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母が残してくれたもの

3月、娘の小学校卒業記念に、カメラマンに写真を撮ってもらった。

「撮影のときに、忘れずにランドセルを持ってきてくださいね。6年間一緒に過ごしたランドセル姿は絶対残した方がいいです」

カメラマンの言葉に、スーツケースにランドセルと卒業式用の服を入れ、家族でスタジオに向かった。ランドセルは、2年前に亡くなった私の母が買ってくれたものだ。
私と娘と母と祖母、4人で下見に行き、娘と母の二人で翌日買いに行っていたことをよく憶えている。ランドセル姿の娘の写真をたくさん撮ってもらい、亡くなった母との記憶を形に残してもらうことができた。撮影が終わった後、ランドセルは大切にしまった。出来上がったデータを印刷し、アルバムにして祖母に送った。

「今届いた写真見てるねん。かわいいなぁ!」

という祖母に

「このランドセル、お母さんが買ってくれたやつやねんで」

と言うと

「そうやったなぁ」

と思い出しているようだった。

4月、娘は中学生になった。新しい制服に腕を通し、期待と不安が入り混じっている様子が伝わってきた。たくさんの人から「おめでとう」と言ってもらい、迎えた入学式。娘に大きな変化がある度に、亡くなった母に娘の姿を見てほしいなと思う。小学校卒業式の様子、新しい制服や中学での様子、母はきっと

「よくがんばってるなぁ。制服も似合ってるわ」

と言いながら娘の話を聞いてくれていただろう。

亡くなる前に母が4人の孫に用意してくれていたものがある。高校卒業までの入学祝いだ。母が亡くなった時4年生だった娘には、中学と高校の入学祝いをそれぞれ用意してくれていた。母が緩和ケア病棟に入院した後、実家を整理してくれていた妹が見つけてくれた。お祝いを見つけたときには、もう母は話せる状態ではなかったので、直接お礼を言うことはできなかった。どんな気持ちでこのお祝いを用意してくれたんだろう。直接自分の手で渡したかったに違いない。でも、それができないとわかって、残しておこうと思ったのではないだろうか。

先日娘に母からのお祝いを渡した。

「ママ、預かってたの?」

と驚きながら、丁寧にお祝い袋を開けていた。娘の名前と母の名前「中学入学おめでとう」と書かれていた。

「字が震えてるね」

と娘が教えてくれた。亡くなる1カ月ほど前に書いたのだと思う。一人で外出できなかった母は、妹に

「お祝いの袋がいっぱいほしいねん」

と言って、一緒にお店に行ってもらっていた。一生懸命書いてくれた母の直筆の封筒。

「ママこれ欲しいでしょ」

と言って、娘が渡してくれた。中身のお祝いはもちろん娘のものだ。

「遊びに行くときに使う」

という娘に

「好きなことに使ったらいいと思うよ」

と伝えた。

「当たり前やん!好きなことに使うために渡したんやから」

お祝いの封筒をしまいながら、母の声が聞きたいなと強く思った。3年後、母から預かっている高校入学のお祝いを娘に渡すときには、どんな気持ちで母の事を思い返しているのだろう。中学入学の時のことを忘れないようにここに残しておこう。

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