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憧れじゃなくなった広告業界

私が大学生の頃、大変な就職難でした。
そこで将来役に立つ武器を持つため、当時まだまだ普及期にあったパソコンの勉強を始め、そのおかげもありIT系の仕事を得ることができました。

その頃の記憶をたどっている際、少し苦い思い出が蘇ってきました。
それは「テレビCMや映像を作っている会社を紹介してもらえる予定だった」というものです。

それは広告代理店ではなく制作会社でしたが、とある講師の方が実は制作会社の役員で私のことを気に入ってもらえて、もし興味あったら推薦してあげるというのです。

すでに就職が非常に厳しい時代でしたのでその話はとてもありがたく、そのお誘いに乗ろうと考えましたが、結局違う道を選びました。
私はなぜそうしたのでしょうか?


80年代までの輝いていた広告の嘘


今CMの世界と言っても、その手の職人や専門家のいる場所、一般人にはよく分からない華やか(?)な広告代理店、または忙しくて休みのないブラックな業界といった印象を持たれる方が多いと思います。

2024年卒の学生就職ランキングで電通は107位となっています。

最近広告代理店というワードが世間に流れたのは、オリンピックでの賄賂やコロナ関連で多重下請けの中抜きに加担したなど不名誉な事件が多いです。
電通の高橋まつりさんが自殺したことでブラックな労働環境が大きく改善したというのも記憶に新しいところです。

(先日の芦原妃名子氏の件といい、なぜ昭和から続く古い業界は人が死なないと変われないんでしょうか・・・)


しかし特に80年代、CMはみんなが憧れる名誉な仕事で流行文化の一翼を担っており世間で常に話題になっていました。
当時の流行語や人気者の多くがそこから生まれています。

この80年代の有名なコカ・コーラのCMは、いまだにYouTubeにファンが高画質でアップするほどの人気で、今見ても爽やかすぎて噓みたいに感じます。

しかし現在は、なぜかそのような力はまったくなくなりました。
昨年話題となったテレビCMを思い出してもそんな感情にはなりません。


振り返ると、高度成長期からバブル景気の頃までの25年くらいが広告業界の天下だったように思います。
でも当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったその世界も、今ではその栄光が信じられないほど普通になりました。

そもそも、なぜ当時は商品やサービスそのものより、ただの表層的な宣伝のほうが注目されることがあったのでしょうか?
少し考えればおかしいと気づくのに、そんな考えがまかり通っていた当時の常識に対してむしろ大きな疑問を感じます。

広告が非常に注目されていた時代というのは、実は噓が好まれるおかしな時代だったということなのかもしれません。
もしかしたら、ただ昭和のいい大人が騙されていただけなのかも。


私がCMや映像を仕事にしなかった理由


当時の私の選択について思い出してみました。
なぜ映像系ではなくIT系だったのか。
それは非常に単純で、「ITが新しかったから」です。

ひとつ補足しなければいけないですが、90年代の広告業界は今のようにマイナーではなくまだ十分に目指すべき価値があると思われていました。
ではなぜ私はIT系に行こうとしたのかというと、それにはある印象深い思い出があります。


学生時代に業界の研究を兼ねて広告会社や制作会社にバイトに行ったことがありました。
仕事自体はどうでもいい雑用だったのですが、自分の目で仕事の現場を見てみたいと思って話を聞き回りました。

しかし当時流行り始めていたパソコン等を利用した仕事というものは少なく、かなりの職人芸的な世界でむしろ新しい技術に対して批判的、もっと言うと邪魔物としか感じていない頭の固い人々の集まりでした。

そしてそれはその後に行った別の会社でも同じでした。
こんな業界に行っても若い自分のやりたいことなどできないし、ベテラン社員はなぜかみんな死にそうな顔色をしているし、直感的に進むべきじゃないと感じました。

あとで聞いたところ、バブル崩壊後の不景気で仕事が一気になくなり、本当に死ぬ思いだったそうです。

ちなみに出来たばかりのIT系業界も仕事が多すぎて死にそうな顔色の人がたくさんいましたが、パソコンが夢の箱と信じていた若い自分にはそんなことは気になりませんでした。


当時の自分をほめたい


ともあれそういった理由で私はまだ出来たての怪しくて小さなIT業界に入りましたが、今となっては当時の若い自分の選択をほめたい気持ちしかありません。

私が映像の仕事に向かう世界線が仮にあったら、そこではおそらく斜陽のテレビ系業界のベテランとして今後の身の振り方に悩んでいたことでしょう。
長い間の激務で体を壊しすでに他業種へ移っていたかもしれません。

あの時大人の勧めに乗っていたらどうなっていたんだろう、というifを考えると、現実は一つの選択しか出来ないのでそんな心配の必要はありませんが、今でも自分が自分じゃないようなとても不思議な感覚に陥ります。



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