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町外から講師をお招きし、特別講演会『「人手不足」ではなく「人手不在」?ー地域に必要な新しい採用戦略とは』を実施しました!

2023年12月3日に地域活性化センター神川のコワーキングルームで特別講演会を開催しました!
このセミナーは、九州地域間連携推進機構株式会社・株式会社ことろど 代表の田鹿 倫基(たじか ともき)氏にご登壇いただき、『「人手不足」ではなく「人手不在」?ー地域に必要な新しい採用戦略とは』と題して、地域での採用についてお話いただきました!
これからの企業、地域での採用について絶望的な危機感を抱く一方で、気を引き締めて取り組まなければという覚悟が生まれる時間でした。
たくさんの錦江町内の方々にご参加いただきましたので、noteでも当日の様子をご紹介します!


田鹿 倫基(たじか ともき)氏 プロフィール

1984年生まれ。リクルート事業開発室でWEB広告の新規事業の立ち上げを行い、その後、愛德威广告上海有限公司にて中国人スタッフとともに北京事務所の立ち上げを行う。2013年からは宮崎県日南市のマーケティング専門官として着任し、地域のマーケティング事業を行う。ベンチャー企業との協業事業や、農林水産業の振興、日南市全体のPR、マーケティング業務を担っている。シャッター商店街を中心にIT企業を15社誘致し170名の雇用を創出し、さらに大学生の起業コンテストを開催し、商店街の空き店舗に宿泊施設を作り、年間2,000人泊を超える宿泊施設となる。その効果で通行量は4倍になり商店街周辺の月極駐車場も満車になるなど地方都市の商店街では珍しい効果を産み、地方創生担当大臣が度々視察に訪れる。

「戦略」と「戦術」

講演会では、冒頭で採用に限らず施策を検討する上で前提となる考え方をお話いただきました。

その一つは、よく混同されがちな「戦略」と「戦術」の違いについてです。戦略とは、「いかにして戦わないか(負ける可能性を下げる)」。戦術は、「いかにして勝つか(勝つ可能性を上げる)」。この戦略と戦術を使い分け、どういう戦い方に合致するのか、施策を考える際に検討するのが大事だそう。
また、まちづくりにおいて「問題」と「課題」の違いを理解し、具体的な課題解決に向けた取り組みを進めることも必要とのこと。
問題は「理想と現実のギャップ」のことを指し、課題は「理想と現実のギャップを埋めるために実行する具体的なこと」です。誤った課題を設定してしまうと、いくら頑張っても問題は解決しません。

成功例だけでなく、失敗事例も分析し、地域の実情に即した適切な状況理解と課題設定が非常に大切だと教えていただきました。

データから見る地域活性化

日本各地で地域活性を目指し様々な取り組みが行われていますが、実現するために求められることは何でしょうか。
全国有数の観光地、工場誘致、有名な伝統工芸品、親しみのあるキャラクター…様々な魅力的なコンテンツを有しており、いかにも地域活性化の成功モデルとなる要件が揃っている。そのような地域は、人の往来が生まれており、活性化が成功し人口も増えているのだろうと思います。しかし、実際にその自治体の人口動態を観察していくと、条件に恵まれているように見えていても、数字では上手くいっていない現実もあるようです。
講演会では、自治体例や具体的な数字を示しながら説明があり、まさかこの自治体が人口動態の視点で見ると上手くいっていないのか…と驚きの声があがります。まさに成功事例とされる一方で、見えない形での衰退もあることに注意が必要でした。

さらに、事例から学ぶ際には気を付けることがあります。それは、他地域で成功している取り組みが同じように複製可能とは限らないので、地域の実情を踏まえた戦略が必要だということです。
強みを最大限に引き出すために、データという客観的事実に基づいた冷静な分析が必須ということが、田鹿さんのお話からは痛いほど伝わってきました。
【参考】厚生労働省 人口動態調査

日南市での戦略

田鹿さんの代表的な事例の一つが日南市の油津商店街再生事業です。この取り組みの最大のポイントは「時代に合わせた新しい価値を生み出す施策」へ舵を切ったことでした。

油津商店街では、2013年に「4年間で20店舗の新規出店」という目標を掲げました。様々な取り組みの結果、2017年には目標を大きく上回る30店舗以上の入居が実現したのですが、地元の人たちからは「商店街の再生は成功していない。昼間に人が歩いておらず、全然賑わっていないじゃないか!って言われちゃうんですよね」と、苦笑いで田鹿さんは言います。

その理由は、地域の方がイメージしている「商店街再生」が、「昔の賑わいが再現されている状態だ」という認識の違いにありました。たしかに、通行人の人数は昔より少ないし、その観点で見ると「再生」はされていないのかもしれません。

しかし、車が普及し、全国チェーンの量販店が展開され、消費者は移動と選択肢がたくさんある現代に、昔の商店街をそのまま再現しても同じような活気には結び付きません。開業支援などの補助で商店の誘致が成功しても、継続的な支援なくして事業の継続は厳しいと予想されるからです。

そもそも昔はなぜ商店街に商店が集まったのでしょうか。それは「商店が坪あたりの利益が高かったから」だと田鹿さんは言います。

坪あたりの相対的な価値は、時代によって変わります。現代では商圏人口が減少し、チェーン店等の競合が参入する中で、薄利多売の物販は成り立たなくなりました。
一方で、夜の飲食は移動で車の運転がある以上商圏が守られ、坪あたりの価値が下がりにくい状況にあります。また、webの発達により、オフィス用途では、東京で稼ぐ金額と田舎で稼ぐ金額の差が縮まり続けています。

そのため、日南市ではただ出店してくれるテナントの誘致に走らず、若者に人気の高い事務職の求人増加を狙って、IT企業の誘致という戦略を描くことになりました。
結果として、商店街の空き店舗のうち17社はIT企業の事務所となり、170名以上の雇用を創出。周辺に飲み屋などの飲食店が新たにオープンしたことで、先の成果を出すことができました。

「商店街再生」の本当の意味とは、「賑わいを取り戻す」ではなく「時代に合わせた役割をもたせる」ということだったのです。

ぼやっとしたイメージではなく地域のありたい姿を明確にすること、そしてデータをもとに戦略を練ることの大切さを学んだ時間でした。

【参考】国土交通省HPより 「事例:宮崎県日南市・油津商店街 不動産が「動く」時代のまちづくり ~マーケット動向に基づいた不動産活用法~

新田町長から質問が出るなど、多くの方からの質問で錦江町の真剣さが伺えます!

いい人を採用するだけでなく、採用した人を育てる

そして、いよいよ今回のテーマである採用の話に移ります。

地域の人口動態の変化を踏まえ、特に20歳から69歳までの労働力人口の急減に対応するためのまちづくりと採用戦略を結びつけることが重要だと田鹿さんは話します。

具体的な状況としては、人材採用を行いたくても、もはや求職者がいない。1人に対して何社もオファーを出している状態であり、採用=他社からの引き抜き、という構図になることが予想されているそうです。もはや「人手不足」の時代は終わり、「人手不在」の時代に突入しているのです。

すると、現在のように求めるスキルや経験をもとに人材を選んで採用するのではなく、とにかく入社してくれる人材を探し、入社後に育成していく対応が求められます。地元企業が求めるスキルや働き方に合わせた育成プログラムの充実などが必要になってきます。

さらに、今まで通り求人サイトへ掲載し待っているだけでは人材は来てくれず、個別のアプローチが必要となってきています。人を採用する心得として、採用は単なる人事担当の仕事ではなく、経営陣も積極的に関与し、チームで対応していくべきであることが強調されました。

人手不在の時代においては、日南市や錦江町も含めた特に地方の企業では、厳しい状況が広がることが予想されます。しかし、企業の人材確保が地域住民の確保、ひいては地域の存続へつながっていくため、向き合い続ける必要があるテーマだと痛感しました。

ここではなんと新田町長から質問が出るなど、錦江町の真剣さが伺えます!

これからのまちづくりと人材確保の未来

最後に、地域活性化の目的は「まちを永続させることだ」という話がありました。そのために、若者が希望する仕事、出会い、出産・育児環境を整え、地域社会全体での協力が必要です。地域の特性や時代に合ったまちづくりを進め、ピラミッドをドラム缶状にすることが、人が残りたくなる環境づくりの鍵となります。地域全体での協力やリーダーシップの重要性が示唆され、地域社会と個人が共存共栄する未来への展望が語られます。

また、お話の後半で、「移住してくる人は、地域のために!と気負いすぎなくて良い」と仰っていたのが印象的でした。
「行政などの公的な仕組みは、住民の暮らしやすさのためにあるのに、仕組みを守るために個人が犠牲になるケースは、歴史上にもたくさんある。だからこそ気を付けていきたい。個人が幸せになるために日南としてなにができるかを考えていきたいんです。」
人が暮らしてこそその地域が成り立つのだと、田鹿さんの言葉から強く実感しました。

少子高齢化、生産労働人口の減少と言われて久しいですが、その危機感を本当の意味で理解できていなかったことを実感する1時間半でした。

数字をもとに現実を提示されると、これからいかに人材の確保が大変か。会社として地域として来る未来へどう向き合っていかなければならないか。目をそむけたくなるような現実を突き付けられ、お話が終わった時には将来への絶望感で気が重くなるという珍しい講演会でした。ただ、今回の機会でこれからの問題の1つが明確に見え、錦江町の方々と共有できたことがとても大きいと思います!

これからエーゼログループとしても、錦江町の一員としても考えて向き合っていきたいと強く感じました!田鹿さん、ありがとうございました!


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