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【甘草屋敷】県内最大規模のひな飾りを見に行く

はじめに

 甘草屋敷(旧高野家住宅)は甲州市塩山に所在する江戸時代後期に建てられた民家です。母屋を始め屋敷の建物の多くが国の重要文化財に指定されています。
 1993年(平成5年)高野家より母屋が塩山市に寄贈され、その後、敷地及び他の建物が公有地化され整備が進められました。市町村合併を経て現在は甲州市により管理運営されています。
 甘草屋敷は、今年で21回目となる「ひな飾りと桃の花まつり」(2023.2.11~4.18)の中心会場として母屋を飾るひな飾りは山梨県下最大規模です。期間中多くの来場者が訪れます。ほかに、甲州市内の宮光園旧田中銀行博物館などの施設でもひな飾りが行われています。
 甘草屋敷はJR中央線塩山駅の北口に面しているため鉄道利用には大変アクセスのよい場所です。

塩山駅北口から正面です
北口にはライオンズクラブによる信玄公像があります

甘草屋敷

 高野家は漢方薬の甘草を栽培し、幕府へ納めていたことからこの屋敷は甘草屋敷と呼ばれていました。
 屋敷の所有者であった高野家は江戸時代に薬草である甘草を栽培し幕府へ納めていたことからこの屋敷は甘草屋敷と呼ばれていました。
 1993年(平成5年)高野家より母屋が塩山市に寄贈され、その後、敷地及び他の建物が公有地化され「薬草の花咲く歴史の公園」として整備され公開されています。なお、1996年(平成8年)には5棟の建物(巽蔵たつみぐら、馬屋、東門、文庫蔵、小屋)も重要文化財に追加指定されています。

甘草屋敷の公園整備図
甘草の試験圃場

母屋

 母屋(主屋)は大型の切妻造の民家で、桁行十三間半(24.8メートル)、梁間六間(10.9メートル)です。1953年(昭和28年)と早い時期から国の重要文化財に指定されています。1960年(昭和35年)には、保存のため屋根を茅葺きから銅板葺きに改修されました。

正面から
土間の受付へ

ひな飾り

 母屋に入ると土間に受付がますので見学料を払います。母屋以外の建物と「歴史の公園」の散策だけであれば無料です。

土間から見たひな飾り

 母屋ではひな人形や吊るし雛など2000点を展示しています。2年ぶりにボランティアガイドの方の解説が聞けます。また質問にも随時答えていただけます。

昭和から平成の七段飾り
高野家の七段飾り

 御殿飾りがあります。大正から昭和30年代にかけて広まりました。京都御所の紫宸殿をモデルにしたひな飾りです。

数々の御殿飾り

 こちらに展示されているひな人形で最古ものは享保雛です。江戸時代中期の享保の年間に流行したものです。切れ長な目の面長顔が特徴で、大ぶりな人形です。

中央が享保雛

 享保雛のとなりには、1933年(昭和8年)の皇太子(現上皇)誕生記念してに作られた、ひな人形があります。

上段が皇太子誕生記念のひな人形

 下には五楽人の人形です。五人囃子とは楽器などが異なります。江戸時代文化年間のものです。

五楽人

 御所人形は宮廷や公卿に用いられた人形です。ぽっちゃりした体に小さな目鼻立ちの顔が特徴です。三頭身のため三ツ割人形と呼ばれました。

御所人形

 甘草屋敷のひな飾りの豪華さに一役買っているのは、吊るし雛です。吊るし雛は、雛壇の両側に、縁起ものを作り下げるものです。ちりめん和紙で作られています。縁起ものは、赤ちゃん、毬、犬、野菜などそれぞれ意味が込められています。

吊るし雛

 吊るし雛の量が大変多いのですが、甲州市在住の志村とみさんが制作教室をして広めたそうです。市内の家庭で作られたものをこちらで吊るしています。

二階へ上がる階段の両側に吊るし雛

 さらに高いところには額に入った押絵雛おしえびながあります。布地で立体的に雛を表現するもので信州松本地域の伝統工芸です。松本で藩士の家庭の婦人によって作られたといいます。松本周辺では大正末期までひな人形といえば押絵雛を差していたといいます。
 こちらのものは雅楽や舞など宮廷の様子などを額に立体的に表現しています。

雅楽や巫女の舞
宮廷の雅楽

 つるし雛の指導をされた志村とみさんの押絵雛もあります。左より、信玄公の正室三条夫人、信玄公の母大井夫人、信玄公の側室であり勝頼の母湖衣姫です。

志村とみさんの押絵雛作品

巽蔵(甘草資料室、樋口一葉資料室)

 巽蔵たつみぐらは敷地の東南隅に建っている2階建て土蔵です。
19世紀中頃の建築です。内部は甘草資料室と樋口一葉資料室になっています。
 それぞれに入口があり、同じ形状ですが仕上げを江戸時代のものと、現代の左官さんの手によるもので変えてできています。
 甘草資料室の黒い入口が江戸時代、樋口一葉資料室の土で仕上げた入口が平成の左官さんの仕上げです。

駅のある南側から
北側に入口、甘草資料室(左)と樋口一葉資料室(右)

 樋口一葉資料室は写真とパネルで両親や一葉の生涯を説明しています。
 一葉は山梨に訪れたことはありませんが、両親は大藤村の中萩原(現在の甲州市塩山中萩原)の出身です。家格の違いから結婚を許されず、駆け落ちして東京へ出ています。
 東京では、父病死しその前にも兄も亡くなってしまい、母と一葉の姉妹で生計を立てる貧しい生活となりました。一葉は一家を養うために小説家を志します。

写真とパネルで一葉の生涯を紹介

 樋口一葉については拙稿もご覧ください。

 甘草資料室です。薬草の紹介や肝臓の栽培方法なとが展示されてます。

蔵の入口で、黒は江戸時代の仕上げ
蔵の中は栽培方法など説明

馬屋

 馬屋は19世紀中頃の建築です。農機具が展示してあり、馬屋の中央には便所があります。

 中央の便所は下には桶があり排泄物を溜めて肥やしにします。染付の高級便器は馬屋のものではないと思います。

下には桶が見える


東門

 19世紀の建築です。屋根は茅葺きです。通りに面していますが現在この門を通っての出入りはできません。

東門

文庫蔵

 1934年(昭和9年)と比較的新しい年代の建物です。平成14年7月より甘草屋敷こども図書館として利用されています。畳敷きで本に親しみことができます。

右側が図書館の入口
文庫蔵の全体
通りに面した側から、かつて店舗だったように見えます

 平成14年9月には皇太子(現天皇)ご夫妻が訪問(行啓)されていて、記念碑が建っています。

皇太子ご夫妻行啓の記念碑

小屋

 一般的な農家の住まいです。19世紀初頭の建築ですが、大正時代にこの場所に移築されました。
 この雛飾りの時期は、こちらにもひな飾りを置いています。こちらは御殿飾りと吊るし雛です。

小屋の全体
内部の御殿飾り

長屋

 売店として使用されてます。売店では特産品のほかコーヒー甘酒などが用意されています。地域のお年寄りがお店に立っています。

どこか懐かしい風情の売店
顔出しパネルも
通りに面した側から、こちらもかつて店舗だったように見えます

おわりに

 県内最大規模のひな飾りを紹介しました。この辺りのひな祭りは月遅れの4月3日です。4月までひな飾りは楽しめます。
 ただし、ひな飾りのシーズンになると人形で埋め尽くされるため、養蚕が行われた母屋の本来の姿は分からなくなりますので注意が必要です。
 なお、周辺の桃の花の見頃は4月上旬~中旬となります。

参考資料
甲州市「薬草の花咲く歴史の公園」リーフレット

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