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【ショートストーリー】雷のような人

雷のような人だ。

同じクラスの来栖君を評するなら、私はそう言う。

声が大きいとか、怒ると怖いとかではない。

鮮烈な存在なのだ。けど同時に危険。

それはまるで、最初は幼子のように、この音は何?なんで光るの?と雷がどんなことかも知らず、知りたくて仕方がなくなる。

けれど、命の危険性があることを知ると途端に怖くなり、近寄りたくなくなる。

次に、あれは危険だけど、家の中にいれば大丈夫だとか、光っても音があとから聞こえてくれば大丈夫といった知識がつけば、恐怖心はいくらか減る。

だけど、近寄りたくないという事実は変わらない。

特にこれといった特別なことをしていないのに、人の注目を浴びる。

笑っているだけで。

喋っているだけで。

食べているだけで。

極端なことをいえば、ただ在るだけで。

目立つがゆえに、つい視線をやってしまうが、ずっとは見ていない。

見ていたくない。

ゴロゴロゴロ……

授業と授業の合間の10分間休み。移動の必要がないためなんとなく、教室内を眺めていたら、目があった。

あっ、やばい。

逃げられない。

「木村さん!」

ピッシャーーン!!

雷のごとく、突然に、急激に、距離がなくなる。

「明日の数学の宿題の範囲どこだっけ?さっき聞き忘れたんだよね」

あぁ、なんで話しかけるてくるんだ。他にも人はいるだろうに。

そう思ったが、理由はなんとなく分かっている。

木村(きむら)と来栖(くるす)。 
事は、50音順で作られた出席番号がゆえに2人1組の日直で一緒にならざるえなかったからだ。 
システム上逃げられないので初めての日直の時、話したくなくて、先回りして一人で仕事をしたのだが、そこでどうも便利なヤツと認定されたらしい。
日直では、自分はさぼれる都合のいいヤツ。
それ以外では、分からないことがあれば答えてくれる便利屋。
そんなところだろう。

教科書を開き、ここからここ、と必要最低限な言葉で言えば、彼はまぶしく笑って「サンキュー!」と礼を言う。

サンキューって何。親しくもないのに。

用が済んだとばかりに、早々に離れていく。

そうだ、離れろ。雷は常にあるもんじゃない。遠くに行ってしまえ。

できれば存在を忘れるくらいに彼方に。

同じクラスに所属しているかぎり、いや学校に通っている限り無理だとは分かっていても、願わずにはいられない。

「さっき来栖君と何喋ってたの?」
「何気に木村さんって、来栖君とよく一緒にいるよね?」

けれども、雷が去っても嵐がやってくる。

雨だけじゃく、暴風もセット。

嵐なんて迷惑きわまりない。
備えはできるけど、予測がつかない。
自然災害と一緒だ。

あまり話たことがない、クラスメイトの唐突に投げかけられた言葉に「日直が一緒だから」とひと言告げれば、彼女たちは目線を見合わせた。

「木村さんって来栖君のこと、好きなの?」

冗談じゃない。この態度でどうしてそこにつながったんだ。
探るような目線が気持ち悪い。
傘無しでびしょぬれになった気分だ。
変に誤解されたらたまったもんじゃない。

私は、あえて嵐にむかって真正面から挑んだ。

彼女たちに、我ながら満面の笑みで言ってやった。

「大嫌いだよ」

あんな、雷のような人。



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