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1894 Visions ルドン、ロートレック展

1894 Visions ルドン、ロートレック展
三菱一号館美術館




今年は三菱一号館美術館開館10周年というおめでたい年でした!遠藤はこのジョサイア・コンドル設計の赤煉瓦建築が大好きなので、美術館として訪れることができてめっちゃ嬉しいし大好きな場所です。

というわけでそんなおめでたい年の集大成として開かれている本展は、この美術館が特に熱心に所蔵研究されているルドンとロートレックの作品をメインに超気合の入った展示になっています。最初の絵がモローの「ピエタ」で、「ぶえ〜!終わらん、今日は終わらんやつや…」ってなりました。1点1点とてもいい作品が揃ってました。



この美術館で過去に何度もルドンの「グランブーケ」とロートレックのポスターは見てきたので、おんなじような内容なんやろか?って思ってたのですが、ミレー、モネ、ルノワール、ドガ、ピサロ、セザンヌ、ゴーガン、ヴァロットン、ボナール、ドニ、山本芳翠、黒田清輝、藤島武二、梅原龍三郎、青木繁という感じで、バルビゾン派、印象派、ポスト印象派、ナビ派、日本洋画界の重鎮たちと色とりどりの作品があってめちゃくちゃ興味深かったです。

というのも全て三菱一号館美術館の建物ができた『1894年』を軸に構成されてて、パリのベル・エポックの豊潤さがありありと伝わってきました。憧れの時代だなぁと毎回この時代の絵を見る度に思うし、タイムスリップできるなら絶対1890年代と決めている。



今回の展示での新しい発見は「版画」でした。わたし、版画ってあんまりわかってなくて、ドライポイントやエッチングは中学生の頃にやったことがあるので銅板をニードルでひっかいて描く凹版画だと理解できるし、木版画は木を彫って刷る凸版画なのももちろんわかる。

でもリトグラフってどういう版画技術なのかよくわかってなくて、ロートレックもミュシャもリトグラフなんかぁというやんわりした理解度だったのですが、リトグラフってなんで描いたままの絵が印刷できるん?どういうことやねん?凸なん?凹なん?なんで原画が残ってへんねんってことを先日ようやく勉強してみると、油と水の原理を活用してるので、線も面も再現できることと当時は貴重な石板に描いてたから描いては消して使い回してたことを知って、なんて天才的な版画技術なんや…と感動しました。

色を変える時はまたそれ用の版をつくらなあかんし、1枚1枚刷るのも行程が多くて手間もすごいかかることもわかりました。それを知った上で今回改めてロートレックのポスターを見ると、見え方が全然変わったというか、え、これ、す、すごい…!!!と興奮する点が色々あって、突然リトグラフに興味が湧いてきました。
印刷のズレとかも愛しく思える。

美大とか芸大の人は在学中リトグラフやったんですか?めっちゃ羨ましい。わたしもやりたい。



ロートレックのポスターを見ていると2〜3色刷りで(ミュシャになってくると金なども使った多色刷りができるようになってくる)、すごく削ぎ落とされた色彩表現になるのですが、色が少ないからこそ象徴的に見えるようなダイナミックな線と面と文字で構成されてて、リトグラフの良さみたいなのが最大限に活かされてて、きっとロートレックはリトグラフのおもしろさに夢中になってたんやろうなぁというのが伝わってきました。
また、「制限」に対して最上級のもの作ってやろうやないかい!という気概を感じて、新しい技法と芸術家の出会いってなんかすごいえぇなぁ燃えるなぁと思いました。

特に「アリスティド・ブリアン」は浮世絵の役者絵のような粋な構図はもちろん、真っ黒なマントがかっこえぇなぁと思ってたのですが、よく見るとアウトラインが緑味を帯びたグレーで縁取られてます。ほかの作品も見てみると、黒ではなくその緑味のグレーが多用されてて、マントや手袋などバシッとキメたいとこに黒が使われてる。
深い緑味のグレーの美しさはもちろん、黒のかっこよさを改めて感じたし、広告的な表現としてパッと人の目をこのポスターに向かせるという点ですごい技やなぁと思いました。これは街に貼ってあったら見るし、欲しくなる。

ちなみにロートレックのポスターはベタじゃなくてスパッタリングしたみたいな点々の箇所が結構あるのですが、これは何?あとから吹き付けたということ?教えてだれか。


本展ではそんな版画に突然目覚めたわたしにはとてもいい機会で、ロートレックの素晴らしい名品以外にヴァロットン(木版画、リトグラフ、ジンコグラフ)、ボナール(リトグラフ)、ゴーガン(木版画)、ルドン(エッチング、リトグラフ)の豊富な版画作品も見れたのでそれぞれの技法の違いはもちろん、画家それぞれ版画で表現したいことの違いにも注目できて、版画っておもしろい…と初めておもいました。

ちなみにヴァロットンの有名な版画作品は木版画が中心ですが、何点かはジンコグラフという技法で製作されてて、初めて聞いたなぁ〜と思って調べてみたら石じゃなくて亜鉛板を使うリトグラフのことだそうで、石が不便だから亜鉛に変えてみたりして、徐々に技法がアップデートされたのかな…?となんか興奮しました。

版画作品って浮世絵も含めて大量生産(って言ってもそんなにたくさんはないと思うけど)やから、肉筆画に比べると画家の「熱や念」みたいなのが感じらにくいのでなんとなく心の距離感を感じてしまうなぁと今まで思っていたのですが、どの工程にももちろん人の手が入っているし、印刷と言えども技術が必要でかなりの手間がかかってるということを思うと版画の見え方もだいぶ変わるなと今回気づくことができました。



さて、そしてもう1つの見どころはルドンの作品全部です!
黒の時代に木炭で描かれた作品が見れるのですが、額が良すぎて感動しました。これらのルドンの絵を額装した人はルドンのことをめちゃくちゃわかっている人なのでは…。

彼の黒の時代の絵や版画って怖いって思われがちですが、実は無害なものばかりで、ルドンが幼少期の頃見えたミクロなチャーミングな生物や植物だったり、象徴的な「目」のモチーフもモノをよく見ることで見えないはずの幻想の世界を見るということのルドンの興味の表れだったりして、他人を脅かそうとしてる題材って無くて、絵とルドンの関係性ってすごくピュアだと思います。
そういう視点から見ると、目に見えたものを描きとめておくみたいな、形にして存在させてあげるみたいな優しさが感じられて、ほっこりしました。
今年の頭にオルセー美術館で版画シリーズを全部見た時はルドンの描く絵に対して理解がなかったし彼のバックボーンも知らなかったのでこわこわ〜と思ってしまっていましたが、やっぱり背景を知ると絵の見え方が全然違うなと今日改めて思いました。

そしてパステル画も良かったのですが、油彩で描かれた「神秘的な対話」と「アポロンの戦車」がこの世のものではない美しさを放ってて、これはとんでもない絵だ…とざわざわしました。
ルドンの油彩、ほかのだれの絵でもない、ルドンにしか描けない境地。これは生で見ないと全然言ってる意味がわからないと思います。絶対にルドンの油彩は一度生で見た方がいい!
モローの絵も生で見ないと印刷物や画像だとなんのことかわからへんけど、ルドンもやなぁと思います。
空間という概念を越えているし絵の中の虚構の世界と現実の間をルドンは縦横無尽に行き来できている。
キャンバスの外側にまで世界が広がっているので絵の前に立っていると薄い布で包囲された気分になりました。
この2人の画家は本当に魅力的すぎる。



そして、最後の部屋にルノワールの「パリスの審判」があったのですが、え!?これ三菱一号館美術館の所蔵品やったん!!??とびっくり大興奮。「パリスの審判」大好き遠藤にとって、まさかの収穫に笑ってしまいました。ルノワールの描くビーナス、ヘラ、アテナ、そしてなぜかパリスまでむちゃくちゃぷりぷりしててかわいい絵でした♡



というわけでルドン、ロートレックを中心に19世紀に活躍した画家たちの相互の関係性まで見えてくるとても素敵な展示でした!リトグラフやりたい。



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