想像旅行記 第2回~ポルトガル後編~

さて、それでは後半に入ります。今回は旅のエピソードを話していこうと思うよ。まずはベレンの塔についてだ。

ベレンの塔とは、元々ヴァスコダガマの功績をたたえてつくられた塔だ。見た目は白いジェンガのような直方体で、浅瀬に浮かんでいる。浜から塔の入り口まで橋がかかっており、歩きながら、この塔は灯台みたいな役割だったのかななんて思った。背が高かったからね。でも実際は、砲台が置いてあったから、要塞のような使い方をしていたみたいだね。あとこの塔、LEGOで販売してくれないかな、いやこれだったら自分でもなんとかつくれるかなーなどと考えていたら、着いた。

まぁしかし、入る前から実はなんとなくわかっていたんだけど、この塔……狭い。近くで見ると確かに迫力はあるんだけど、人がイッキに何十人~何百人も出入りするという想定をたぶんしてない。特に螺旋階段はかなりコンパクトなつくりだったよ。自分で言うのもなんだけど、このコンパクトって表現イイね。ぜひ、狭いよりコンパクトとかスタイリッシュって言おうね。もう既に一回、狭いって言っちゃったけどもさ。

で入口を少し登ると、踊り場のような場所があるんだけどさ、そこで面白いことがあったんだ。

※注意 ここから本格的に話が脱線します。


穏やか~に一面に広がる海を映画のタイタニックよろしく眺めてるとさ、話しかけてくる人がいてさ「ヘーイ、ドモコンニチワー」とかって、よくいらっしゃるじゃないこういう人、外国行くとね。いつもだったらこっちもテキトーに返すんだけど、その時は気分がノッてたもんだから、ついついノリノリで「コンニチワぁ~」って返しちゃったんだよ。

今思えばここが運命の分岐点だったんだな。こっちが返事すると、相手は「ワタシハヴァスコダガマノマツエイデース」って言ってきたんだよ。いきなりマツエイとか言われてもわからなくてさ、聞き返しちゃったよ。「え、え?」て。そしたら相手「マツエイ、シソンシソン」て。いやいやいや、何でそんな日本語知ってるんだって。だいたい末裔って漢字で書けって言われたらないよねフツー、変換できてるだけでさ。話の内容以前にツッコミどころ満載でさ、しかもそれだけじゃないんだよ。

その人さ、見た目はヒゲが濃くて目がギョロっとしてて歳は30後半くらいだったと思うんだけど、Tシャツを着てささ、真ん中にひらがなで『ぺりー』って、ぺりーってあのぺりー? わからないけど、おかしな人であることは確かだよね。ただその時は、愉快な人だなぁくらいにしか思わなかったんだ。だからみんなも旅をした際は気をつけた方がいいよ、世の中いろんな人がいるからね。

でそのぺりーさんなんだけど「ワタシニホンスキアンナイシマス」ってついてくるわけよ。んで、螺旋階段登ってる時もぴったり張りついてくるから狭いのなんのって。でもまぁ楽しそうだからいいやって、ついていくことにして塔を後にしたんだ。

そして連れていかれたのは、大きな石碑がある場所だった。船のような形の坂に人の像がいっぱい並んでて、こちらもタイタニックよろしく海を見渡していたよ。

ぺりーさんは言ったよ「ワタシノセンゾココニイマス」

つまりあすこにいるのがヴァスコダガマって言いたかったんだろうね。本当に先祖かどうかは置いといても、どうやら歴史上の人物たちを現してることは確かだった。

「へぇ~すごいなぁ……大航海時代にさ、かの偉人たちは、この海からどこまでも行ってやろうと、世界をまたにかけてやろうと胸に誓ったわけだよ。わかるなぁ、私もなんだか行きたくなっちゃったよハハハハ」この発言に深い意味はなかったよ。ただ、なんとなくノリで言っただけだったんだ。

するとぺりーさん「デハイッテミマスカ?」

私:「ん?」

ぺ:「航海シテミマショウ。ダイジョウブ後悔ハシナイカラ」

私:「ちょっと何言ってるかわからないな」

ぺ:「アスノヨルマタココニキテクダサイ。マッテマスヨ。ソレデハ!」

そういうとぺりーさんの身体はもわもわと白い煙に変わっていき、なんと像の中に吸い込まれて消えていったんだよ。信じられないだろ? わかる、わかるよ。それを見た時、私の魂もどっか行ってたよ。それからはもう気が気じゃなかったね。もうボーっとしてそのままホテルに帰ってさ、あれはなんだったんだって、ずっとそれ。

まぁ、でもずっと考えてても仕方がないから寝てしまったよ。次の日、起きた時はもう夢でも見てたんだなぁと思って、一旦考えるのをやめてみたね。それでベレンの塔と同様、世界遺産であるジェロニモス修道院というところに行ったよ。

この修道院は珍しい構造をしていて、天井がないんだ。修道院なのに天井がない場所は他にはないんじゃないかな? 中に入って歩いてみると、どちらかというと修道院というより、城の中庭にいるような感じだったな。広場がありましてな、寝っ転がって休むことができたんだよ。そこで休んで天空を眺めていますとな、あ~いつか本当にここにきた――いやいや、非常に素敵な時間を過ごすことができたよ。無になれたよ無に。やっぱ修道院ってそういう神秘的な何かがあるんだね。

しばらく休んだのち、修道院を出て街をぶらぶらしてると夕方になってきたんだ。その時、昨日の出来事を思い出したよ。うん、ぺりーさんね。あの記念碑のところに来いって言ってたな、そういえば。うーん、どうせ何も起こらないんだろうけど、夜の海でも見に行ってみようかな、キレイそうだしな。同じ場所でも時間を変えて来てみると印象全然違ったりするからな。

というわけで行ってみることにしたよ。

行ってみるとなんだかまぶしかった。なんだなんだと、目を凝らしてみると、え、マジかよ……

船がある。豪華客船というほどではないが、金持ちが持ってそうな、一家族には充分すぎるくらいの大きさのクルーザーだ。

呆然と突っ立っていたら船から人が降りてきた。

あのぺりーさんだ。今度は海賊みたいな恰好をしている。

「おお!来たかぁー! 準備はできたかぁーこっちはバッチリだ!」

昨日と何か違くないすか……。

「おいおい、何ぼーっとしてやがんだ。ホラ乗った乗った!」

考える暇もなく船に乗っていたよ。

「おーよく来てくれたな。これからお前さんを無事故郷まで届けるからよ、旅の締めくくりとして楽しんでいってくれい」

「あ、あの。この船なんすケド……」

「どうだ、スゲーだろ! 設備もバッチリついてて至れり尽くせりなんだぜ」

「そうっすか、アハハ」その時、私が聞きたかったのは、そういうことではなくて、なんで海賊船みたいなヤツじゃなくて現代的な船なのかという疑問だったんだけど、ただでさえボーっとしてたし、取るに足らない質問だと思って流したよ。

「おっと、じゃあオレの仲間を紹介するぜ。おーいお前らー」

集まって来たのは5人で、ぺりーさんと同じく海賊みたいな恰好をしてたんだけど、それがコスプレだったのか、マジだったのか、今となってはわからないな。彼らはツッコむ暇を与えてはくれなかったんだ。みんなに挨拶を済ませると、ぺりーさんは夜空に向かって声を張り上げた。

「野郎ども行くぞぉ~! しゅっぱ~つ!」

後からわかったんだけど、それから一週間ほど航海をしていたらしい。

航海はたまにこき使われたけど、とても楽しかったよ。それで到着した場所はもちろん浦賀だったさ。

歴史的には種子島だったはずなんだけど、まぁ種子島から自宅まで遠かったから、結果的には良かったよ。

到着すると、ぺりーさんたちはしばらく遊んでいくぜといって、街に消えていったよ。それであれ以来、まったく会ってないんだ。何日かぶりに港に行ったら船も消えていたしね。当然このことを誰かに話しても信じてもらえないよ。かく言う私も半分は夢だと思ってるからね。

それでもいつか再びポルトガルに行こうと思ってるよ。

理由はもちろん、置き忘れてきてしまった荷物を取りに。

送ってもらえだなんて、野暮な発言はおよしなさいよ。

自分で取りに行くことに意味があるのだから。


それではまた。







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