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おいしさ時間は、“酸化”することに“異議”がある

「おいしいビールを飲みたい!」といった主旨の話は大抵、ビール会社・ビアスタイル選びから始まり、グラス選び、注ぎ方、ビールの温度、料理とのペアリングというようなことで締め括られることが多いが、ビールそのもののコンディション、特に鮮度について触れているものが少ないと感じる。昔からビール工場で飲むビールはおいしい、と言われるが、その逆で、工場を出荷した後のビールは生鮮食品のように「劣化」という脅威に常にさらされていると思わなくてはいけない。そこに目をつむっては「おいしいビール」を語ることはできない。

酸化はビールの大敵

お中元やお歳暮でもらったビールの存在をすっかり忘れ、何ヶ月後かに飲んでみて、なんだか美味しくないと思ったことや、お土産でもらった地ビールをラベルに記載されている賞味期限ギリギリで飲んで、「なんじゃ、こりゃ〜、やっぱり地ビールはダメだなぁ」なんて思ったことはないだろうか?

飲食物には香味の変化が付き物で、良い変化、悪い変化の両方がある。人間にとって好ましい変化を「熟成」と言い、人間にとって悪い変化は「劣化」、有害になると「腐敗」ということになる。

ビールも例外ではない。他の飲食物と同様、容器に詰めた後の香味の変化は避けられない。ビールにとって劣化の代名詞ともいえる変化は「酸化」。酸化が進むとだいたいビールはまずくなる。一部の嗜好性が高いビールや他の酒類で、意図的に酸化させる「酸化熟成」というのもあるが、ほとんどのビールにとって酸化するということは、香味が劣化することと言って過言ではない。熟成タンクから、瓶・缶・樽などの個別容器に詰める際に、どんなに良くできた設備を持っていても、容器内への酸素の混入をゼロにはできず、それにより酸化が始まる。大手ビールメーカーが100年の歴史と共に何百億円もの投資をして技術開発してきた最新鋭の設備をもってしても賞味期限は9ヶ月に設定している。大手ビールに比べて設備投資のレベルが二桁三桁小さく、研究開発人員のいない小規模醸造所がどうなのかは言うに及ばない。

上の図は、以前にガージェリー醸造責任者の佐々木が作成したもの。酸化によるビールの香味変化は直線的に起こるわけではなく、図のように、容器に詰めた直後から大きな変化が起こり、その変化具合は時間の経過と共に緩くなっていく。嗜好品である以上、どの時点の香味を「おいしい」と感じるかは人それぞれだが、(タンク内での熟成工程をしっかり終えて)容器に詰めた直後のビールが間違いなくおいしい。それがガージェリーの品質に対する考え方の基本だ。なので、図の縦軸をビールのおいしさとして話を進める。

ビールのおいしさは時間経過と共に損なわれる

つまり図は、容器に詰めた後、時間経過と共に酸化によってビールのおいしさが損なわれていく様子を表している。少しでもおいしいビールを飲もうと思えば、少しでも新しいものを選ぶべき理由がここにある。熟成工程を終えたビールはタンク一本全部まとめて容器詰めされるのが一般的だが、全ての売り先が決まっているわけでなければ在庫になる。工場での在庫、卸売店での在庫、小売酒販店での在庫、お店・家庭での在庫、その間おいしさは損なわれていく。当然だが、遠い国から運んでくる輸入ビールはもっと厳しい状況におかれている。飲み手の手元に届くまでのおいしさの損失が時間と共に大きくなっていることを知らず、香味が損なわれた状態をそのビールの味だと思っている人はどのくらいいるのだろう。ビール工場でできたてのビールを飲んだり、輸入ビールを原産地で飲むと、全く別の味わいに感じる、というのはそういうことなのだ。

補足だが、酸化による香味変化のスピードは温度によって変わる。低い温度で保管した方が酸化のスピードは遅くなる。おいしさをできるだけ保つためためには冷蔵保管が非常に有効な方法。「要冷蔵」と書いていないビールもできるだけ冷蔵保管することをお勧めする。

ガージェリー樽詰のこだわり

酸化が進んでいないビール、すなわちコンディションが良いビールはおいしい。これはまた「飲みやすさ」でもある。ガージェリーは飲みやすい、という感想をよく聞く。濃いビールなのに飲みやすい、その理由はコンディションの良さにある。ガージェリーの樽詰ビールは、「ビール工場で飲むあのおいしさ」に限りなく近いビールを提供することを目指した。そのために、工場で手間がかかろうと、タンクの占有期間が長くなろうと、毎日注文分だけ樽詰め、365日休みなし、冷蔵で飲食店へ直送というシステムを取り入れたのだ。

特にスタウトビールでその意義が大きくなる。なぜなら消費量の少ない濃色系のビアスタイル(黒ビール)は、流通過程で在庫期間が長くなる傾向があり、劣化する恐れが大きいから。スタウトビールを最大限においしく飲んでほしい、それが樽詰めのガージェリースタウト、2002年のガージェリーの歴史の出発点だった。

そう、こんな話をあらためてしたのは、2022年12月が、ガージェリースタウトの20周年になるからだ。

※ガージェリーは樽詰めと瓶詰めで「酸化劣化」に対する“答えの出し方”が異なっている。それについては、こちらが詳しい。

⇒ ひとつの信条、ふたつの“かたち”

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