たまねぎの兄弟
栄華を極めた時代は去って、斜陽の時代を迎えた国に
二人のたまねぎは生まれた。
兄と弟は見た目もそっくりで、中身もよく似ていた。
二人には立派な夢があった。
彼らはロールキャベツになりたかった。
周りの大人はこう言う。
「たまねぎがロールキャベツになる?農薬で頭がおかしくなったんじゃないか?」
「たまねぎはたまねぎらしく!」
彼らは毎日努力した。少しでも緑色に、そしてあのマーメイドドレスを逆さにしたような見た目になるように。
しかし、来る日も来る日も、選ばれるのはキャベツばかり。
自分たちに回ってくるのはオニオンスープの役ばかり。
ある日、弟は機械の国の王がこう言っていたのを耳にする。
「野菜は生まれながらにして、平等では無い」
弟は驚かなかった。
彼は知っていたのだ。自分はキャベツになれないことを。認めたくなかっただけだ。
彼は決断し、たまねぎとして生きることにした。
カレーライスからハンバーグの具として、たまねぎらしく。
そして彼は「たまねぎの大統領」とまで噂されるまでになった。
だが兄はあきらめなかった。
キャベツを目指した。少しずつ、着実に。
30年後。
兄は死んだ。名もなきたまねぎとして。
弟は葬式に出席し、
「無駄な人生だった。」
「なんて大バカものだ。」
と罵る野菜たちを尻目に、こう言った。
「兄は意思を貫き、そして死んだ。私は夢をあきらめ、生きた。一体どちらが正しいのか。証明できるものはいるか。正しさとは一体なんなのだ。そんなことは死の間際にしかわからないのだ。」
弟はヒゲを少し直した。
兄の大好きだったトムウェイツが静かに聞こえた。
「たまねぎの兄弟」
Tom Waits 『Closing Time』
世田谷学園在学時に「全日本アンサンブルコンテスト」にて金賞受賞。 立命館大学に入学と同時に音楽活動を再開し、京都大作戦、summersonic2012にもサポートとして出演。作詞作曲も行い、シンガーソングライターから企業にまで、幅広く楽曲を提供している。