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『フェルメールと17世紀オランダ絵画展』

『フェルメールと17世紀オランダ絵画展』
東京都美術館



やばい、2022年になってから感想を書いていない。というかそもそも美術館に行けていない。何をしていたんや私は…!と頭を抱えてしまいそうになりますが、おそらくきっと何かをしていたんだと思います。(当たり前)


とはいえ、まだ会期あるし〜と思って余裕かまして仕事三昧してるとあっという間に行かなくては行けない展示を逃してしまいます。今一度胸に手をあてて、自分に問いかけてみます。「遠藤、ばちばちの世界の至宝を見逃してもいいんか?」「おかみさん、あかん一択に決まってます」ということで私はここからものすごい勢いで展示巡りをしなくてはいけません。


さて、そんなわけでギアを「美術」に入れた遠藤は強い(は?)
会期終了間際になるともう混みすぎて入れへんくなるなと思ったのでフェルメールの「窓辺で手紙を読む女」を見に、気合いを入れて東京都美術館へ。


ドレスデンの古典絵画館に訪れたのは2年半前。「フェルメールの手紙のやつもあるんや〜♡」「ないんか〜い」って感じで、絶賛修復中の札がかかっていました。何がどう修復中なのかもあんまりわかってなくて、そんなに関心がなかったのですが、後から「隠された天使発見!!」みたいなのを知って俄然燃える私のハート。たまらん。なんか秘密の匂いぷんぷんするし。私の中のコナンが(以下略)。


というわけで修復が終わったらまたいつかドレスデンに観にいきたいな〜♡とのほほんと思っていたのですが、なんと秒で日本にやってきてくれるという神対応。いやほんま早すぎ。9月に修復終わったとこやんな?ファンサえぐい。日本人のフェルメール需要を察知してなのか、理由はなんであれ、本当に、とても、とても嬉しい。


本展は古典絵画館の所蔵作品の中でオランダの絵画に焦点をあてた70点がやってきてます。レンブラントやフランス・ハルス、ヤン・ステーンの作品も来ていましたが、ほぼほぼ未見の作品ばかりで、肖像画、風俗画、静物画、風景画と、他の西欧諸国には見られないオランダ独自の親しみやすい文化が垣間見える作品がカテゴリーごとに丁寧に展示されていたので、17世紀オランダ黄金時代の華々しさがよくわかる展示でした。


その中でヘラルト・テル・ボルフ『白繻子のドレスをまとう女』(1654年ごろ)に描かれた赤い天蓋付きベッドの前に立つ黒いドレスを着た後ろ姿の女性が秘密めいてて素敵〜♡と思いつつも、この後ろ姿どっかで見たことあるなぁともやもやしたので後で調べてみたら、やばい騙し絵の作品で気になって以前調べてたホーホストラーテンの「室内の情景」の画中画に描かれてた作品でした…!!こういう出逢いがあるのとても嬉しい。


さて、17世紀頃のオランダはスペインから独立して市民国家になったので、貴族や教会だけじゃなくてお金持ちをはじめ一般人もお家に飾るための絵画を購入していたという同時代の他の国にはない特徴がありました。

「絵を買う=いい感じぶれる(語弊あり)」みたいなインテリアイテムみたいなところもあったので「わかる?読み解ける?実はこの絵にはこんな意味が込められてるんやで!どーん!」みたいな聡明かどうかを試される道徳的寓意や教訓が込められた絵画が特に人気だったそうなのですが、本展にもそういう作品がいっぱいあったので「あ、挑まれてる…」と挑戦状を目の前に突き立てられた遠藤は単眼鏡片手に(怪しい)「わかったで工藤、これはこういうことやろ!ばーん!」みたいな感じで(なぜか服部)高尚な遊びに乗っかってみましたが、だんだんそういうのが鼻についてきたので「けっ」と思ってやめました(え)。

高校生クイズはすごく楽しいのですが、大人のクイズ番組で頭いい人たちが答えてるのずっと見てたらなんか「けっ」ってなってくるのと同じですね(性格に難あり)
私は正解を答えることだけが素晴らしいことだとは思っていない、「考える」こと自体に意味があると思っている(きまったぜ…!)


というわけで、今回のお目当て作品フェルメールの「窓辺で手紙を読む女」にも寓意がてんこ盛りなのですが、なんと鼻につかない!!!いやらしさが無い!!!!はっ…!これが一流たる所以か…!!品性を保ちながらも1本のミステリー小説を流麗に書き記すかのごときこの巧みな技術と感性よ…!!!!私がフェルメールの絵画にうっとりするような美しさと静謐さの中に潜む熱いものを感じるのは、フェルメールは「寓意」の扱いがとても丁寧だからだ!!!と今日改めて感じました。南部鉄瓶で入れた白湯みたいな、なんかほんまええ感じなんです、寓意の取り扱い方が。フェルメール、『丁寧な暮らし』の走りやったんや!!!!(全然違う)


さて、この作品、遠くから見ても目に鮮やかな色彩が飛びこんできて驚きました。修復後とても綺麗な状態の色が出てきたということでしたが、フェルメール作品ってこんなに色綺麗やったんや!!!!!と衝撃。「牛乳を注ぐ女」も目の覚めるような綺麗な青と黄色やなぁって思った記憶がありますが、この作品はなんかもうめっちゃ眩しかったです。高価な顔料を使用していたことは知っていましたが、鮮やかな青、赤、黄色、緑が、当初抱いていた陰鬱な印象を吹き飛ばしてしまうレベルで、そこに髪や衣装の輝きを強調するための白の点描がキッラキラできゅーん♡!全然この絵に対するイメージが変わりました。

特に女性の衣服に使われている黒にもう超絶うっとり。オランダ絵画の黒が本当に好きなのですが、なんでなんやろ。ほんま綺麗やった。


また、修復前の天使が無いバージョンに比べると、修復後の天使どーんバージョンは見る人によっては「やりすぎ」とか思うのかも知れへんけど、盛り師の遠藤的には天使どーんはかなり最高でした。無い時は空白が多くを語りすぎて情緒的すぎて「悲劇!!!」みたいな感じで胡散臭ささえ感じられてしまう気がしたけど(言い過ぎ)、天使どーんのおかげで女性が頬を染めて俯いてる顔から読み解ける感情に重苦しさがやや消えて諦めも混じったような複雑な感情が垣間見えるようやったし、とにかく欺瞞の仮面を踏んでる天使の「不倫はやめとけ。誠実な愛が勝つんやで」ドヤァがかわいい。遠藤のドヤァコレクションにストックしておこ〜っと。


というわけで、絵を見るときに「この要素がなかった場合、どういう印象を持つか」を想像しながらよく見るのですが(この絵の見方はとても多くのことに気付けるのでとてもおすすめ)、実際に塗りつぶされた過去があるという事実にとても好奇心を掻き立てられました。「この天使が無い方がいい」と感じた人がいたわけで、それをやってしまった背景にはどういう事情があったのか。これは単純に美意識の問題とかではなく、「売買」の中で起こったことだとは思うのですが、絵画というものが単なる嗜好品ではなく「資産」や「力」として扱われたからこその出来事であって、そういう視点から見るといつも胸が少しキュッとなってしまう。

第二次世界大戦後、混乱の中で一時期この作品はソ連が接収(というか略奪)していこともありましたが、今こうやって戦火をくぐり抜けて、無事ドイツに返還され、自分の目の前に美しい状態で現れてくれたことに感激してしまうし、フェルメールの気持ちが蔑ろにされて別の形になってしまったものが、今こうやって元通りのあるべき姿に戻ってくれてめちゃくちゃありがとうありがとうって思いました。

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