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"DIVIN" Vol.22

『DIVIN』(ダイヴィン)は、国内外の様々な記事や読んだ本、面白いinstagramアカウントなど、生活している中で得た「誰かに教えたい情報」をお伝えするニュースレターです。

イスラム国家とソーシャルネットワーク

17歳のRoyaのInstagramアカウントをスクロールすると、彼女の投稿は同じ世代のインフルエンサーや若者たちと同じように思える。

日没時にビーズの青いブラトップ、ベージュの90年代スタイルのズボンを履き、黒のコンバースでポーズをとる。彼女の長いカールした髪は、空中でふわりと跳ねている。

しかし、彼女は身元を保護するためにアカウント名を変更している。それは投稿し、彼女が生活している場所がムスリム国家であるイランであるからだ。

イランの首都テヘランでは、ヒジャーブ(ムスリムの女性が頭や身体を覆う布)なしで通りを歩いている逮捕される可能性がある。もちろんRoyaの投稿の写真のようなブラトップは論外だ。

そんな危険性がありながらも、彼女はそのアプリに夢中であり、目を覚ますとすぐに枕元でチェックを始める。

Instagram上の彼女はしばしばノースリーブ姿で、まぶたを明るい緑色のアイシャドウでペイントしたりして投稿をする。 

「Instagramのためにドレスアップをしています。私がInstagramにいるのは、私が自分の町の通りを歩いているときの時よりも、私の”現実”に近いのです。」と彼女は語る。

Instagramは、VPNなしでイラン人がアクセスできる唯一の主要なソーシャルメディアプラットフォームだ。

TwitterとFacebookが2009年に禁止されており、Instagramが最後のSNSとなっている。

その人気はコロナウイルス感染症の流行を受け、さらに高まった。ウイルスが制御不能な速度で広がる中、パンデミックは人々を屋内に、そしてオンラインに何週間も居続けさせた。

Instagramをのぞくと、日常のイラン人の生活を垣間見ることができる。ハウスパーティーの様子や、10代の若者たちがスノーボードに熱中する姿、未婚のカップルの自撮りなど、イランでは公では禁止か、”あまり良くないもの”とされているシーンである。

そして、Instagramはイラン政府に対する政治的なプラットフォームになりつつある。政府の監視がストリートであったのが、今はソーシャルメディアにと広がっているのだ。人々が自由にその考えを述べ、政府に対して主張する場所が大通りから小さな画面の中にと移っている。

Instagramの監視は、2018年12月に強化され始めた。イランのサイバー警察は、イラン人のソーシャルメディアをスパイするために42,000人のボランティアを募集した。

以降、多くのイランの女性のInstagramインフルエンサーがヒジャーブなしでの自分の写真を削除し始め、そしてプロフィールに『このアカウントはイスラム共和国の法律を順守しています。』と添えるようになった。

今年に可決された 「ヒジャーブ法」はその監視の強化の一端であると言える。この法案では、ソーシャルメディア上でも女性に伝統的なスカーフを着用することを義務付けた。

Instagramのライブ機能は、政治的なインフルエンサーがイランの内外で数十万人の視聴者とコミュニケーションをとるための方法にもなった。800人が参加(閲覧)するライブは、さながら密室の会議室へと変わったのだ。

Instagramに写真を投稿するRoya

ニューヨークを拠点とするイランのファッションデザイナー、Miladは小さい頃にテヘランに住んでいた時は、暑い夏にショーツとタンクトップを着ることは、男性にとってさえ、公の場では受け入れられないことだったとその思い出を語る。

Miladはゲイであるが、自身のセクシュアリティを認識するにつれて、祖国とは和解できないと悟ったという。(イランでは同性愛は懲役、体罰、死刑によって罰せられる)

ソーシャルメディア上であっても逮捕されるという脅威の高まりは、かつて自由に投稿できる安全な場所と見なしていたイランの人々に利用を躊躇させるキッカケとなった。

あるバイオリニストの少女は、彼女の演奏を投稿するためにアカウントを作成したが、彼女のある友人はInstagram上で歌を歌う姿を投稿している。

その投稿を見たときに彼女は驚き、心配になったという。オーディエンスが「女性だけ」でない場所で演奏することは、イランでは違法であるからだ。

彼女と友人は投稿のキャプションに別の国の場所をタグ付けし、自分たちがイラン人だと思わせないようにしていると言う。

Royaは「本当はしていることを『共有しない』という選択をしている」とする。

それは西洋の子どもたちがするような(自分と同じくらいの年頃なら誰でも憧れ、やりたくなるような)パーティーだったり、仲間との自撮りだったりだ。

自分が何気なく使うことが当たり前で、かつ脅威なんて感じないInstagram。

昨今では、”Instagram映え”の言葉に代表されるように、ソーシャルメディア上で「理想とする姿」を投稿する人々が増えた。

美味しそうな食べ物を食べ、人気のイベントに向かい、ワークアウトをし、素敵な洋服に身を飾ったセルフィーを投稿する。

それは本物のように見えて偽りの行為であるように感じる。きらびやかな、理想で溢れるタイムラインには、生活感のあるリアルな写真は投稿しづらくなっている。

汚れた食器が溜まったシンクの写真や、昼すぎまで寝続けるだらしない姿を投稿する人がいるだろうか。

イランで過ごすRoyaは、公の場であれば出来ないことをソーシャルメディアを通して表現・発信することで自身の「理想の姿」を伝えている。そしてその「理想の姿」こそが本来の自分であると考えている。

世界で最も有名な書店の1つを救う方法

パリで、いや世界中で有名な本屋さんの1つでもある、「Shakespeare and Company」。

パリの観光地として有名なセーヌ川左岸、5区に位置するこの書店。所狭しと積み上げられた本の量とその雰囲気は唯一無二だ。

世界中から本好きが集まる有名店。自分も21歳のときにヨーロッパを旅した際に、オランダで出会ったイギリス人の友人に教えてもらったのがキッカケで存在を知り、数時間この本の天国を訪れたことがある。

本の販売だけでなく、1万冊の蔵書を持つ英語文学専門の図書室も併設していおり、またこの書店はお金が無い若い作家たちに宿を貸すことで知られている。

先述したイギリス人の友人も実際に、この小さな本屋に寝泊まりしたこともあるそう。

自分が訪れたときは、2階の狭いスペースでピアノを弾く若い男性がおり、その音楽をゆったりと楽しむ光景に出くわした。

ロゴが胸に入ったTシャツは首が伸びきってしまったものの、大切にまだクローゼットに眠っている。

映画『ビフォア・サンセット(2004)』で2人の男女が前を通った、”あの書店”と言えば、パリを訪れたことが無い人でも見覚えがあるだろうか。

最初にオープンしてからちょうど1世紀余り、Shakespeare&Coは閉鎖のリスクがあると述べている。コロナウイルス感染症の影響を受け、今年3月以降、その売上は80%近く減少している。

ロックダウン中のフランス。全ての書店は閉鎖を余儀なくされている。

今後の見通しも不透明な中、Shakespeare&Coは助けを公に訴えた。彼らを手助けする方法は至ってシンプル。彼らのオンラインショップを通して、本を注文することだ。

世界中のどこからでも注文できるオンラインサイト。また、10年前の自分のように可愛らしいグッズも購入ができる。

またShakespeare&Coは「Friends of Shakespeare&Co」をスタート。45ユーロから始まるこのサポートでは、直接的にこの書店を応援することができる。

Shakespeare&Coのように、チャーミングで歴史を持つ店が閉鎖の危機に迫るのはとても悲しいことだ。

それはパリに限らず、東京でも地方でも、ニューヨークでも同じことではあるものの、訪れたことがある場所や大好きな映画で見た場所、大好きな友人の店などではその思いはひとしおだろう。

世界中でお世話になった場所がある自分は、このようなニュースを見る度に本当に切なくなる。

日本からでもオンラインで支援をする方法はたくさんある。大好きなお店を減らさないよう、できることを続けていきたい。

北欧の新しいパスポート

以前のDIVINでも紹介したパスポートデザインの話。

以前に紹介したのは台湾のあるデザインコンペ。政府が正式にオファーしているものではなく、デザイナーたちのアイデアコンペとして開催されているもの。

そこには、「今の台湾らしさ」は何かという問いの中から生まれた、それぞれのアイデアが表現されている。

あるデザイナーはタピオカで台湾の国の形をつくり、美味しそうな魯肉飯のグラフィックにした。またあるデザイナーは美しい自然や自然動物たちをコラージュしたものを制作した。

長く使われるパスポートのデザインだけに、「今」に即したデザインや表現になっているかと言われるとそうではなく、やはり古くからの伝統のような仰々しいデザインになっているものが多いと思われる。

さて、今回は北欧のスウェーデンのパスポートデザインについて。

ノルウェーのデザインスタジオ「Neue」がデザインを担当した新デザインだ。こちらは台湾とは異なり、実際にスウェーデンの人々が手に持ち、世界中を旅することとなる。

パスポートデザインを考案する中でスウェーデンの文化のルーツとなっているもの、世代や性別を超えて根本となっているものを考えたとき、それは自然だという結論に達したという。

そして自然はスウェーデンの産業(漁業や水力発電など)を支えているものであり、繋がりが強いと言う。

スウェーデンの北から南までの美しい景色を、シンプルにグラフィックで表現したページデザインとなっている。

Neueはスウェーデンやノルウェイなど北欧各国でのデザイン、ブランディングを担当しており、世界中で著名なデザイン賞を受賞しているスタジオ。

「LOS」というノルウェーの電力会社のブランディングもとても可愛いのでオススメ。

今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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edited by Ayumu Kurashima

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illustration : @mihirayuta

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