(過去作品紹介)三題噺『ゾンビがゆく』
昔、就職活動でむしゃくしゃしていた時などに、「マスコミの筆記試験対策」として、三題噺をよく書いて、SNSやらアメブロやらにアップしていた。
その中から、比較的気に入っているものを、ここに再掲載。
ゾンビがゆく(お題;ゾンビ、ミネラルウォーター、車)
俺はいわゆるゾンビという奴だ。
名前?そんなもの、言ったってどうせお前らには関係のない事だろう。妖怪と友達になるなんて設定の、ジュニア小説とか漫画とか見ても、名前がついている、おまけにそれでちゃんと呼ばれる事なんてレアじゃねえか。
だから言わねえ。
へっ、別にふて腐れてねえよ。まぁ、この体はあちこち腐っているが、死んでからかなり経っているから当然といえば当然だ。そしてその間に驚くほど道具やら社会の仕組みやらが変わっていった。
この「車」という乗り物もそうだ。こうして座って目の前の輪や足元の出っ張りを踏みつけるだけで移動できる。人の足等比較にならない。
これははまる。
だが、困る事もある。
この前人にぶつかりそうになった。
とりあえず謝った方が良いのだろう。相手の女が実を言うと少し俺の好みだったというのもある。
だが、俺が車から降りるや否や、女は甲高い悲鳴を上げて逃げ出した。
こういう事が続くと、生前は忍耐強さで評判になった事のある俺でもさすがに凹む。
なんとかならないだろうか。大人しくあの墓の中で眠っているべきだっただろうか。
そんな事をつらつらと考えていると、車の窓をたたく音。目が合うと、白衣の女は逃げ出すどころか優しく微笑みかけてきた。
「お困りのようですね」
見知らぬ人間にこんな対応をされるなど初めてだ。言われるままについていくと、そこは薬屋らしい。そして女はそこで働く薬師だそうだ。
「こちらをどうぞ」
と差し出された瓶を俺はすぐに飲み干した、一息ついたところで瓶を見ると、巻かれた帯に何か書いてある。みねらる、うぉーたーと読むのだろうか?
「水という意味です」
おい、死人につける薬がないんだったら最初から言えよ。なんでこんなものを押し付けるんだ。まさか、とんでもない金額ふっかけんじゃねえだろうな。さすがに俺でも怒るぞ?
すると、薬師はにっこりと笑った。
「薬というのは、『直った』という暗示による効果も含まれるんですよ。江戸幕府の開祖、そして私が最も尊敬する人物である徳川家康はそうして、70代まで生きたそうです」
あのさあ、その徳川家康って俺なんだけど。
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こんな感じの変な話を、定期的に上げていけたらいいなあ…そして、マガジンを作ってまとめたい。
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