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【AIRY】Thomas Lord展「垣間見る」を見に行く

はじめに

 甲府市の中心部にある「AIRY(エアリー)」(アーティスト・イン・レジデンス山梨)は山梨で最初のアーティスト・イン・レジデンスです。
 「AIRY(エアリー)」ではこの7月に滞在アーティストの受け入れを行いました。Thomas Lord展「Caught A Glimpse/垣間見る」(2024.7.27~28)は1ヶ月の滞在期間を終えて帰国する写真家トーマス・ロード氏の滞在中の成果を披露する展覧会です。
 コロナ渦以降で初となる滞在アーティスト展と聞いて足を運んでまいりました。
 トップ画像は来場者と歓談するトーマス氏の姿です。

今年はさらに猛暑の甲府、夕刻近く
案内ボード

 「AIRY(エアリー)」についてはこちらをご覧ください。


Thomas Lord展「Caught A Glimpse/垣間見る」

 トーマス・ロード氏はニュージーランド在住の写真家です。かつて山梨の高校でALTとして勤務した経験もあるといいます。ニュージーランドでは写真の講師をされていて、休暇の関係から7月の滞在となったそうです。
 Thomas Lord展「Caught A Glimpse/垣間見る」(2024.7.27~28)
は、山梨滞在中に出掛けて見付けた風景をモノクロ写真やスケッチで表現するものです。また初日の午後は青写真も手掛ける氏による実演とワークショップも行われました。

Thomas Lord展「Caught A Glimpse/垣間見る」

トーマス・ロードはニュージーランド在住のアーティスト/教育者で、ダニーデン美術大学で写真の講師を務めています。2012年から2014年にかけて山梨の増穂商業高校と峡南高校でALTとして過ごし、この山梨への愛を育みました。
彼の活動分野は主に写真ですが、絵画の展覧会も行っており、<懐かしさ><生態学><さまざまな時間様式>がその2つのメディアの共通点を形成しています。彼は非常にゆっくりとした写真撮影技法(サイアノタイプ写真)を用いて、生き物の相互関係を探り、宇宙における私たちの位置について疑問を投げかけるような表現をします。エアリー滞在中は写真撮影や日々のスケッチで、細部や見過ごされがちな瞬間について描き、自然や記憶、山梨で過ごした時間の重なり合う経験を視覚的で繊細な叙事詩として発表します。

出典 : AIRY公式サイト
トーマス・ロード氏 出典 : AIRY公式サイト

 トーマス氏はAIRYでの滞在創作は初めてだそうですが、かつて山梨に在住していたこともあり、受け入れはスムーズに進んだとのこと。
 もっとも、この時期、甲府盆地は暑く滞在はたいへんだったろうと推察します。特に今年は猛暑を超えて酷暑となっております。

 さて、酷暑を避けて土曜日の夕方、AIRYを訪問しました。
 AIRYの2階がギャラリーで個展の会場です。普段は創作場になっています。
 白い元病院の建物の横を入り外階段を上ります。

ここから外階段
開け放たれた入り口
廊下には医療棚(キャビネット)がある

 廊下はまるで文化部の部室棟のようです。突き当りの扉ギャラリーで会場です。話し声が聞こえますが、扉は閉じています。エアコンで冷やしているためでしょう。まさに少し扉を開けて「垣間見る」ように様子を伺い中に入りました。
 ワークショップが終わったあとでしょうか。中では思い思いに来場者同士が歓談しています。来場者のほか、前回個展で出張されていたコーヒー屋さんもいます。また、山梨学院大リベラルアーツ学部から学生2名がインターン、通訳として参加しています。

 最初に目に入ったのは、テーブル上のモノクロ写真3点です。完全なグレーカラーを出すために都内にプリントを頼んだと伺いました。

グレーカラーの作品

 確かに壁に貼られたモノクロ写真のほうはこちらに比べるとわずかに赤茶色かかっています。

メインビジュアルの作品

青写真

 青写真(サイアノタイプ写真)もトーマス氏の表現にはたいへん重要なアイテムです。
 筆者は青写真について知らなかったのでAIRYオーナーの坂本氏に教えていただきました。
 まず感光材を紙に塗布してフィルムともいえる用紙を作ります。この用紙を日光に当てます。日光が当たったところだけ青く感光し、日光を遮ったところが白く残ります。昭和時代の学習雑誌などの付録にあった日光写真がこの原理を利用しているそうです。
 青写真のとおり、発色は青ですが、印象としては藍染めのような青さに感じました。
 筆者の訪れる前の時間にワークショップも開かれていて、6人の参加者がトーマス氏指導のもと青写真を楽しんだそうです。

16分割された青写真
青色の濃淡で目の前を写しとる

自然や記憶

 室内の壁には、モノクロ写真や自身が描いたイラストが展開されています。滞在中に県内を訪れて残したものだといいます。
 昇仙峡だと分かる景色がありましたが、ほかは特定できず、それでも山梨にある景色、場所だと分かります。

壁面の概観
歓談中のトーマス氏
些細な自然も切り取る
覚円峰(昇仙峡)
昇仙峡だろうか
イラストとモノクロ作品
イラストとモノクロ作品
メインビジュアル
モノクロと真っ赤の取り合わせ
作品を下から
ハスにしずく

 どうして、山梨を創作の滞在先に選んだのか伺いました。ニュージーランドの地元は湖があり自然に恵まれた地域で日本と季節は逆転しているものの共通しているところがあるのだといいます。もっとも地元の夏は30度までしかならないそうで、山梨の暑さは湿度が高いという感想です。
 そんな暑さでも県内にある自然を見つけに各所を訪問していることが分かりました。昇仙峡、火の見やぐらなどちょっとある山梨の自然や田舎の風景をトーマス氏の作品から新鮮に見せてもらえました。

こちらの壁の概観
山梨の自然の
繊細な姿を切り取る
消防のやぐら
カラスか蜂巣か

 山梨滞在中は、中心街の七夕祭りやかつてALTとして勤務した高校などへも出かけたそうです。展覧会の当日もこのあと、花火大会へ出掛けるとのことでした。この日は山梨県内の花火大会の先陣を切る山梨市の万力公園の花火大会の日だったのです。トーマス氏はこのあと関西、広島などを見学して帰国の途に向かうとのこと。

おわりに

 滞在作家の作品展を訪ねました。コロナ渦後に「AIRY」を知った筆者は、初めて「AIRY」の本来の姿を見せていただきました。
 コーヒーを飲みながらあちこちで歓談する光景は作品展であるとともに、作家とも客同士も新たな国際交流を結ぶ場でした。
 コンセプトである「HospitalからHospitality」、Hospitalityは接遇とかおもてなしと訳されますが、ここでは「寛容」であるといいます。このコンセプトテーマがより大きく見えました。 

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