回想のブライズヘッド

特に好きな小説だ。

他の人が書いた感想を見ていて、セバスチャンが破滅していくことをコーデリアが彼みたいな人が神の一番近くにいると言ったのを、キリスト教の考え方で、悪人正機のような意味だろうと書いてあったのを読んだ時、それは違うと思った。

その感想を書いた人はきっと破滅への憧れを抱いたことがないのだろうと思った。憧れ、と書くとおかしな感じだが、現実に触れてみて、感度が高い人程自分には破滅こそふさわしいと感んじてしまうのではないか。詩人の目を持ち四六時中それを使っていたら、すぐに気が狂ってしまう。だから自ら進んで盲目になる、或いは酩酊し、ゆっくりとした自殺を行っていく。セバスチャンはカトリックの教えを、聖書に書かれていることは全部真実だと信じることにしていた。何故ならそれはそちらの方が美しいからだ。

美しいものを信じ、それを失わないでいるには、彼が進んだ道のりしかなかったのだと思う。神の一番近くにいる、というのはそういう意味でだと思う。少なくとも自分はそう読んでいた。

そちらの方が美しいから。そちらの方が面白いから。そう信じる。

それらのメッセージが、青春という一言で片付けられることなく、大人になっても人は見たいものを見たいようにしか見ておらず、人から美しいと言われたものを美しいと思い、醜いと言われたものを醜いと思っている。そういったところまで響いてくる。

あと好きな箇所で、主人公が絵の個展を開いて、盛況の中、古い友人が訪ねてきて、主人公が絵の感想を訪ねた時に、「クソだってことはわかってるだろ?」と言われる箇所がある。主人公もわかっていたが、そうであって欲しくないと思い、周りの人から褒めそやされる毎に自分でもそう思い込もうとしているところへの一言だった。そのお互いに対する精神的貴族ともいうべき信頼感が心地良かった。

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