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ビートルズ再発見

なんのきっかけだったか、ここ数日ビートルズをよく聴いている。特に『Magical Mystery Tour』、『Yellow Submarine』と『Revolver』。ビートルズは父の影響で小学生の頃よく聴いていたが、中学生になり田舎に遅れてやってきたバンドブームに自分も飛び込んでいく中、BOØWYやJUN SKY WALKER(S)、THE BLUEHEARTSといったバンドに興味が移り次第に聴かなくなっていった。もちろんその後も曲単位ではたまに聴くことはあるものの、まとめてアルバムをじっくり聴く機会はもう20年、もしかしたら30年近く、ほとんどなかった。聴くとしてもいわゆる"青盤"をなんとなく流しておくくらい。後期ベストであるこの盤に収録されていない曲はずっと聴いてなかった。

さて、そんなビートルズの音楽、改めて聴いてみて本当に驚いた。今聴いてみても古臭さをほとんど感じない。さすがに最近のデジタルサウンドが入っていない、70年代以降使われる深いディストーション等の歪みも使われていない等々、ビートルズ以降に出てきた音が入っていないのは確かにそうなのだけど、そこに入っている音に古臭い時代を感じさせるものがない。これは本当に凄いことだと思う。なにしろビートルズは実質的には1960年代一杯しか活動していない。最後を1970年としてももう半世紀も前の音楽になる。

ビートルズは今のポップス・ロックの基礎を作ったとはよく言われることで、斬新すぎる音楽を「ビートルズがやり残した音楽」とか揶揄するくらい当時先進的な手法を編み出し実用化してみせた。その功績が確かに今も生きていることの証明が「今も古さを感じさせない」ことだ。

使っていた手法、語法がある特定の年代、例えば1960年代でしか使われず、その後の音楽ではあまり見かけないようになるとその手法、語法はよく使われていた特定の時代を想起させるようになる。そして今聴くと「懐かしい」とか「古臭い」とか感じるようになるわけだ。ところが、手法、語法が完全に定番化して、今もあらゆる音楽に普通に使われるような状態であれば、それは古さを感じなくなる。今も普通に耳にする音楽だからだ。ビートルズの音楽はそのように今の音楽の中にも息づいているからこそ、半世紀経った今聴いても古さを感じない。

自分もビートルズをよく聴いていた小学生の頃から比べると随分たくさんの音楽を聴いてきた。ポップ、ロックはもちろんクラシックもジャズもワールドもその他諸々も、小学生当時の自分が知りも想像もしないような音楽にもたくさん触れてきた。そのおかげで当時は気付かなかった凄さにも改めて触れられるし、当時好きだった曲はもちろん好きなのだけど、当時はあまり理解できなかった曲も今聴くとよさや凄さがわかるようになっていた。正直、後期の曲は小学生には難解なものも多く、『LET IT BE』や『HEY JUDE』のような比較的わかりやすい曲を中心に聴いていた。例外的に『I am the walrus』のように若干難解でも何故か当時も琴線に触れた曲もあるが、それは例外。小学生には後期ビートルズはやっぱり難しい面はあった。

例えばアルバム『Yelloe Submarine』。タイトルトラックはもちろん、『All Together Now』や『All You Need Is Love』のような知名度も高いキャッチーな曲はもちろん好きだったし今もいいと思うけれど、今聴いて耳を引いたのは当時ほとんど流してしか聴いていなかった『Hey Bulldog』に『It's All Too Much』。ヘヴィなリフが全編を支配する前者は、深いディストーションをかけたサウンドにすればもうそのまま70's~80'sのギターロック。対照的に高音域で通奏する煌びやかなシンセやギターが印象的な後者も、これボンジョヴィ辺りがやってても違和感ない。むしろ有名でキャッチーな曲よりこっちの方が奥深くすら感じる。

アルバム『Revolver』。まず楽曲のタイプが多彩も多彩なのにも驚かされる。ここでも多彩なインド楽器とリズムが炸裂する『Love You To』とか今聴いても斬新。ポップやロックの世界ではなかなか理解されなかったことだろう。軽妙なパートとどこか切なくセンチメンタルなパートの対比が素敵な『Doctor Robert』。比較的聴きやすい曲ではあるけれど、この切ないメロディ・ハーモニーの魅力に当時の自分は気付けなかったのかなと思うと、音楽を聴くのにも経験は大事だと実感する。LSDの影響が色濃くサイケデリックとよく言われる『She Said She Said』。個人的には非西洋的なリズムと音使いでプリミティヴな印象も受ける。

この2つのアルバム、今自分が再評価に挙げてきた曲は見事にどれも解散直後にリリースされた後期ベストの青盤には入っていない。傑作が多いが難解な曲も多い後期ビートルズの中において、これらの曲は当時も世間的には(少なくとも青盤に収録されているわかりやすい名曲たちに比べて)評価されていなかったのだろう。だが改めて聴いてみると今でも色褪せない実験的で、今言うならプログレッシヴな、楽曲たちの先進性と音楽としてのクオリティの高さがわかる。自分の中で唐突にやってきた後期ビートルズの再評価、まだ改めて聴き込んでない『Abbey Road』やホワイトアルバムもきっと楽しめることだろう。半世紀も前にこれだけの音楽を作っていたビートルズの凄さ、もしかしたら一生かかっても味わいつくせないのかもしれない。

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