今日の本|「楽園への道」マリオ・バルガス=リョサ
画家ゴーギャンとその祖母トリスタンの、まさに波瀾万丈、壮大な物語、「楽園への道」。
この本を読んだのは確か二人目の子供を産んだ育休中、もう8年前!
色彩豊かな、胸いっぱいになるような読後感を、今でも覚えています。
読むまでは、ゴーギャン?確か画家だよね?くらいの知識しか持ち合わせていませんでした。
その祖母トリスタンが、虐げられていた女性と労働者の人権を求めて革命を起こそうとしていた女性だということも、もちろん知らない。
この本は、ゴーギャンとトリスタン、それぞれが隔章ごとに半生を回想する形をとった物語です。
史実として、トリスタンは1844年に41歳で死亡、ゴーギャンは1848年生誕なので、二人の間に家族としての接点はありません。
しかし、それぞれがまわりをざわつかせながらも、自分の信念に従って生きていく半生は、時代を超えてクロスオーバーしています。
もう少し実践的に(打算的に)生活していったほうが楽だし、幸せになれるだろうに、二人とも自分の目指す道を決して諦めなかった。
そしておそらく、自分の目指す道も半ばのまま、不幸のうちに死んでいった。
二人は自分の目指す理想と現実に、あまりにも落差がありすぎて、それに絶望しながら、もがいて生活しています。
それを読んでいる身としては、描かれているその落差こそが、豊穣で、多様に感じられるのです(差別や性などのモラルはさておき)。
読んだ後も気になるほどこの物語に惹きつけられたので、さっそく二人の生い立ちなど事実関係を確認してみましたが、それぞれ存命中の記録があまり残っていない人物らしいです。
ゴーギャンがモデルだと言われるモームの「月と6ペンス」も、福永武彦「ゴーギャンの世界」も、池辺一郎「未完のゴーガン」も読んで、画集も買い求めました。
でも、結局は作品からしか、彼の真意を汲むことはできない(で、結局よくわからない)。
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順風満帆な証券マンだったのに、家族を捨てて売れない画家に転身、理想を求めてタヒチに行って孤独に死ぬとか、こんなドラマチックで波乱に満ちた人生、そりゃ作家の創作意欲を掻き立てますよねーー。
「月と6ペンス」で描かれるストリックランド(ゴーギャンがモデル)も魅力的だったけど、「楽園への道」は、祖母トリスタンを絡めているのが、やっぱりポイント。
8年前に初めて読んだときは、刺激的で挑発的なゴーギャンの人生に目を奪われて、トリスタンの話が邪魔に感じたけど、改めて読むと、二人の人生が並ぶことで、より厚みのある物語になっていることに気付かされる。
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