見出し画像

もしも「かぐや姫」の語り手があずきみみこだったら

割と最近、あるところに
おじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんは定年間近のサラリーマンで、
その日は取引先の接待で
うなぎ屋に来ていました。

取引先の社長は、うな重の松を頼み、
おじいさんはちょっと遠慮して
を注文しました。

しばらくして、うな重が来ました。
するとどういうことでしょう、
おじいさんのだけ光っています。

松を頼んだのは社長なのに、
おじいさんのうな重の方が
明らかに高そうです。

気まずくなったおじいさんは
おずおずと蓋を開けました。

すると中には、小さな女の子が
入っていました。

おじいさんは大変驚きましたが、
声には出さず、取引先にバレないように
さっとポケットに小さな子供を
しまいました。

接待の間もおじいさんは
小さな女の子が気になってしまい、
社長の話のほとんどを
上辺だけの相づちでやり過ごしました。

さて、仕事が終わり
おじいさんは大急ぎで家に帰りました。

女の子をスーツのポケットから出すと
おばあさんはびっくり仰天。
入れ歯が外れてしまいました。

おじいさんはおどおど。
「この子をどうしようか」と言うものですから、
おばあさんはおじいさんの
無責任さを叱りました。

けれどもおばあさんは愛のある人間なので
その女の子を育てることにしました。


そうして女の子は
かぐやと名付けられ、
おじいさんとおばあさんの愛情のもと
心も体もスクスクと成長しました。


かぐやが思春期になる頃には
態度もすっかり大きくなって、
おじいさんとおばあさんから
かぐや姫」と呼ばれていました。

さて、そのかぐや姫はと言いますと
たいへん美しく育ち
その美貌は瞬く間にSNSで拡散されました。

たくさんの男たちが
かぐや姫に求婚のDMを送ってきます。

初めはかぐや姫も無視していたものの、
おじいさんの家の電話にかけてきたり、
突然訪問してきたりと迷惑行為が増えてきたので

かぐや姫は条件付きで求婚に
応えるとtwitterで発表しました。

そのツイートはものの見事に炎上しましたが、
それでも物好きの男たちが
かぐや姫の元を訪れました。



一人目の男は
大谷翔平のサインボールを持ってきました。

けれども筆跡鑑定士によって
それは偽物だとバレてしまいました。

男は肩を落として帰って行きました。



二人目の男は
発売前のiPhoneを持ってきました。

それはどうやら本物らしいので
かぐや姫は断る理由に困っていました。

すると二人の警察官がやってきて、
男を窃盗の罪で連行して行きました。

かぐや姫はホッとしました。



三人目の男は
BTSのプレミアチケットを持ってきました。

けれどもかぐや姫は
「花道沿いの最前列じゃないと受け取れません」
と言って男を帰らせました。

男は仕方がないので自分でそのライブに行き、
すっかりファンになって帰って行きました。



四人目の男は
若返る薬を見事開発し、かぐや姫の元へやってきました。

するとかぐや姫は
「私はまだ若いので、
この薬の効果を確かめることができません」
と言って男を落胆させました。

男はその後、
生命維持に有効な薬を開発したとして
国に讃えられました。



五人目の男は
どこでもドアを持ってこようとしました。

けれどもとうとう、
現世でそれを実現することはできませんでした。



結局、誰もかぐや姫を
嫁にすることはできなかったのです。



ところが最後に
ある男が訪ねてきました。

大手通販サイトの前社長です。

前社長は
かぐや姫を月に連れて行ってあげよう
提案してきました。

それを聞いてかぐや姫は
突然泣き出してしまいました。

おじいさんとおばあさんは
慌てふためいてかぐや姫にその訳を
たずねました。


かぐや姫はこう言いました。
「私はもうすぐ、帰らねばならないのです。」

おじいさんは言いました。
「どこに?」



築地に」
かぐや姫は控えめに言いました。

「私は元々、築地市場の生まれで
明日の水揚げまでに帰らなくてはなりません。」

おじいさんとおばあさんはまたびっくり。
理解ができないのは
この状況のせいなのか、己のボケのせいなのか
判断できませんでした。


そうしているうちに、
迎えの者がやってきました。

「おじいさん、おばあさん
今までお世話になりました」

そう言って
かぐや姫がターレーに乗って帰っていくのを
おじいさんとおばあさんは
ただぼうっと見つめることしか
できませんでした。

それから、
おじいさんとおばあさんが生きている間、
二人が魚に困ることはありませんでしたとさ。

おしまい


この記事が参加している募集

最後までお読みいただきありがとうございます!いただいたサポートで体にいいごはんを犬と猫に買ってあげようと思います。