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"DIVIN" Vol.25

『DIVIN』(ダイヴィン)は、国内外の様々な記事や読んだ本、面白いinstagramアカウントなど、生活している中で得た「誰かに教えたい情報」をお伝えするニュースレターです。

”自分がほしいもの”を売る

昨今のD2Cブランドの盛り上がり。アメリカでは飽和しつつあると言われているが、今年に入ってもやはり話題には事欠かない。

それどころか、コロナ禍でオンラインでの取引量は増え、従来の店舗型ではなくオンライン型を主流とするD2Cブランド、プロダクトは人気を更に集めている。

D2Cブランドが人気である理由の1つは、”まさに自分が好きなもの”、”まさに欲しかったもの”が得られるからではないだろうか。

大手企業がどこかで見たようなデザイン、カラーリングの商品を作り、全国に散らばる店舗で一斉に販売を開始する。最大公約数的なデザインはある程度の販売実績を見込めるだろうが、それで満足できない人々もある一定層存在した。

そんな消費社会になんとなく不満抱えていたZ世代、ミレニアル世代たちを中心に多くのD2Cブランドは急速に人気を高め、売上を天文学的に伸ばしていった。

「こんな色が欲しかった!」というマニキュア、透明性が高く、真にサステナブルと言えるアパレルブランド、家に置いてもかっこよく、インテリアとしてもクールなフィットネスプロダクトなどなど。


今までスケールビジネスで勝負をしていた大手企業ではとれない戦略を彼らは多く取った。大手企業が行っていたのは大量にものを作り、大量に消費することで巨大な利益を得るシステムである。

そこにD2Cブランドは、想いがのったプロダクトをプロトタイプで作り、コミュニティ内でフィードバックを重ね、少量から生産を始める。熱狂的な支持者を得て、徐々にバリエーションや生産量を増やしていく。

この”想い”はつまりは創業者の想い、パッションである。

2010年代、UberやLyftなどに代表される「隙間時間にお金を稼ぐ個人」が急速的に増え、この経済圏(エコノミー)は「ギグ・エコノミー」と呼ばれた。

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ライブを意味する「ギグ」から由来するこのギグ・エコノミーは、まさにアーティストがライブを1つ行うごとに報酬を得るように、個人が好きなときに好きに働く、新しい働き方として2010年代を代表する考え方となった。

アメリカではこの「ギグ・エコノミー経済圏」に参加して個人としてお金を稼いでいる人が労働人口の1/3を越えていると言われている。

登場したときは世界中で持て囃された考え方であったものの、次第に問題も顕在化してきた。

Uberでイメージされるように、プラットフォームは一貫性と効率を優先したことにより、サービス提供者自体についてはコモディティ化が進行した。

つまり、提供者は誰でもよく、一定のレベルでサービスを提供できることが大事なのである。Uber Eatsでドライバーを選ばない(選べない)ように、個ではなくプラットフォームの最適化、効率化が求められ、それが最大の強みとなったのである。

個性は求められなくなり、きちんとルールの中で効率よく”作業する”ことが求められる。個性はいつしかバグとなった。

そんなギグ・エコノミーのアンチテーゼとして生まれたのが、アメリカの超有名VCであるa16z(アンドリーセン・ホロヴィッツ)のパートナーLi Jin氏が提唱した「パッション・エコノミー」。

SNSの盛り上がりもあり、個人がより容易に発信できるようになったことで、今まで求められていなかった個性が強みとなり、自分の個性や情熱に興味を持ってくれるオーディエンスを得ることが可能となった。

Li Jin氏の提唱する特徴の中で特に印象に残る言葉が、『個性はバグではなくセールスポイントになる』という説明である。

サービスとしてイメージしやすいのが、いままさに読んでいるnoteやPodcastなど。個人の発信、想いの熱・個性が強みとなり、収益化を可能とする経済圏だ。

D2Cブランドに自分が惹かれる理由の1つは、この「個性」が強く出ているからだろう。その個性とは、開発者、創業者のパッションである。

不特定多数へのプロダクトではなく、誰かへのプロダクト。D2Cブランドの創業秘話やABOUTページを見ていると、自分自身のある経験だったり、家族や友人のために考えたサービス、プロダクトであることが多い。

アメリカでKatherine Power氏が立ち上げたコスメブランドMeritの創業にまつわるストーリーもまさに、彼女自身の経験がキッカケとなっている。

Katharineは、自分自身のような忙しい女性のための問題を解決する、ハイエンドのメイクアップとしてこのMeritを始めたと言う。

彼女がニューヨークで働いて時、会議の途中で狭いタクシーの後部座席で慌ただしく化粧をしなくてはならなかった。時間に押しつぶされて生活する中でコンセプトを見つけたと言う。

そのコンセプトと気付きは、"自分のように自分をより良く見せてくれる美しく高品質なプロダクトを求めている人は沢山いるのではないか。ただし、少しの時間で出来るプロダクト”というものだった。

まさに自分自身が欲しい夢のようなプロダクトだったのだ。

Meritは今、「ZOOM会議の前に5分で住むコスメグッズ」のような分かりやすいキャッチコピーとともに多くの人気商品を販売している。

毎週のように新商品が販売されるコスメ業界の中でも、Meritは7つのプロダクトを2年掛けて形にし、ミニマムなデザインと高い安全性、環境に配慮したプロダクトを提供している。

Meritは今、アメリカ大手チェーンのTargetでも販売が開始されている。一部の人のために作られたはずのプロダクトがマスの市場に出てきているのだ。

先日読んだ電通Bチームの本でも「Prototype for one」というアイデアとともにこう紹介されていた。

このアイデアは「みんなのため」ではなく、「大切なひとりのために」考えたモノとしている。

家族や親戚、恋人、友人、ペットなど困っている人を助けるために作ってみたら、実はみんなが欲しがっていたものだった。

例えば、Prototype for oneの場合、ターゲットである「ひとり」が実在し、しかもすぐ身近にいる。よって、「ターゲット」の行動や習慣などの観察がすぐできて、潜在するニーズやその人が抱えている課題も発見しやすい。

こう困っているから、こういうふうに助けられるはずだ。そこから導き出せる解決策には、自然とその人ならではのストーリーが内包される。


自分が、飲食店でも大手チェーンではなく、個人店が好きな理由も同じだ。紙のメニューにはオーナーやシェフの想いが強くのっており、インテリアや音楽などでもその個性が現れる。

その人らしさ、プロダクトでもあっても人の温かみ、パッションを感じるモノに人は引き寄せられるようになっている。


”来てほしい人”を選ぶ観光都市


以前のDIVINでも紹介したオランダ・アムステルダムの話。

美しい運河や町並み、パリやロンドンに比べて安い物価、自然豊かで美術館も多く、過ごしやすいこの街は世界中でも屈指の観光地となった。

自分の周りでも、日本人、外国人に関わらず移住している友人がいる。

コロナウイルス感染症を受け、アムステルダムが自主的なロックダウンを進めた結果、年間数百万人の観光客が訪れていた街は様変わりした。

観光客が溢れていた運河の道は静かになり、広場のゴミは減り、夜遅くまで酔っぱらい騒ぐ騒音問題は無くなった。

ホテルの新設を2017年から禁止するなど、このオーバーツーリズムに対しては政府も対策を練っていたものの、急に現れたこの静けさに地元の人たちはやっと日常を取り戻している、という話である。

さて、そんなアムステルダムでの今週のニュース。

アムステルダム市長が最近政策の1つとして発表したのは、観光客に対してコーヒーショップの利用を制限するというものだ。

アムステルダムは大麻が合法であり、購入・使用が可能なこの”コーヒーショップ”を求めて、ヨーロッパ中から人々が訪れるという面もある。

オランダの観光を支えてきたのが、この
"ソフトドラッグの観光地 "としての面だった。しかし、この状況を現市長は変えようとしている。

市長は、「アムステルダムは国際都市であり、観光客を誘致したいが、我々は観光客が文化的な豊かさ、美しさのために訪れるようにしたい」と年始に語った。

この国で大麻を消費することは厳密には違法ではあるが、5グラム未満の所持は1976年に寛容政策の下で非犯罪化にされた。そして一部の場所で使用を禁止にするのみとし、許容した。

しかし警察及び検察官によって支持もあり、市長は166店舗もあるのマリファナを販売するコーヒーショップに入ることをオランダの居住者だけを制限する提案を掲示し、来年2022年に施工される可能性が高いと言われている。

政府の調査では、アムステルダムを訪れる外国人観光客の58%が主にマリファナを消費するために来ていると発表した。

大麻目的の観光客は低予算での旅行であるとされている。市は、必ずしもお金をたくさん持っている人だけに来てほしいと、言っているのではなく、美術館や食べ物、愛や友人に会うためにアムステルダムに来てほしい、と真意を語っている。

観光業により成功も失敗も得たヨーロッパ屈指の人気都市アムステルダム。オーバーツーリズムの問題を乗り越え、彼らは「来てほしい人」を選び、過ごしやすい街を再び取り戻そうとしている。


大手企業のリブランディング

ここ最近ネットで見た大手企業のリブランディング事例。

日本でも多くの店舗を持つ人気ハンバーガーチェーン、Burger Kingとアメリカ大手製薬企業ファイザーのリブランディング施策。

ファイザーは70年の創業以来初めてのリブランディングを行い、バーガーキングのそれは20年ぶりとなった。

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ファイザーのリブランディング作業は2年前から始まり、このロゴの刷新が最後のステップとされている。当初はもう少し時間が掛かる予定だったはずだったが、新型コロナウイルス感染症のワクチンの開発においてファイザーが筆頭となると、ロゴの発表は大急ぎで進められた。

200の候補が集められた中、選ばれたのはアメリカ・ブルックリンのデザインスタジオ”チーム”の案だった。

過去のワークスには大手企業のロゴが並ぶが、そこまでまだ有名なチームではなさそう。美術館やアート、D2Cブランドのブランディング、戦略を担当しているチームのようだ。


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フォントは従来のロゴからは大きく変えず、色使いも青をキーカラーに選定したことで、大きな刷新とはなっていない。

しかし、以前のロゴが錠剤を想起させるのに対し、新しいロゴはDNA構造などを想起させる。

ファイザーは今後、単なる薬の開発をする企業としてだけでなく、化学をベースに様々なイノベーションを起こしていきたいと言う。化学の力は個の力を超え、多くの障壁を解決するのだと。

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バーガーキングは以前のロゴに比べてレトロなイメージとなり、より看板商品”ワッパー”を想起させるものとなった。

今回のリブランディングでは、ロゴ以外にもユニフォームやパッケージなど大幅な刷新となった。このリブランディングは今後数年掛けて各プラットフォーム、店舗へと広がって行くという。

面白いのが、新しい広告クリエイティブではバーガーキングのロゴを表示しないクリエイティブも始められるそう。

大手企業がコーポレートアイデンティティやブランドアイデンティティを変更する時、どんな思いがあるのか、なぜいま行うのか、いま発表するのかを色々妄想しながら見るのが好きだ。

今回は誰もが知る企業2つをご紹介した。

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今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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edited by Ayumu Kurashima
Instagram: @micronheads
Twitter : @micronheads_new

illustration by @mihirayuta


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