これも俺には理解できない女性の形態であり呼称である)が尽きたことが無い。
たしかに、兄の俺から見ても弟はカッコイイ。
俺と弟はよく似ているので、顔立ちや体型にそう変わりはないはずなのに弟はカッコ良くて、俺は「ダサい」。
この差が何なのか、それが俺には全くもって解らないのだ。

弟が言うには、「髪型と服が一番ちげぇよ」らしい。

弟は髪に何かつけてセットしている。
そう、髪の毛に化学薬品を塗布して整えることを「髪をセットする」と言うらしい。
知ってた? 俺は知らなかった。

弟が使っているワックス(ワックスって車とかに使うんじゃないの? 髪につけていいの?)を俺はこっそり拝借し、指で掬ってみた。
ねばねばしていて気持ち悪い。
こんなものを髪の毛に塗布して良いはずがない。
そこで俺は、台所からサラダ油を入手し、それで髪の毛をセットすることにした。皮脂、っていうくらいだからきっと油の方が自然だろう。

俺の髪の毛が黒光りしてつやつやしている。
きっとこれはオシャレだ。洗髪直後かと思えるほどにペッタリしてボリュームが抑えられている感じも、爆発していた元の髪の毛より「清潔感」とやらに印象が変わるに違いない。
俺は意気揚々と弟の部屋をノックした。そして弟にオシャレヘアになった自分を見せびらかした。

「何だよアニ……うはっ!! 何被ったんだよその頭ァ!!」

弟は大変身した俺に驚いていた。見たか、魔法使い予備軍の実力を。

「ヘアセットだよ(ドヤァ)」

「は!? 何つけたらそーなるんだよ! なんか食い物くせえ! 揚げ物っぽい匂いすんだけど」

「ボトルから出したてのサラダ油だからな(ドヤァ)」

「マジで言ってんの? アホかよ! えっマジでサラダ油つけたのかよ」

「ナチュラルなオシャ…」

「洗って来い! 落としてこい! 信じられんマジかここまでアホだったとは」

「……」

どうやら俺は、ダサい上に「アホ」という属性を得てしまったようだ。
しかし人生何が役に立つかわからない、若きウェルテル、じゃなかった弟にはそこんとこが解っていないのだろう。きっとアホ属性も、晴れて俺が魔法使いとなった日には花開くに違いない。

俺は洗髪し、ならば服から攻めようと思った。
手持ちの服を眺めてみるが、何がどう組み合わさればオシャレになるのかまったくわからなかった。
俺が学校で習ったものは、水素と酸素で水になるとかそういう現代魔法であって、「しましま柄とチェック柄を足したらどうなるか」などは習った記憶がない。皆いつどこでそういうの習ったの?
オシャレ塾とかこっそり通ってたの??

色が違うのはわかる、柄も違うのはわかる、形も違うのはわかる、それは俺にも理解できる。
しかし、組み合わせた結果が全く予期できない……!!

ええい、ままよ!!
男には、「結果が見えてなかろうが挑まなきゃいけない」時がある!!

俺は、赤と白のしましまの服を着て、その上に白黒のチェックのシャツを羽織った。
これ、重ね着って言うんだぜ? 知ってた?
オシャレっぽい魔法だよね、重ね着!!
上級魔法っぽい!!

そしてズボンは、数少ない俺の友人が異国で得てきた特級品、USAズボンを履いた。
外国製だぜ? 外国製。これには弟もビビってひれ伏すに違いない。

俺は再び弟の部屋をノックした。
嫌そうな表情をドアのすき間から覗かせてきた弟は、俺の姿を見るなり目を見開いた。フフフ、効果はあったようだな。

「な・なんだ 何から突っ込めば...…てかチェッカーフラッグかよ!!
目がちかちかする!! 目が痛ぇ!!

「お主にはまだ早すぎたようだな……(ドヤァ)」

「外に出る気じゃねーだろーな!! 公害だぞやめろ! 恥さらし!

「はっ、恥さらしとなっ!? 貴様兄に向って……」

「こんな不幸な弟も居ねえよ!! 何の祟りだよ!!

ほう……祟りときたか。吾輩の魔法能力もかなり磨かれてきているようだな呪術を体現できるようになっていたとはフフフ……。

弟はふーっと深い息を吐き俺に向かってこう言った。

「てかさあ、兄貴さあ、遊びとか行かねーんだから先ずは私服より先にスーツとか仕事に着ていく服から選べば? 一応公務員だろ」

「そうだ、吾輩は役所で地球人の記録を管理しておるフフフ」

「市民課ね」

「そうとも言う」

「いっつも吊るしで買ったバブリーなスーツ着て出勤してるだろ……。先ずはあれから何とかしろや」

「なるほど、良き助言だ」

「あっ、変な店行くなよ。あと着替えて行け。白Tにジーンズとかで良いから。間違っても気合入れて良く知らない店行くなよ。洋服の〇山とかでいいから!!」

「委細承知した。フフフ……」

俺は(せっかくのオシャレを)着替えて弟の言う通り白Tにジーンズで出掛けた。洋服の〇山なら俺も知っている。CMとかで見るし。
しかし、スマホのナビを観ながら歩いていると俺の目に「きっとオシャレ」な店が飛び込んできた。
ヨコ文字で店名はよくわからんが、弟みたいなカッコイイ男性店員が中にいるではないか。
ふ、弟め、俺がオシャレ魔導士になることを恐れてノーマルな店を勧めたのだな……。
その店のショーウィンドウには、血のように赤い真紅のスーツをまとったマネキンがポーズを決めて立っていた。

これだ……!!
これこそ、俺が求めていたオシャレスーツだ!!

いつもなら知らない店にはビビって入れない俺だが、上級魔法使いになるために意を決して店の中に入ってみた。

「いらっしゃいませー。何かお探しでしたらお声がけくださいね~」

やたら軽いノリでオシャレ男性店員が俺に声を掛ける。
くっ、オシャレ族め!!!
いつもの俺ならビビリまくって「あばばばばb」とか言うだけだが、今日の俺はお前たちと渡り合ってみせる。

「あああああ あそこの窓 窓 窓」

「ハイ?(笑)」

「窓のところの赤いすーちゅ」

「スーツですか?(笑)」

くっ、少し噛んだだけなのに客を嗤うとは無礼者めが!!
接客魔法をイチから学び直せ!!

「コレですね~。お兄さんめっちゃセンス高いですね~」

オシャレ無礼店員はそう言いながら、マネキンからスーツを脱がせ始めた。
ん? 俺はさっき……褒められ……た…?

「このスーツを最初に選ぶって、すっごい目が高いですよね!!」

なんだ、このオシャレ店員もしかして良い奴か?
この俺が、クソださ兄貴と言われて27年のこの俺が、褒められているぞ!

「コレを着こなせる人は相当オシャレっすよ!!」

なんだとおおおお!!
やはり俺は、俺は、今日の俺はこのスーツに出会うために今ここに!
オシャレ店員が「コレを着こなせる人は相当なオシャレ」と言うくらいなのだ、きっとオシャレな彼ですら難易度の高いスーツに違いない!!
それを俺は一発で見破れたということだあああ!!!

俺は試着し、オシャレ店員にかつてないほど褒められた。
彼はキラッキラな笑顔で俺を見て微笑み、俺を称え、俺と真紅のスーツがいかに相性が良いかをとめどなく語ってくれた。
俺の人生にこんな日が来るとは!!!

俺は財布から18万を出し、オシャレっぽい袋に入ったスーツを店員に持たされた。なんと彼は、店の入り口まで俺を見送ってくれた。
なんて良い店員だ。一瞬でも無礼とか思ってしまって、ごめん。

俺は帰宅し、早速袋を開けた。
スーツと共にオシャレ店員が選んでくれた漆黒のシャツを身に纏い、闇夜に揺蕩たゆたう月のような黄色いネクタイを締め、その上に赤のスーツを着用した。
そして、再度弟の部屋をノックした。


「兄貴スーツ買え……うわああああ!!!

「フフ、お前から貰った助言を無視してすまない……。しかしこの通り兄は完璧なスーツを入手してきたぞ(ドヤァ)」

「そんなスーツで働く奴がいるかよ!! ルパンかよ!!

「ほう、確かに言われてみれば吾輩の敬愛するルパン三世とやや似ているなフフフ……(ドヤァ)」

「おめー店員に遊ばれただけだろ!! 何だよその黒シャツ! 黄色いネクタイ! 赤スーツ! ルパンコスプレ以外の何だって言うんだよ!!」


そして俺は。
弟に連れられ先程の店に行ってスーツ一式を返品し(弟はめっちゃ店員を睨みつけて怒ってた。良い店員さんなのにこんな弟で申し訳ない)、洋服の〇山に連行されてグレーのスーツを買わされた。

こんなの、職場のほとんどの人間が着ているぞ。
オシャレというより普通ではないか。
だが弟曰く、

「お前はまず普通になれ(怒)」

という事だった。

俺がオシャレ魔法使いになれる日はまだ遠い。
だが、あと3年、俺にはまだ時間がある。


【FIN】

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