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エンターテイメントによるクオリティオブライフ向上委員会

承前

またあったな。
おれは日々映画や音楽など娯楽作品を浴びるほど見て聴いて読んでいるが、いちいちそのことをツイッターとかSNSにアップしない。
おれたちが生きるこの社会はまるで出口につながる抜け道も深層へもぐるための階段も存在しないダンジョンで、しかも床全面にバリア床が敷き詰められているという始末だ。ようやくヒットポイントが3桁に到達したくらいのおれたちはたった五歩歩いただけで棺桶にぶち込まれる過酷な世界といえる。

会話が完全に死に絶えたフロアに、提出したきり帰ってこない稟議書、トラブルが発生しても一向に更新されない計画表や惚れた腫れただのくだらない恋愛話(おれは恋愛自体は全く問題のない、非常に健全な行為だと考えているが、時にそれは周囲の人間に深刻な継続ダメージを付加する状態異常を振りまくことをよく知っている)のおかげでおれたちはみるみるヒットポイントを削られ、常に虫の息だ。おれにとってエンターテイメントはやくそうのようなもので、一歩歩くたびに一つ摂取しなければたちまちトゥルー・デスを迎えることだろう。そのためおれにとって映画を観ること、音楽を聴くことは特別なことではない、呼吸すること同然の行為であるといえる。

おれがここまで長々と話をしたのはほかでもない、どうやって日々をよりよく生きるべきか…クオリティオブライフを高めるために、エンターテイメントとどう向き合うべきかを記録としてここにの残すためだ。これはおまえがサバイバルナイフだけを手に無人島に取り残されたというシミュレーションだ。この記録がサバイバルナイフだ。おまえはこのナイフ一本だけで無人島で大往生するまで生き延びなければならない。トゥルー・デスに逃げることは許されない。そういう覚悟が今の時代に求められている。
さあ、ナイフを手に取り、無人島の中へ足を踏み入れろ。

映画
映画は素晴らしい。彼女はお前がこれから2時間の間、ともに爆発に巻き込まれ、ともに銃撃戦をかいくぐり、ファック野郎にパンチを食らわし、そして素晴らしいハッピーエンドを迎える…これほど心の栄養になることはない。できるなら歌と踊りと爆発と筋肉、そしてアクションを備えたものが望ましい。もちろん恋愛やコメディー、SFでもなんでも構わない。
お前が彼女と夜を共にした一刻はまちがいなくお前をタフな男へと前進させる。しかし、おまえがもし落ち込んでいるときに暗い救いのない映画をチョイスすることは危険だ。もしその選択をしてしまえばおまえは負の感情のスパイラルに陥り、おまえが好きなものだけに溢れた箱庭でやさしく灰に包まれながらやがて……トゥルー・デスを迎える。
お前に必要なのはやさしくお前を慰めてくれる女ではない。誰からも顧みられない狭い箱庭をキックし、お前を外の世界に導いてくれる強い女だ。だから歌と踊りと爆発と筋肉、そしてアクションが必要だ。それらは強烈なプラスのエネルギーに満ちており、おまえの風前の灯同然の人間性に活力を与える薪となるからだ。お前は今まで土砂降りの雨や台風から必死に守ってきた人間性に自ら水をかけるような男だったか?トゥルー・デスとは肉体的な死ではない。精神的な死だ。トゥルー・デスを迎えたあとには生きているだけで苦痛な世界が待っている。
だからお前の人間性だけは命がけで守れ。安心しろ。お前を導く強い女は世界に溢れている。

音楽
お前はライブに行ったことがあるか?ロックでもアイドルでもなんでもいい。会場には若者が詰めかけ、エネルギーが今にもはち切れんばかりであり、そして暗転し、ステージにアーティストが登壇すると一気に爆発する……素晴らしい体験だ。しかしここでおれが言いたいのは「ライブに行け」ということではない。漫画にしろアニメにしろただ一つのコンテンツを好きでい続けることは想像を絶するほど過酷な道のりだ。お前は彼女のことを思うばかりに自らをおろそかにし、いつしか自己犠牲的な思想にとらわれ、コンテンツ愛が呪いに変貌し、重い十字架を背負うことになるか、彼女を魔女呼ばわりにし、関わるものを片っ端から火あぶりにかける恐れすらある。
暗い部屋でただ一人のアーティストの世の中や自分を嘆くような歌詞に涙を流すよりも、ロックフェスでウェイウェイ騒いでいる若者ののほうが健全に見えるのは自明のことだ。
いろんなコンテンツに浮気するのは悪いことではない。視野を広くもて。常に新しいものに目を光らせろ。まずはそれからだ。
おれがおすすめするのは自分だけのロックフェスのプレイリストを作成することだ。おまえがフェスのオーナーだ。おまえが好きなアーティストを呼びお前が好きな曲を歌わせろ。
ライブのセットリストは当然、始まりがあって終わりがある。ライブ受けするような曲を並べるだけではだめだ。始まりから終わりまでの流れをつくれ。プレイリストを作ったか?それがお前の人生のサウンドトラックとなる。プレイリストは常に更新し続けろ。ウェイウェイテンションが上がる曲も世界にただ一人になり死ぬほど悲しくなる曲もすべて入れろ。
人間性を失いかけた時や虚無の暗黒に囚われそうになったときはそのサウンドトラックを流せ。この世はお前が主人公であり、世界の中心だ。
なぜ感情を押し殺す必要がある?胸を張ってお前だけの人生のテーマソングを歌え。

ムーミン
最後におれの大好きな小説の話をしよう。「ムーミンパパの思い出」だ。
ある日、ムーミンパパが生まれて初めて風邪を引き、もうだめかもしれないと初めて死の恐怖を覚える。パパはまだ小さかったムーミンやスナフキンたちを呼び、自分の過去の冒険の日々を語り始める……。
「えっムーミンパパにそんな設定があったの?キャラクターグッズ戦略用にキャラがあてがわれただけじゃないの?」お前は「ムーミン谷はフィンランドにあるよ」派と「ムーミン谷はみんなの心の中ににあるよ」派の銃撃戦に巻き込まれ、あっという間にあつあつのオートミールだ。おれが言いたいのはどこにムーミン谷があるかということではない。センター試験がどうこうでムーミン谷といっているやつらは、自分たちがムーミン谷に転がっている空き缶の中にいることも知らずにいがみ合いやがて……トゥルー・デスを迎える。

いいか、買い物用の紙袋にくるまれ捨てられていたムーミンパパは、閉塞的で規律に縛られた孤児院をたった一人抜け出し、フレデリクソンという親友と運命的に出会い、数々の冒険を経ながら大海原を「海のオーケストラ号」で旅した真の男の中の男だ。その後新しい村をつくり、大嵐の中波に攫われてきたムーミンママと劇的な出会いを果たした。
そう、今現在ムーミンたちが住んでいる村を作り上げたのはほかでもないムーミンパパであり、そしてムーミン屋敷がもともと「海のオーケストラ号」の操舵室であったことをお前は知らなかっただろう。それどころかムーミン・トロールたちをゆるキャラマスコットの走りと決めつけていたおまえは完全にどうしようもない。

おれが言いたいのは、この世界はおれたちのしらない出来事で満ち溢れており、飽き飽きすることはないということだ。ムーミンパパの冒険もまたあくなき探求心に満ち満ちており、それでいて親友たちへの絆や愛……つまり「刺激」「共感」だ。この2つがお前を人間たらしめる要素であり、日々冷たくなるお前の体に熱量を与える。
ムーミンパパはママとの劇的な出会いの末にムーミン・トロールたちと楽しく暮らす世界を作り上げた。これがムーミン谷だ。ムーミン谷はどこにあるかとかという問題ではない。みんなのこころの中にあるとかなまっちょろい回答を信じなくてもいい。お前はお前だけのムーミン谷を作り上げろ。

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