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ゴッホ展―響きあう魂 ヘレーネとフィンセント

ゴッホ展―響きあう魂 ヘレーネとフィンセント
東京都美術館



いつもこういう大型の企画展に行く前には必ず予習をしてから行くのですが、今回はゴッホやし、マブやしと思ってHPすら見ずに来たのですが、たまにはこういうなんの情報も入れていかへんのもいいなぁと思いました。

本展、へレーネ・クレラー=ミュラーという女性コレクターによる珠玉のゴッホコレクションが見れるのですが(ゴッホ美術館からも数点来てる)、ヘレーネにちゃんと絵を理解してもらえて作品を大事にしてもらえてたからなのか、それともわたしのコンディションが良かったからなのか、作品たちがとても元気そうに思えました。



と、そんなわけで医師遠藤は「今日のご気分はいかがですか?」と1点1点ゴッホのメンタルチェックをしながら回診鑑賞していたのですが、そんな時にうしろを通りすぎて行った数組のカップルが、「ロマンチックだね」「綺麗だね」といった感じの感想を述べていくのを聞いていて、はて?もしかしてこの人たちはゴッホの精神異常なんかには気付いてへんにゃろか?と思い、確かに遠藤はゴッホについての書籍や手紙を読んで、いつの時代にどんな気持ちでそれらの作品に取り組んでいたかということを前知識として知ってしまっているので、自動的に内面を掘り下げる視点で見てしまってるのかもしれへんと思いました。

というわけで架空の恋人を召喚し(え)、ゴッホの実物の絵を初めて見る女設定でサン・レミ時代に描かれた一連の作品を見渡してみると、確かにとても美しい。ただただ美しい。これはなるほどうっとりロマンチックや。

実際のところはサン・レミ時代はゴッホの精神がまじでまじでギリギリの時なので、私はこの時に描かれた絵を見ると彼のことがめちゃくちゃ心配になるし自分の感情も重ねてしまうので胸が相当苦しくなる。今回の目玉作品の「夜のプロヴァンスの田舎道」など風の流れを描いたような渦巻くぐるぐる表現はゴッホの所在不明の心の行き所を可視化したような気がして、混迷を極めてる…!!大丈夫なんゴッホ!?消化できひんこのモヤモヤを絵を描くことで救いを見出そうとしてるんやろか…セラピーやん…ゴッホぉ〜と泣きたくなるのです。

でも確かにこの時の絵って精神があれやからって決して暗い陰鬱な感じなんかじゃなくて、反対にむっっちゃくちゃ色彩が鮮やかで、バッシバシに輝きを放ってて、ピッカピカに眩しくて、濃!厚!な燃えるようなタッチで描かれてる。

架空恋人モードで見たら、その表現は圧倒的に美しく目に映るし、何かに激しく昂っている絵というのはとてもドラマチックに感じる。

というわけで、一つの体調の変化も見逃さないぜ?と言わんばかりに眉間にシワを寄せながら凝視する大門未知子スタイルでは見えてこなかったものが感じれたのが今回の良かったところです。改めてゴッホの絵の魅力に原点回帰できました。

アルル時代の「種まく人」に描かれた太陽も素晴らしかったなぁ。



さて、私は今回ゴッホに会いに来たのではありません(ひどい)。そう!!ルドンの「キュクロプス」に会いに来たのです!!!!!!!!!!!!!!念!願!の「キュクロプス」!!!!!!!うぉおぉおぉおぉ!!!!!!(落ち着け)ヘレーネはルドンの作品も集めていたんです。ありがとう!ありがとうへレーネ!!!!!

さて、こちらの題材はギリシャ神話がもとになっています。キュクロプス族という単眼の巨人組合の中にポリュペーモスさんという凶暴なやつがいるのですが、かわいいガラテアちゃんという海の妖精に片思いしてしまいます。もう完全にお熱で健気にアタックを続けるのですがガラテアちゃんはもちろん振り向いてくれません。単眼巨人怖いし。そのままポリュペーモスさんは重度のストーカーになり、挙句の果てに嫉妬にまみれてガラテアちゃんの恋人を殺してしまいます…!!!もういろいろあかんすぎるやろ案件なのですが、ルドンの描いたポリュペーモスさんは他の画家が描いてきたポリュ像とはかなり違い、そこに凶暴さはありません。

山からひょっこりガラテアちゃんを控え目に見つめるポリュペーモスさん…。わたしこれ、写真で見てた時は画素が低すぎてわからなかったのですが、実物を見て彼の目にほんのり涙が溜まっているように見えました。え、え、えーーーーー泣いてんの?!泣いてんのかポリュペーモスさん?!!!!!これはもう胸がきゅーーーーーーってなるやつです。だってガラテアは美しい花々の中に横たわって寝ているだけではないからです。通常の解説文では「寝ているガラテア」で済まされてますが、否、これはあきらかにポリュペーモスさんに背を向けて、隠れるように横たわっている。明かに「拒絶」の意味だと思います。「拒絶」や「孤独」がルドンにとってどれだけトラウマか、彼の人生を見ていけばわかりますが、この絵が描かれた時は既に最愛の妻とも結婚しています。まだ幸せを受け入れるのに戸惑ってたんやろうか。

ただ言えるのは「拒絶」の怖さ。期待などせずとも愛した人が愛してくれへん、愛してくれてたのに愛してくれなくなる日が来るというのは想像しただけで辛すぎる。えーん。ルドンはもしかしたらいつか妻に拒絶される日がくるかもしれないと先に最悪の状況を想像しておいて、ダメージを最小限にしようとしたのかもしれないなと思いました。最初から期待しないというやつ…。

また、ポリュペーモスは巨人、ガラテアは小さな妖精です。力の差を行使してガラテアを自分のものにすることだってできるかもしれません。でも彼からは「彼女を傷つけてはいけない」という気持ちが伝わってきます。愛じゃん。ぎゃーーーーーん泣いちゃう。

というわけで、「キュクロプス」、一見穏やかに見える絵の中で秘められた荒ぶる葛藤に心が掻き乱される作品でした。はぁ、まさかこんなタイミングでこの絵が鑑賞できるとは。本当に嬉しい。凄かった。



ゴッホ作品や「キュクロプス」以外にもへレーネが集めた作品の温度感、とても心地よかったです。

ヘレーネが各画家の精神に寄り添っているような、画家へのリスペクトが感じられる作品が多かったのと、我々鑑賞者も心がぽわ〜ってなるような優しい色合いのものが多い印象がしたので、コレクターというよりは母だなぁと思いました。価値があるから好みだからという理由以上に、オランダ出身作家への敬意はもちろん、1つ1つの絵の持つ力や画家の姿勢をきちんと理解して向き合ってこられてる気がして、とても愛があるなぁと思いました。ゴッホの作品も元気なわけだ。

クレラー=ミュラー美術館、まだ行ったことがないので行きたいです。お庭も綺麗なんやって。






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