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初めての任務Escort CONVOI 輸送車団の護衛

毎晩就寝前に行っているミーティングで、小隊長から初めての任務が決まったと報告があった。それは120台以上からなる、輸送車両の護衛で今いる前哨基地から400km程離れた別の前哨基地へ片道3日の予定で、任務の目的は物資の補給、施設整備の為の車両の輸送だった。

車団は現地の民間トラックやフランス軍の輸送隊などから構成されて、これに護衛の為およそ一個小隊規模の部隊(1小隊は3〜4台の装甲車から成る)と、通信隊、地雷除去の為工兵の車両それに現地のマリ共和国から派遣されたエスコート部隊などからなる120台以上の大大車団だった。

中隊の中で自分の小隊だけが運良く護衛を任されることになった。ただこの作戦決定時に問題が浮上する。我々の部隊は常日頃からVBCI(véhicule Blindé Combat Infantry )装甲車、いわゆる歩兵戦闘車を使って訓練してきた訳だが、その時まだ車両が到着していないだとか整備不良だとかで出撃の為の車両が無い状態だった。そこで代わりに用意されたのがVAB(Véhicule de l’Avant Blindé )という装甲車だった。この車両はフランス軍に正式採用されて長く経つ為に誰しもがその姿を見たことはあるが、訓練で一切使ったことのない車両で乗ったことすらなかった。運転手だけは運転過程を経験したのでかろうじて運転ができるという程度だった。それにVBCIと比べてVABは装甲の具合も貧相で、IED仕掛け爆弾に太刀打ちできるものでは無かった。対車両地雷や仕掛け爆弾にやられると、吹っ飛ぶことは確定していた。小隊全員には不満が募っていたが、決定した物は仕方がないと皆腹をくくり早速出撃の為の準備を始める。

片道3日の予定とはいえ、先の道中なにがあるか分からないので最低1週間〜10日の食糧や飲料水を自分達の車両に積み込まねばならない。(実際その護衛任務は片道で8日掛かってしまった)それぞれ個人の背嚢や対戦車ロケットなど武器でただでさえ狭い装甲車の中は「Tiago」のペットボトル、戦闘糧食「24時間レーション」で埋め尽くされた。だが車内だけではスペースが圧倒的に足りない為に、手製の鉄網のカゴを装甲者にガッチリと取り付けてそこにも食糧や飲料水を満載していく。機関銃座や歩哨警戒ポストに日除け天幕を取り付ける。

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朝方3時頃、自分達の車両の通信機器の調整や武器の搬入を終え輸送隊に合流する為、前哨基地の車両専用の門へ向かう。そこには既に何十台ものトラックが集結してあり、ぞろぞろと輸送隊も集結をしているところだった。面白いことに朝食ブーストが用意されていて、パンであったり飲むヨーグルトであったり、コーヒーが用意されていた。ありがたくそれを頂いて、輸送船団最終の調整に入る。朝方3時頃といい日もまだ上っておらず、眠たかったのでまだその段階では車両の数の多さに驚いていなかった。

元いた前哨基地を去り周辺にある集落規模の村を横切る際に、一生忘れられない嫌な事があった。輸送車列の先頭で警戒任務にあたっていた自分の装甲車(班)だが、後続のおよそ120台からなる車列の中の1台が、前哨基地を出たばかりというのに故障を起こし停止してしまったのである。もちろんその1台を置き去りにして先に進むということは出来ないので、他の車両皆んなが修理が終わるまで待つことになる。数十分で修理が完了する事はなく数時間が経過し、この後も別の車両の故障が相次ぎ、これが片道3日の予定のところ片道8日掛かってしまう要因になる。

自分達の班は集落に近かった為に、その周辺の警戒にあたっていた。まだ前哨基地周辺ということもあり危険性は低かったが、人の往来が多い為に気が緩めないでいた。特に二輪バイクには気をつけないと行けない。彼らはどこからとも無く現れて図々しく走り抜けるからだ。これにもしテロリストが乗り自爆爆弾を持ち近づかれたらひとたまりもない。

そんなところで自分が装甲車後部の警戒ポストで歩哨にあたっていたときである。現地の子どもたち、近くの周落の子たちなんだろう。無邪気に手を振りながら近づいて来た。我々に警戒している様子は無く、ものすごく慣れているようだった。子どもたちが笑顔で手を振ってくるので、悪い気もしなくてホッとしていた。すると先程故障していた車両が修理完了との無線が入り、ようやく輸送隊は前進の路につく。自分の車両もゆっくりと走り出した。その時、近くにいた子どもたちも自分の車両について来る様に走り出した。車両と追いかけっこをしているんだろう。その時は誰もがそう思った。車両が段差に差し掛かかりスピードを落としたその瞬間、子どもたちの中の1人が一気に距離を詰め自分の車両に追いついてしまったのである。と、同時に車両後部のボックストランクを開けて食糧のレーションを盗りだした。一瞬の出来事だったので、彼が何をしているのか分からず自分は「Hey‼︎」と怒鳴ることしか出来なかった。しかし彼はひるまず、その場から逃げていく。その時、自分の中で何かが砕け散るのを感じた。だまされた。裏切られた。先程笑顔で手を振っていたのは、我々に近づくき食糧をくすねる為のトリックだったのだ。走っている車両から飛び降りて彼を追うことはできないので、すぐさま班長にこの事を報告する。すると返答は自分が思っていたのと全くもって違った。自分は「気にするな、レーションのひとつくれてやれ」などといった言葉が返ってくると思っていたが、

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