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もしもし わたしの世界

数日前、左耳のワイヤレスイヤホンをこれでもかと言う程にリュックのポケットから大落下させてしまった私は、ただいま右耳だけイヤホンを繋げたまま、毎日通勤電車まで乗っている。

不思議なもので、イヤホンをつけて好きな音楽を聴いていると、その音が身体の中にすうすうと溶け込んでいって、自分だけの世界に飛び込んだような心地よさに浸ることができる。

目に見えるのは外のガヤガヤとした雑踏で、耳から聴こえてくるのは、自分だけの秘密の音。

この数日間、片耳だけイヤホンをつけていたことで、その感覚は余計に強く感じられた。私の左半分と、私の右半分がまるで別人のように思えた。どちらの世界にも属さない、ちゅうぶらりんな宇宙人みたいで、ああこれも悪くないな、と思ったりしてしまう。釣革に掴まってゆらゆら揺れていると、そんな非現実的なことばかり想像してしまって、降りる駅を乗り過ごしてしまいそうになる。

電車の中でふと周りを見渡すと、若さをとびきり詰め込んだ高校生からダンディな雰囲気のスーツのおじさんまで、だいたい全体で8割位の人が耳にイヤホンをぷすっと差しているのに気付く。

あ、この人も今自分だけの世界で、誰にも邪魔されない場所で、ゆらゆらしているのかなあ、と想像すると、何だか楽しくてむふふっと笑いたくなってしまう。

もうすぐ、電車は駅に着く。
もしもし、右耳さん聞こえますか、私の世界。
今日も、1日仲良くしてください。

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