知的財産権は将来の安心を買うための保険である
40代弁理士の石川です。今日は、知財に全く馴染みのない業界の方から良くある質問とその質問への回答について説明し、それをベースにこれからスモールビジネスをはじめたい方に向けてメッセージを書きます。
これから弁理士を目指す方には、弁理士業への理解の一助となればと思います。
「知的財産権って、取ったところで何か意味があるんでしょうか?」
弁理士の私に対してたびたび投げかけられる質問です。それに対する回答として、私は、以下のような表現で説明するようにしています。
「意味がないと感じるのも無理はありません。知的財産権は、生命保険のガン特約のようなものです。ガン特約には、何のために入るのでしょうか?すべての人がガンになるわけではないですよね。多くの人が加入するのは、将来の安心を買うためですよね。」
「特許をはじめとする知的財産権も全く同じです。知的財産権は、将来、競合する他者が自社製品を真似できないようにするための保険のようなものです。その効果は、知的財産権が何かの理由で消滅したときに初めて分かるもので、普段はその恩恵を感じることができないのです。」
「ガン特約も同じですよね。健康なときには、その恩恵を感じることができません。もし、自分が、将来、ガンになってしまったときに、治療費に充てるための保険金が出て、安心だということと全く同じです。」
では、事業における競合の他者(他社)は、本当に現れるのでしょうか?
現れるとしたら、どのタイミングで現れるのでしょうか?
1.競合は成功しているビジネスに対して必ず現れる
上記では、特許をはじめとする知的財産権は、生命保険のガン特約のようなものだと説明しました。しかしながら、決定的に違うのは、ガンは、すべての人がなるわけではないのに対して、成功しているビジネスに対する競合は、必ず現れるということです。
しかも、あなたのビジネスが、今、まさに成功しようとするタイミングで、これからやっと設備投資を回収できるという時期に現れることが多いのです。
人は、他人の成功がうらやましい、他人の成功にあやかりたいと思うものです。著名人が書いた自己啓発本やノウハウ本がたくさん世に出ているのがその証拠です。
また、他人が成功しているビジネスは、画期的であることが多く、それを見た人が真似して行ったとしても同じように成功できる、いわゆる再現性が高いものです。
このため、自分も同じように成功したいと考えるのであれば、その成功している方のビジネスをそっくりそのまま拝借するのが効率的です。
このため、あなたのビジネスが将来もし成功した場合には、それを見た他社があなたのビジネスにあやかりたいと思い、同じようなビジネスを開始するのです。
2.あなたは何のためにビジネスをはじめるのでしょうか?
あなたは、成功するためにビジネスをはじめたはずです。誰も失敗しようと思ってビジネスをはじめることはありません。
そうだとすると、あなたのビジネスが成功する見込み確率は、100%です。
そして、私の説が正しいとすれば、成功しているビジネスに対しては、必ず競合が発生するのですから、競合が発生する見込み確率も100%です。
よって、あなたは、ビジネスをはじめるに当たって、どの程度、知的財産権の手当てをしなければならないでしょうか?お店の屋号について商標権を取らなくても良いのでしょうか?新製品について特許権や意匠権を取らなくても良いのでしょうか?
あなたのビジネスが成功する見込み確率が100%で、競合が発生する見込み確率が100%なのに、知的財産権への手当ては、しなくてもよいのでしょうか?
それは、ビジネスという家を立てるの際して、屋根を支える大黒柱を省略しているようなものです。我々弁理士からみれば、あなたは、必要な設備投資を怠っているといえるのです。必要な設備投資を怠ったあなたは、将来、必ず試練(ビジネスという家が崩壊する危機)に立たされることでしょう。
3.ガン特約は、ガンに罹患してからでは入れない
当たり前ですが、ガン特約は、実際にガンに罹患してから付けることはできません。火災保険も、自宅が火事になってから入ることはできません。
特許権や商標権をはじめとする知的財産権も、競合が現れてから取得することはできないのです。それが、ビジネスというゲームのルールです。
特許・意匠を取得するには、新規性が必要です。あなたが、すでに商品を販売している場合には、その商品について新規性を失っているのですから、後からその商品に対して特許権や意匠権を取得することはできません。
商標権についても同様です。競合は、あなたのビジネスを良く観察しています。抜け目ない競合相手は、あなたに先んじて、あなたの屋号を商標登録出願して、商標権を横取りすることでしょう。商標法は、先願主義を採用しているので、競合を知ったあなたが慌てて出願した商標登録出願は、競合に取られた先願商標の後願として拒絶されてしまうでしょう。
競合は、さらに悪いことに、横取りしたあなたの屋号の商標権が無敵になったタイミングで、本家であるあなたに対して、商標権侵害であるとして権利行使をしてくることでしょう。商標登録に対する無効理由には、除斥期間があり、商標権の設定登録から5年を経過した後には、無効審判を請求することはできません。その商標権は、ある意味で無敵になるのです。
盗人猛々しいと怒ったところで、後の祭りです。あなたに残された手立ては、ほとんどないのです。知的財産権の設備投資を怠ったあなたは、真似されるべくして真似され、自分のビジネスの崩壊の危機に立たされたのです。
知的財産権を取得しないということは、我々弁理士から見れば、世間に対して、どうぞ真似してくださいと意思表示をしているのと同じことです。
4.では、どうすればいいのでしょうか?
事業をはじめるには、きちんと設備投資をする必要があります。知的財産権を取ることも、必要な設備投資です。画期的な新製品を発売するのに先立ち、特許権や意匠権を取得することは大切なことでしょう。お店や会社の屋号についても、きちんと商標権を取得することが必要でしょう。
当たり前のことを当たり前のようにすることが大切です。ビジネスをはじめるのに設備投資は必要なのです。なぜ、店舗や工場の設備にはお金をかけるのに、知的財産権にはお金をかけないのでしょうか?
知的財産権で裏付けられていないビジネスは、大黒柱のない家と同じです。いつ崩壊の憂き目に合うか分からないのです。
5.まとめ
我々弁理士は、知的財産権を取っていないけれども、どうにかなりませんか?という相談を日常的に受けています。そのたびに、「残念ですが、今回のように御社が知財を取っていないケースは、何のアクションも取ることができません」という回答をこれまで沢山してきました。
知的財産権は、生命保険のガン特約のようなものです。将来の安心を買うためのものです。
ビジネスという荒野を前進して行くためには、自分達で知的財産権を取得して、それによって安全地帯を確保しながらでなければ、前に進むことはできません。
知的財産権を出願するということは、他社に知的財産権を取られないようにするための手段でもあるのです。自分達で知的財産権を持つということは、ビジネスという荒野で安全地帯を確保するという意味があるのです。
あなたが知的財産権をうまく活用して、自己のビジネスで成功されますことを祈念しております。
これからスモールビジネスをはじめられる方の参考になればと思います。
弁理士の石川真一のフェイスブック
facebook.com/benrishiishikawa
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