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絶望という名のドレス。



目が覚めて よだれをふいたら 窓辺に光が 微笑んでた
(星野源/Family song)

目が覚めて リビングに出たら 朝の光のなかで
…約2週間前からコツコツとすすめている
年賀状書きに大忙しの夫… が、おった。

「ねえ飼い猫のお尻が最近ゆるいみたいなんだけど」

という会話から始まった、とある朝。
2018年の仕事納めの日に書きなぐったコラムです。

✳︎

社会に飛び出て12年目。
独立してはやくも5年半がたつ。
わたしはけっこう「着道楽」なタチで、洋服が好き。
洋服まわりのものも大好き。
制服がない職業なので、基本的に毎日私服で仕事をしている。

そんなわたしの2018年。
結婚式が多い年だった。
大学時代の親友、社会人になってからの大切な友人たち、
そして夫婦でお世話になっている親戚みたいな子。
どれも大事な人たち。
しかも、しかも、割とメンバーがかぶっていた。
さすがに着ていくものなくなるよね。


そこで、だ。
ここらで一生使えるドレスを買おうじゃないのと思い立ち、
鼻息あらく、熊本の街なかにある、
とある有名セレクトショップの門を叩いた。


「名前は知っているけど一度も中に入ったことがない」


そんな憧れのお店の筆頭株にすすす…と入店。
ふだんはきっと常連さんが多いのだろう。

「この人誰」的なわたしが入店したとたん、
イケてる定員さんがぎょっとおどろいた感じが否めなかった。


見っけ。


ひと目で、すきだと思うドレスに出合ってしまった。

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大胆なカッティングが効いたブラックのロングドレス。
そのブランドの特徴であるくるみボタンと
ううん…ええと…ごめん
言葉では説明しにくい、「ならでは」の気品が
とにかくマイバストをたかぶらせた。


これがほしい。

はい、秒でタグひっくりかえす。
100,000円。
じゅっ…。

でもほしい。

「お客様〜このブランドご存じですか?」
「ししし知ってます!」
「わ〜お目が高い!」
「小松菜奈ちゃんとかperfumeがよく着ていますよね!」
「そうなんです、よくご存知で!」


やっぱりほしい。

「この上品なブラックが良いですよね〜」
「ええほんとに」
「一生着られると思います」
「そうですよね…」
「はい! お客様の雰囲気に似合われると思います」

どうしてもほしい。

「試着されますか?」
「いえ結構です」


知っている人は知っている。
わたしは試着が嫌いです。
だからほとんど試着をしない。

もうマジでめちゃ高いけど、どうしても欲しい。これを着たい。
(がんばって働いているから、いいやろ…)
ふるえる手でカードを取り出し、購入(ローンです)。
「お客様、ありがとうございました〜!」


滞在時間10分。
「わたしはがんばっている」
「わたしは間違っていない」
「きっと会場の視線はこれで独占だろう」
なんどもブツブツとくりかえし、帰宅した。


ドレスに合わせるヘッドアクセは、ネックレスは、靴は。
るんるん顔で、帰りつくなりドレスを着た。
着た。
着た? 
着れなかった。
入らなかった。


わたしはおどろいたときに顔が紅潮するのだけど。
真っ赤っ赤。
ド・レ・ス・が・は・い・ら・な・い・の。


前述したが、このドレスは胸元の大胆なカッティングが特徴。
ドレスを着てアンニュイな表情を魅せる
外国人のお姉さんの画像もwebでチェック済みだった。
やべえなあんな風になれるんだな…と思っていた
頃のわたしをぶん殴りたい。


「この鏡の前にいるエロばばあみたいな人は誰かな?」



大胆なカッティングがあだとなり、胸元は大きくはだけ。
腰回りのカーブは外国のベテランオペラ歌手を彷彿とさせ。
なぜ小松菜奈ちゃんが着ているドレスをわたしが着られると思ったんだろう。
絶望という名のドレスを秒ではぎとり、そっと紙袋に戻した。


それにしても100,000円は痛いわ。
こうなりゃ開き直って、
「何本原稿書かなあかんねんな〜」と笑い話にしようと思っていた矢先、
撮影の合間に、悪友カメラマンにこの話をした。
ひとしきり大笑いしたあとに(笑うな)、彼女が
「写真を撮ってメルカリで売ろう」と言った。


そこからはお互いの本領発揮。
ふだんの仕事より具合いいんじゃないかという写真を撮り、
ふだんの仕事よりエモい商品コメントをわたしが書いた。


結果。
なんと。
同額で売れた。
しかも速攻。


後日届いた、
「このドレスを着て楽しんでくださいね!」と書かれた
お店からのショップカードは、遠く見えないところにしまった。


ちなみにわたしは
「生きていく力が弱すぎる」ので、
商品の発送はカメラマンにやってもらった。
佐川とか、クロネコとか、ゆうパックとかが何のことかわからないんだ。
なんならご丁寧にドレスにアイロンかけようとしたら
「絶対かけるな、うちまで持ってこい」と言われた。


ドレスを購入されたのは大阪の女性だった。
FBでちらりとお姿を見てみたら、
ヘルシーで、とても美しい人だった。
ピアノの弾き語りで歌をうたったりしているらしい。

きっとあなたには似合うだろう。
絶望という名のドレスを着て、うたってほしいな、希望のうたを。


2019年3月まで、あまりに忙しくて。(ありがてえこってす)
ずっと始めたかったnoteは開かれないままでした。
2020年5月。あまりに時間がありあまっていて。
おずおずと、始めてみようとおもいます。
ずっと誰かのために書いてきたから。
自分が読みたいものを、書いてみようと思います。

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