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“自分たちを主語”に。ファンを生み出すメディア運営とは ー 「小さく語るメディア論」イベントレポート

こんにちは、埼玉県秩父・横瀬町でWeb制作/コンテンツ制作をしている浅見制作所浅見です。

2019年11月14日(木)、埼玉県横瀬町にあるエリア898(はちきゅうはち)にて、キリンホールディングス株式会社の平山高敏さんをお招きし、トークイベント「小さく語るメディア論」を開催しました。

企業のオウンドメディア立ち上げからユーザーコミュニケーションまでを担っている平山さん。僕自身、ローカルメディア『ちちぶる』を運営していたこともあり、それぞれの立場で考え、実践してきたメディア運営経験を元に、僕たちなりの地に足をつけた「メディア論」を話したいなあと思い、今回のトークイベントが実現しました。

約90分の語り合いでしたが、今回はそのハイライトをお届けしたいと思います。(文末にイベント全編の動画リンクがあります。ぜひ合わせてご覧ください)



<一緒にお話をした方>
平山高敏
キリンホールディングス株式会社 / デジタルマーケティング部

WEB系の広告代理店出身、前職では旅好き女性のためのガイドブック『ことりっぷ』のWeb部門のプロデューサーを担当。地域の良さをもっと伝えようと全国のローカルメディアをつくる人とつながっていく中で、『ちちぶる』を運用していた浅見製作所の浅見と出会う。キリンホールディングス株式会社に転職後は、キリンビール公式noteやオンラインサロンの立ち上げに携わる。点で終わってしまいがちな企業とユーザーとのコミュニケーションを、線でつなぎ続けるマーケッター。


小さく語る『メディア論』 キリンホールディングス 平山高敏 × 浅見制作所 浅見 58-29 screenshot

浅見
 今日ははるばる横瀬まで、ありがとうございます(笑)。

平山
 いえいえ。浅見さんとは長いお付き合いですから。

浅見
 今日のテーマは「小さく語るメディア論」です。僕はローカルメディア、平山さんは企業のオウンドメディアと、試行錯誤しながら運用してきているのでメディアに関しては、それぞれ実践に基づくメディア論を話せる気がするんですが、大きく語るのは身の丈にあっていない気がするので…。

平山
 小さく語りましょう、と(笑)。

浅見
 「一億総発信者時代」、誰もが写真や文章を全世界に発信できる中で、改めてメディアの役割ってなんだっけ? ということを話せると面白いかな、と思っております。

平山
 よろしくお願いします。


そのメディアは、一体何を伝えるのか

浅見
 早速ユーザーコミュニケーションの話から聞いていきたいのですが、前職の『ことりっぷ』は女性向けで、キリンさんとは情報を届ける層が違う気がするんです。大きな違いはありましたか?

平山
 テレビCMなどのマスマーケティングの戦略を考えれば決定的に違うはずなんですけど、オウンドメディアを立ち上げるベースは結構似ているなと感じています。

浅見
 そうなんですか?

平山
 「ファンの方にまずこんにちはをする」という姿勢が前提にあります。ことりっぷもキリンも「作り手の想いが強い」という部分が似ていて、『ことりっぷ』は「女性にもっと自由に旅をしてほしい」という想いに、すでにファンがついている状態だったし、キリンも「ビールがもっと楽しい飲み物であることを伝えたい」と、日々、味の研究をしている職人がいる。

 それをTVCMで伝えようとすると、「美味しいです」「売れています」という表現になりがちなので、オウンドメディアではもう少しストーリーを伝えていくことが大事なのかな、と感じています。

浅見
 なるほど。メディアに訪れるファンは、どのような方々ですか?

平山
 それも似ている気がして、旅やビールの「ジャンルそのもの」がすごく好きな方が多い印象です。ファンを越えて、ある意味作り手に近いのかも。だから僕達が主語を持ち、「こういう想いを持ってつくっています」「届けたいです」「一緒に考えませんか?」という働きかけを、メディアを通して読者の方に伝えていく。その姿勢は、どちらも変わらないと思いますね。

浅見
 なるほど。「一緒に考える・一緒につくる」スタイルって、まさに正しいと思うんですけど、実際の距離感が難しくないですか? 「やってください」と押し付けても、絶対やらない。求めたら逃げちゃうじゃないですか、恋愛と一緒で(笑)。

平山
 本当にそうですね(笑)。でも消費者の立場になれば、突然「このビールを愛してください」と言われても愛せないですよね。だからやっぱりこちらから発信するんです。そもそも、ユーザー側にコンテンツへの愛があることが前提にはなってしまうんですけど…。

浅見
 旅・ビールへの偏愛がある人に届けることが大切、ということですね。

平山
 そうです。その愛を捕まえるために、こちらがちゃんと主語を持って「ことりっぷは今後こういう風に旅を変えたい」、「キリンはこういう風にビールがある世界を変えたい」というのを発信することが大事なんです。

アートボード 1


note投稿コンテストにみる、オウンドメディアのファン作り

浅見
 キリンさんの公式noteの話を聞きたいんですけど、投稿コンテスト(コンテンツプラットフォーム「note」で行なわれている、同じテーマに沿ってユーザーが記事を投稿するコンテスト)に結構な反響があったじゃないですか。あれ、どのくらい応募があったんですか?

平山
 今年4月の#社会人1年目の私へ」の時は3,000件、「#あの夏に乾杯」の時には4,000件の応募がありました。

浅見
 すごいですよね! 普通、企業がライターさんに発注すると、1記事数万円くらいかかるじゃないですか。キリンさんの問いかけにそれだけの人が応えた、ものすごい事象ですよね。

平山
 そもそもどちらのテーマも、キリンは全然関係ないんですよね。「#社会人1年目の私へ」の例で話すと、若い方にお酒の文化を伝えたいとした時に、「初任給で親御さんにビールを送ろう!」というキャンペーンを企業はやりがちなんです。でもそれって本当に彼らに刺さるのかなと。

 それよりも「#社会人1年目私へ」を通じてキリンが若い人の悩みに寄り添う姿勢をあらわす方が、そこに商品が直接絡まなくても「キリンっていいよね」と思ってもらえるんじゃないかと。あれは社会人になって数年経った先輩が自分に送る手紙で、過去の自分に送る手紙はだいたい「なんとかなってるよ」じゃないですか。それを読んで「なんとかなるかもしれない」と思えることが、「みんな頑張れ」ってCMよりはるかに説得力を持つと思ったんです。

 これが直接キリンの購買につながったかと聞かれたらわからないですけど、それを「あえてキリンがやる」という戦略だったんですよね。

浅見
 平山さんのマーケティングって、立場を俯瞰して見ているというか、そのギャップまで計算するところがすごいなと思って。

平山
 肌感覚ですけどね。キリンってやっぱり大企業です。「発信するメッセージが素敵であること」・「広告的なところにこそ人感を出す」というのは、本能的にやらなきゃなとは思っていますね。「大きい企業なのに」ってあるじゃないですか。あれは超美味しいです。

浅見
 「なのに戦略」ね! これは他でも転用できますよね。僕も最近秩父高校っていう県立高校のWEBサイトを作り直したんです。あれも「なのに戦略」の代表格。県立「なのに」イケてるって。

平山
 見ましたよ、あのめっちゃおしゃれな! フックとしてすごく大事ですよね。ただ一つ言っておきたいのは「なのに戦略」って点でやると終わっちゃうんですよ。そこにミッションやビジョンがちゃんとあること自分達の感覚でやれていることが大事で、とかく人とつながれてしまう時代だからこそ、点で誰かに任せるとバレてしまう。

浅見
 あー、すごくわかります。

平山
 コンテストの話にもどると入賞者は多くて3人しか選ばれないんですけど、3,000件の投稿を全部読みました。その週に良かった5作品をピックアップして、自分で紹介する記事を書いて。

浅見
 すごいですね、そんなに膨大な時間をかけていたんですね。

平山
 企業のアカウントは冷たいというイメージがある中で、「読んでくれている」「応援してくれている」と感じてもらえたことが大きくて。それが何につながったかというと、入賞した方がキリンフリークになってくれたんですよね。

 さすがに意図していなかったですけど、ファンクラブまでつくってくださって、「やっぱキリンいいよね」って空気を広げてくれたことが価値というか。僕達はキリンのビジョンやミッションを伝え続けたいし、応援してくれる方達を応援したい。それが回りまわってまた「ありがとう」という言葉が返ってくる。このコミュニケーションの往復が、結果noteでキリンフリークを生んだのかなと思います。

浅見
 なるほどねー。

平山
 こちらはちゃんとさらけ出すこと、ちゃんと見ていること。それらを可視化したことが、肝だったかなと思っています。ライターさんにお願いするようなちゃんとした読み物以外はほとんど僕が書いているので、そこの「人感」をブラさないということを意識していますね。と、今話しながらようやく言葉にできた気がします。

アートボード 1


マーケティングじゃない。つながりを作るメディアにするために

浅見
 「オウンドメディアの時代は終わった」なんて言われがちですけど、キリンさんのように成功している事例もある。何が違うんでしょうか?

平山
 企業がファンに届けるという前提での「メディア」に限定しますけど、メディアをマーケティングの文脈に乗っけちゃダメだと思います。オウンドメディアの一つの役割はPRなんですよ、パブリックリレーション。発信する意味を接点の数でみてしまうと、途端にマーケティングの論理になりがちです。でもそうじゃない。
リレーション=つながりだと考えたら、自分たちがまず想いを伝えて、それに対して反応してくれた方たちにどれだけ自分から握手をしにいくかだと思うんです。この観点を、逃しちゃいけないと思う。

 それを忘れるから、SEOでこのキーワードがくるからこんな記事にしましょうみたいな記事ができるわけですよ。自分達の人格を手放して、外で書いてもらったものでやろうとするからオウンドメディアはうまくいかないねって言われる。「つながる窓口なんだ」という前提に立たないと、絶対にうまくいかないです。

浅見
 確かに。「メディア」が広義になりすぎているから、それぞれが求める結果も変わってくるわけですよね。いわゆるPV(ページビュー)という数なのか、ユーザーとのつながりなのか。

平山
 このエリア898だって、メディアですからね。

浅見
 ほんとその通り。「メディア=情報発信」だと思っていたんですけど、突き詰めていくとそうじゃなくて、「メディア=媒体」じゃないですか。「媒体」とは人と人をつなぐ・何かと人をつなげるものと考えた時、『ローカルメディアのつくりかた:人と地域をつなぐ編集・デザイン・流通』という本の著者である影山 裕樹さんが、いつしかのワークショップだったかイベントだったかで話していたことを思い出したんですよ。

 たとえば街にあるベンチ。そこにずっと座っていたらおばあちゃんが隣に来て、会話が生まれるっていう、この場をつくるのをメディアだよねっていう話、ほんとそうだよなと。要するに、メディアを始める人はそのメディアが伝える先に何を求めるか、その解像度を上げる必要があるっていうことですよね。

平山
 結局、そこが一番大事ですよね。

浅見
 ほんとそう。「メディア」って手段として一人歩きしやすいけど、やっぱ目的ってなんだっけって、振り返って本当は何をしたかったかを見失わないようにしなきゃですよね。
いやあ、めっちゃ楽しかったです!今日はありがとうございました。

平山
 こちらこそありがとうございました!


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キリンのクラフトビールでの乾杯に始まり、終始リラックスした雰囲気の中で行われた本イベント。メディアからコミュニティの話まで、話題は多岐に渡っていました。メディアを単なる情報発信の手段とだけで考えるのではなく、自分たちがやってる活動全てが“メディア”だなってことが改めて認識できました。

みなさんが実践している「メディア」について、少しでもプラスになるように受け取ってもらえたらとても嬉しいなと思います。

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本イベントの全編動画アーカイブはこちらからご覧いただけます。

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文:柴田 佐世子
編集:浅見 裕
写真:amito

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