映画感想#62 「黄金のアデーレ 名画の帰還」(2015年)
原題 Woman in Gold
監督 サイモン・カーティス
脚本 アレクシ・ケイ・キャンベル
出演 ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズ、タチアナ・マズラニー、マックス・アイアンズ、ジョナサン・プライス 他
2015年 アメリカ・イギリス 109分
その絵画の権利は誰に
109分、緊張と感動で駆け抜けていくような、テンポの良い映画でした。
現在と過去を行き来するマリア。
彼女は辛い過去を思い返し、叔母がモデルとなっているクリムトの絵画<アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像>をオーストリア政府から取り返すため、自分を奮い立たせます。
回想シーンに入るのがスムーズなので、混乱せずにマリアの過去について知ることができました。そして<絵画を取り戻すこと>への動機も分かり、自然と彼女の気持ちに入り込むこともできました。
彼女の過去は本当に辛いものでした。ユダヤ人である彼女は、迫り来るナチスの危険ゆえに家族と別れ、父と母を残して国外へ亡命。その瞬間のマリアの気持ちは、とても計り知れないものです。
マリアが亡命する場面は3人の演技力の賜物なのだとは思いますが、本当の家族に見えました。これがフィクションではなく現実だったのだと思うと、本当にやるせない。
あの時代の、誰も逆らえない権力と何もできない無力感。それを経験した女性を、ヘレン・ミレンが素晴らしく演じていたと思います。
ナチスの蛮行やマリアの苦しみへのフォーカスだけでなく、「オーストリアから美術品を返還させる」という法的なアレコレの面白さも見応えがあり、映画作品としての奥深さも感じられました。
前回に引き続き、「絵画の権利」モノでした。
☆鑑賞日 2015年12月8日
余談〜ナチスの美術品略奪について考える〜
前回の「ミケランジェロ・プロジェクト」でも、ナチスの美術品略奪を描いています。あまり詳細な歴史を知らなかったのですが、ただの金品目当てなのではなく、その背景にはヒトラーの思想も影響していたようです。(自分が芸術家になれなかったという僻み?)
ナチスは古典的な美術を好み、いわゆる現代美術を迫害していたらしく、そういった美術品は略奪され破壊されたものも多いといいます。
こういうことを言うとちょっとアレですけど、本当に大きなお世話ですよね。思想統制だけでなく、芸術界まで侵入してくるのか。それこそヒトラーの個人的な偏見により失われたものがいかに多いか。それだけ全方位にナチスの影響力があったというのも、本当に恐ろしい。
最近話題の「関心領域」(2023年/ジョナサン・グレイザー)は見ましたか?
こちらもナチス・ドイツの恐ろしい一面を描いています。ナチスの高官であるヘスの妻がたびたび口にする「東方生存圏」(もしくは東方政策という翻訳だったでしょうか。曖昧です)という言葉。他民族からしたら本当に"大きなお世話"。ドイツ至上主義の極端に差別的な思想です。
この思想にしても、芸術への干渉についても「要らんことするな」って言いたい。当時だったら到底言えないようなことですが。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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