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思い出の京都旅行

「紅葉が見ごろになってきましたね」

テレビから流れるアナウンサーの声を聞くと、6年前の旅行を思い出す。私たち三姉妹と母と祖母の5人で、初めて京都に一泊二日で出かけた。祖母をどこかに連れて行ってあげたかったこと、大人になってから母とゆっくり旅行したこともなかったので企画した。
11月の京都にしようと決め、妹たちと相談して半年前に旅館を予約した。当時娘は年長、上の姪っ子は二年生、下の姪っ子は四歳。快く送り出してくれたお互いの家族に感謝しながら迎えた当日。

私は東京から、下の妹は名古屋から、母と祖母と真ん中の妹は神戸から出発して京都駅に集まった。祖母は81歳、あまり歩けないことから観光タクシーで向かったのは清水寺。紅葉は見ごろには少し早かったものの、みんなの

「うわぁ、きれい!」

と言いながら写真を撮る様子で私も十分楽しめていた。黙って隣を歩いている母にはそれが伝わっているようだった。祖母はずっと

「ほんまにきれいねんで。あんたにも見せてあげたいなぁ」

と言っていたので

「うんうん。みんなの様子見てたらちゃんとわかるねんで」

と伝えると

「そやな」

とはつらつとした声が返ってきた。私たちがそんな会話をしていると

「はい、もう一枚撮りますね!」

妹が写真を頼まれている声が、たくさんの足音や話し声に混じって聞こえた。

「お母さんのために縁結び行こうよ」

誰かが言い出せば

「ほんまや。新しいお父さんほしいなぁ」

と誰かがのっかる。私たちの会話を聞いていた祖母が

「あんたら、新しいおじいちゃんはいらんのか」

と言えばみんなで爆笑し

「そうやん、こちらも独身やったわ!」

と返してまた笑う。どんどん話題は移り変わり

「あっちのお土産屋さん行こうよ」
「あそこ試食やってるやん」

真ん中の妹が祖母と手を繋ぎ、下の妹が後ろから身体を支えながら歩く。その後ろを母と並んで私が歩く。周りのお店からの呼び込みの声、たくさんの人の足音や話し声。五人で来られて本当によかった。清水寺で写真を撮り終わった後に祖母が言った。

「清水の舞台から飛び降りるって言うけど、こんなに人おったら飛び降りても助かるな」
「確かに!」

笑いながら突っ込んでまた笑って。このときみんなで撮った一枚は今も宝物になっている。

旅館に到着して早速お風呂に向かおうとしていると、ガサガサとビニール袋の音。

「これ持ってきてん」

祖母が袋から取り出したのは、身体を洗うタオルだった。

「みんなの背中洗ってあげようと思って」
と嬉しそうな様子。お風呂で全員の背中を洗ってくれた。

お風呂から上がるとすぐに夕食。みんなでおそろいの浴衣を着て、料理を前に中井さんに写真を撮ってもらった。ご飯を食べ終わった後に、祖母にサプライズを用意していた。清水寺で撮った写真、ひ孫たちの写真、母と祖母の写真をコンビニで印刷して写真縦に入れてプレゼントするというものだ。妹たちが飲み会のお酒やお菓子を買いに行ったときに、コンビニで写真を印刷してくれていた。写真縦は買って持ってきていた。祖母に渡すと

「えっ!?さっき撮った写真やん。なんでもうこんな風になってるん?」

とびっくりしていた。母にも同じ写真縦を用意していた。自分にまであると思っていなかった母は

「私もあるん?ありがとう」

と喜んでいた。母の写真を見た祖母が

「あんたの写真よりうちの写真の方が光沢がええわ」

と言いまたみんなで笑った。一部始終を撮った動画はまだ辛くて見ることができない。動画を見るときっと母がいない寂しさに耐えられなくなりそうだからだ。
祖母をどこかに連れて行ってあげたいと思って企画したこの旅行が、母との最後の旅行になった。毎年紅葉のニュースを見る度に、このときみんなで大笑いしたこと、人ごみの中を歩いたこと、みんなで食べたご飯を思い出す。
もう母には会えなくなったけど、楽しかった旅行を思い出すと悲しみが少し癒える気がする。

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