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映画感想#30 「NO」(2012年)

原題 NO
監督 パブロ・ラライン
脚本 ペドロ・ペイラノ
出演 ガエル・ガルシア・ベルナル、アルフレド・カストロ、ルイス・ニェッコ、アントニア・セヘルス、ネストル・カンティリャナ 他
2012年 チリ・アメリカ・メキシコ合作 108分




広告で、独裁政権にNOを

1988年チリ、ピノチェト独裁政権の信任投票が行われる。現政権のYES陣営、反対派のNO陣営それぞれに与えられたのは、1日15分のテレビCM枠。
現政権の圧力に屈することなく、広告の力でをNOを勝ち取るまでの物語です。

主人公は、広告会社に勤めるレネ。彼はとにかく冷静に、広告の手法を用いて映像を制作していきます。
"自由"や"解放"というキーワードに引っ張られる様々な素材を使った、大衆の感性を刺激する映像。時にユーモアもあり、一見すると政治とは全く関係のないようなCMに見えます。(作中でも「まるでコカ・コーラのCMじゃないか。」と言われています。)
それは、当時の状況からしても、チリの国民には新鮮に映ったことでしょう。

皮肉なことに、軍政側が権力と資金力にものを言わせてテレビ放送を独占してきたことが裏目に出た。15年間にわたってブラウン管からはピノチェト礼賛と決まり切った宣伝文句しか聞こえてこなかった。その同じ画面から、突然、それまで沈黙を強いられてきた人々の声が、豊かなイメージ、美しい色彩、新鮮な表現で飛び込んできた。

「NO」映画パンフレット
CONTRIBUTION TEXT(文:高橋正明さん)より
レネと広告マンたち

晴れた空の下でのピクニックや、楽しくエクササイズをする女性たち、虹色のレタリングの「NO」という文字に、ポップな音楽。
そんなCMには”自由のイメージ"が詰まっていたのです。

感情の動きを読み、映像でコントロールする。それがメディアの力。
しかし、もしYES陣営が、レネのような広告戦略で映像を作っていたら、ピノチェト政権は続いていたのでしょうか。
映画を見る限りでは、その可能性は十分にあると思いました。イメージ戦略は時に間違った方向へ人々を導くこともある、というのがメディアの恐ろしい側面だと思います。

当時の実際のCM映像も使われているため、その部分が浮かないように、撮影はビンテージカメラで行われたそうです。それに加え、派手なBGMやセリフもない演出で、ドキュメンタリー風な映画に仕上がっています。
もっと暴力的なシーンもあるのかと予想していましたが、良い意味で裏切ってくれました。
(ほぼ)無血の抵抗、万歳ですね。

☆鑑賞日 2014年9月10日


投稿に際しての余談①【メディアリテラシー】

レネという広告マンの手法から、メディアリテラシーについて考えさせられます。
例えば、映画を見る時。事実を知ることは大事ではあるけど、映画からは事実だけが学べるとは限らない。この映画の主張は何なのか。事実と異なる部分はあるのか。何に焦点を当てているのか。見る側は、制作側の意図を読み取る必要があります。歴史的な出来事や社会問題を扱う映画は特に。
ただ、映画は学ぶためのフックにはなると思っています。
映画の内容と史実は切り離して考える必要がある。それが、私が映画を見るときに注意している、メディアリテラシーです。

投稿に際しての余談②【ガエル・ガルシア・ベルナルと南米映画】

主演はガエル・ガルシア・ベルナル。メキシコ出身の俳優さんです。
ルドandクルシ」(2008年/カルロス・キュアロン)の公開時に、ダブル主演のディエゴ・ルナと一緒に雑誌に載っていて、「異国の顔だ…」と思った記憶があります。初めてスクリーンでガエルさんを見れて嬉しかったなあ。
それよりもこの映画、カルロスの兄のアルフォンソ、「バードマン」監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、そして「シェイプ・オブ・ウォーター」監督のギレルモ・デル・トロが製作に入っているのが豪華ですね!
ガエルさんの出演映画ですと、「天国の口、終わりの楽園」(2001年/アルフォンソ・キュアロン)の方が有名でしょうか。こちらもぜひ見てみたいです。
ということで、「NO」が初の南米映画でした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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