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僕は大根おろしが食えない

子供の頃から、大根という野菜が苦手だった。

大根とは、アブラナ科ダイコン属の越年草である。原産地は確定されていないが、地中海地方や中東など諸説ある。日本では弥生時代からそれが伝わっていて、しかし一般に食べられるようになったのは江戸時代からだったという。凶作時や冬場の保存食としても重要で、漬物や切り干しなどの加工法があり地方ごとに様々な工夫がされてきた。

そして最も大事なことは、僕がいちいちこんな説明をしなくても大根なんてみんな知っている、ということだ。(上記の説明はWikipediaより抜粋しています。)


それにしても、なぜ大根だけダメなんだろうか。子供の頃に苦手だった野菜は他にもあるけれど、ナスやホウレンソウなど、今ではどれもおいしく食べられるものばかりだ。独特のにおいと苦みが受け付けられないのは分かっているのだが。

あまりにも大根が苦手すぎるせいで、日常生活においても、大根に対する反応がやたらと過敏になってしまった。

僕は学生時代に寮生活をしていたのだけど、そこの食堂に入った瞬間すぐに察知出来たものがある。それは「味噌汁に大根が入っているかどうか」だ。汁物に大根が入っていると、あの特有のにおいが部屋中に充満するので一瞬で分かる(そして無意識に深い溜息が出る)。

食堂のおかずは各自がひとつずつセルフで持っていく形式だったので、僕は大根味噌汁の日はいつも味噌汁だけ取らずに素通りしていた。「それ」が入っているだけで、汁物の味自体も変わって飲めないのだ。そんなことをやっているせいで、僕の大根嫌いは同級生のあいだでそれなりに有名になってしまった。


ここまで書いておいて手のひら返しになるけれど、こんな僕でも、最近少しだけ大根が食べられるようになった。

おでんのような煮物系の大根や、学生時代あんなに敬遠していた汁物の大根など。特に、豚汁がおいしく食べられるようになったのは嬉しい。おそらくダシが染みた大根なら受け付けられるようになったのだろう。こればっかりは大根のよさを知ったのではなく、ダシの存在が素晴らしいのだと思っている。

その証拠に、生の大根は今でもかなり抵抗感がある。中でもとりわけ、大根おろしはダメだ。とにかくあの強烈すぎるにおいに耐えられない。

レストランで和風系と謳った料理に、何でもかんでも大根おろしを乗せる文化を憎みたい。鬼おろしって何だ、鬼おろしって。僕だけをピンポイントで殺すような料理法を編み出すな。

暑い夏の日に、某有名うどんチェーン店で醤油うどんを頼んだら、当たり前のように大根おろしが入っていた。ふざけるな!田舎にあるうどん屋の醤油うどんには、そんなもの入ってなかったのに!

こちらの料理には大根おろしが入っております、と看板やメニュー表に※印を添えて注釈を入れてもらいたいと切実に願っている。ニンニクとかはその辺、かなり慎重に扱われているのにな。世間はどうも風当たりが強い。

(※実際は鬼おろしって目の粗いおろし器のことらしいですね。調べて初めて知りました。)


こんなふうに、大根おろしに対する愚痴なら温泉のようにどんどん湧き出てくるのだけど、不思議と共感してくれる人が誰もいない。圧倒的マイノリティ感。僕はずっと孤独だ。

人生で唯一、大根嫌いが活きた場面がある。就職活動での面接の時だ。

そこでの面接はほどんどおしゃべりみたいな軽い雰囲気だったんだけど、突然会社のお偉いさんから「苦手な食べ物とかある?」と訊かれたのだ。面接でそんなこと訊くのかよ、と思いながら、僕は迷わず「大根が苦手です」と答えた。そしたら珍しがられて、妙に場が盛り上がった。

そうしたおかげで、僕は無事に就職活動を終えることが出来たのだった。大根嫌いであったおかげで救われたのだ。


ここまで苦手な野菜のことを書きまくったので、最後に少しだけ好きな野菜についても触れておくことにする。

僕はピーマンが大好きです。ピーマンを生で食べるのが好きな人は、僕と握手をしましょう。


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