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成人分野と小児分野の違いは?小児を担当して感じること【Vol.13】言語聴覚士 まっちゃさん

言語聴覚士。ことばによるコミュニケーションに難がある方に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職である。

小さな子どもをもつ親は「子どもがなかなか言葉を話さない」「特定の発音が難しい」など、言語発達に課題や不安を感じたとき、彼らの支援を受けたくなるだろう。

しかし残念ながら、生活圏内でアクセスできる小児分野の言語聴覚士は非常に少ない。

そこでこの連載では、小児分野の言語聴覚士やその育成に関わる方に話を伺い、子どもの言語発達に関するトピックや、言語聴覚士としての活動内容などを紹介する。

子どもの言語発達に悩むすべての人に、この記事が届きますように。


今回お話を伺ったのは、言語聴覚士のまっちゃさんです。回復期病院で成人に対する支援を続けているものの、今後は小児分野で働きたいと考えているそう。そんなまっちゃさんに、なぜ成人分野から小児分野へ転向したいと思ったのか実際に小児分野で働いてみてどう感じたか、などについてうかがいました。

言語聴覚士 まっちゃさん

言語聴覚士12年目。回復期病院を2ヶ所経験。育児をきっかけに数年前から保健センターでの「ことばの相談」を兼務。夢は赤ちゃんから高齢者まで携われる、地域に寄り添う言語聴覚士になること。産休育休中に様々なSNSで発信活動に挑戦中。プライベートでは6歳娘、0歳息子の2児の母。

成人分野の言語聴覚士に。やりたいことと現場のニーズのギャップを感じる

——はじめに、まっちゃさんが言語聴覚士になった経緯を教えてください。

まっちゃさん(以下略):

私が言語聴覚士という資格や職業を知ったのは、母の"勘違い”がきっかけです。小学生の頃から手話に興味を持ち始め、中学生の頃には母に「将来は手話に関連した仕事に就きたいな」と話していました。

そして高校生になったある日、母が「こんな本あったよ!」と『言語聴覚士まるごとガイド』という本を紹介してくれたんです。そう、母は言語聴覚士の仕事内容を勘違いしていました(笑)。

せっかくなのでその本を読んでみたら、言語聴覚士は手話を扱う仕事ではないものの、言葉に関する専門家として働ける、やりがいのある仕事だと感じましたね。そこから言語聴覚士に興味を抱き、養成校へ入学して言語聴覚士として働くようになりました。

——言語聴覚士としてのキャリアを、どのように積んでいきましたか?

養成校を卒業してからは、特に迷いもなく成人分野の言語聴覚士になりました。特に失語症や高次脳機能障害などに興味がありましたね。

資格取得後は回復期病院に勤務し、最初の病院で4年、結婚を機に転居し、別の病院で8年勤務しました。介護予防事業にも少しだけ参加したことがあります。

就職前後でギャップを感じたのは、病院で求められる仕事のほとんどが、摂食・嚥下患者の評価、訓練だったことです。高齢化が進んでいるので仕方のない状況ではありますが、本来やりたかった失語症などの患者への評価、訓練依頼が少なかったですね……。

小児分野の言語聴覚士になりたい!きっかけは「市の事業」と「SNS」

——まっちゃさんは少しずつ小児分野での経験を積んでいると聞いています。そのきっかけを教えてください。

きっかけはふたつあります。ひとつは、市の保健センターで実施している「ことばの相談」事業に参加したことです。

今から6年ほど前、第一子の離乳食のことで悩み、市の栄養士さんに相談していた時期があります。そのときにたまたま言語聴覚士をしていることを話しました。

そうしたら子どもが1歳になって職場復帰したタイミングで、その栄養士さんから「市の保健センターでやっている『ことばの相談』で欠員が出る。担当してもらえないか」と相談を受けたんです。

小児分野は初めてでしたが、せっかくの機会だったので、月1回のペースでお子さんのことばに関する訓練や、保護者の相談に乗るなどの活動を始めました。

2022年に産休に入ったため参加は一度ストップしていますが、産休明けからまた無理のないペースで復帰する予定です。

——もうひとつのきっかけも教えていただけますか。

もうひとつは、SNSを介して小児の言語聴覚士の少なさを知ったことです。

私は3年ほど前から情報収集のためにSNSを活用しており、そこでさまざまな言語聴覚士さんと触れ合うようになりました。

これまでの職場に言語聴覚士の先輩があまりいなかったこともあり、他の言語聴覚士さんがどんなことを考えて働いているのか、病院以外にどんな働き方があるのか、初めて知ることが多かったです。

小児分野の言語聴覚士が全国に約4,000名しかおらず、慢性的に不足していることもSNSで知りました。「人手が足りないのなら、もっと知識や経験を積んで、小児分野に踏み出そうかな」と感じたのがふたつめのきっかけです。

成人分野と小児分野の支援の違いは?

——成人分野と小児分野では、その支援内容にどんな違いがあるのでしょうか。

最も違いを感じたのは、保護者への助言の割合です。成人の患者さんのご家族にも退院指導を行いますが、お子さんの保護者に対する助言は、その何倍も必要でした。

小児の支援は、保護者の協力があってこそ成立すると思います。だから保護者との信頼関係はとても重要。私自身が「自分の子どもを見てもらう言語聴覚士」としての期待に応えて、納得のいく説明ができる力をつけなければ、と感じています。

——印象に残っている「小児分野での支援」はありますか?

よい経験になったと感じたのは、年少から関わったあるお子さんの支援です。その子は「発音が気になる。サ行の音がタ行になってしまう」という理由で通っていたのですが、初回の面談では、一言も発してくれませんでした

そこで、まずは場に慣れることから始めようと、保護者と相談しながら計画を立てて。なかなか話してもらえない日が続きましたが、だんだんと手を振ってくれるようになり、初回から3〜4回目でポソポソと話してくれるようになりました。

——小児での経験が少ない中で「話してくれない」のは、つらい現場だったのでは……?

内心はヒヤヒヤしていましたが、毎回保健師さんが同席していたので、相談しながら支援を進められてよかったですね。また、私の前で話してくれない間は、自宅で撮ってもらった動画で評価するなどの工夫をしました。

本格的に発音の練習ができたのは年長さんからです。就学前健診までには発音をよくしたかったのですが、それは達成できず、小学校内にある「ことばの教室」におつなぎしました。

発音を完全によくできなかったことは心残りですが、一言も話してくれなかった初回から考えると、お互いによい関係性を作れたと思えた支援でしたね。

「やりたい」と声に上げて、きっかけを掴みに行こう

——今後はどのような活動を考えていますか?展望を教えてください。

これまでは回復期病院で長く働こうと思っていましたが、小児分野の言語聴覚士が足りないという現実を知った今、もっと小児分野での経験を積みたいと考えています。

復職後すぐではありませんが、転職も視野に入れています。興味があるのは訪問リハビリ。病院の外で働く言語聴覚士になってみたいです。

また、私が住んでいる市には常駐の言語聴覚士さんがいるのですが、それでも市の全域に支援が行き届いているとはいえないと思います。言語聴覚士は長く働ける職種なので、自己研鑽を積み重ねながら、足りないところに手が届くような言語聴覚士になりたいですね。

それから、学生や若い方が言語聴覚士を知って目指してもらえるよう、SNSでの発信も続けていこうと思います。

——最後に、小児分野に興味を持っている言語聴覚士やその卵へ向けて、メッセージをお願いします。

私が言語聴覚士になるきっかけをくれたのは母、小児分野に挑戦するきっかけをくれたのは保健師さんでした。どこでどんなご縁があるかはわからないので、まずは「小児の言語聴覚士になりたい」と、思っていることを伝えてみることが大切だと感じています。

私は小児分野の経験はまだ多くありませんが、きっかけをもらって飛び込むことができました。新しい分野に飛び込むときは不安な気持ちもあると思いますが、思い切って飛び込むと世界が広がります

周りに小児の経験者や相談できる相手を見つけて、ぜひその一歩を踏み出してほしいと思います。一緒にがんばりましょう!

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