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映画感想#13 「ザ・マスター」(2012年)

原題 The Master
監督・脚本 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ローラ・ダーン、ラミ・マレック、ジェシー・プレモンス 他
2012年 アメリカ 138分


この映画は、主人公フレディの心の内を描きながら進んでいく。
表面的なキャラクターではなく、人間の内面。人間の心の内を表しながら進んでいく話だと感じました。
そして、フレディの精神に惹かれる、ある新興宗教のトップである<マスター>との関係性。

フレディは、元海軍の帰還兵で、戦争の精神的ストレスによって、アルコール依存となり、放浪の日々を送っています。
ある日、彼は偶然<マスター>に出会い、自分自身の心の中を見つめ直すようになります。

マスターもフレディがなぜか気になっているのです。アルコール依存症の危険な男が教団にいるのは良くない。しかし、マスターはどうにか彼を救おうとします。
・・・「救う」とは、どういうことなのでしょうか。
精神的に楽にしたい、ということなのか。でも、もっと内面的な、人間の根本的な何かを指すような気がします。

マスターは思想家で、<ザ・コーズ>という宗教団体の祖。「過去への旅」という手法で、魂の救済を(=精神的な苦痛からの解放を)行っています。
フレディも、マスターのおかげで段々と精神が安定してくるようになります。

でもやはり、マスターは結局はインチキ手法だったのです。それを外部から指摘され、フレディも段々と怪しむようになっていく。
だんだんと2人の関係には亀裂が入る。

2人は、危険だとわかっているのに近づいてしまった。お互いを信じて惹かれあってしまった。ダメだとわかっているのに、離れられない。そんな関係性。
そういう人間関係を描きつつ、フレディの心の中の孤独、疎外感、不安を描き出す。

フレディを救うことって何なんだろう?マスターはなぜ、彼を救済したかったのか。救済とは何なのか。フレディはどのような状態に見えたのか。マスター、教えてください。

本作品は65mmフィルム撮りとのこと。年代設定は1950年頃。フィルムの懐かしい風合いで、時に苦しいシーンでも優しさを感じます。
マスターのインチキ手法である「過去への旅」という世界観にも合っている。
映像自体の雰囲気とストーリーがリンクしていて、説得力があり、没入しやすい。

画も綺麗でした。海の波のシーンとか、バイクのシーンとか。
広い海や、どこまでも続く大地。
そのシーンだけで、フレディの孤独を表現できていると感じました。世界はこんなにも広いのに、自分はちっぽけな存在だと気付かされるような。そして、分かり合える人がいないことを実感させられる。
開けているからこそ、どこまでも閉ざされている。

広い海、フレディの孤独
どこまでも行ける、でもずっと1人

フレディの孤独・マスターの孤独の先にある、脆い人間関係を描いた、とても印象的な映画でした。

☆観賞日 2013年4月19日


投稿に際しての余談

・とても好きな映画監督、ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)。本作品が初めてでしたが、これで一気にはまりました。それ以降、「インヒアレント・ヴァイス」(2014年/同監督)、「ファントム・スレッド」(2017年/同監督)、「リコリス・ピザ」(2021年/同監督)と見ており、全部好きでした。
「リコリス・ピザ」では、マスターを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンの息子さんが出演しています。
PTAの描く人間関係ってちょっと怖いですよね。それこそ、本作品のような中毒性のある関係性だったり。「ファントム〜」も割と同じような危うい関係が描かれていると思います。
過去作品も見たいのですが、やっぱり初見は映画館で…と思うと、なかなか見れません。ぜひ、1ヶ月くらいどこかで特集上映をお願いしたいところです。

・ホアキンが最高。フレディ役のホアキンの演技は圧倒的でした。もはやホアキンが危険人物にしか見えません。そしてフィリップ・シーモア・ホフマンがマスター役っていうのが、それだけでこの映画見る価値あるな〜と思わせてくれる。

・新興宗教のインチキ感も印象的ですが、「TRICK」(テレビ朝日/ドラマ)を少し思い出しました。みんなが教祖様を信じている。そして幸せになっている。そこに科学的に証明できないから、と言って外から学者や警察が来る。「TRICK」は外部の立場から描いていますが、本作はどちらかというと逆の立場。
全部うそであっても、実際に救われている人がいるのに、つべこべいう必要ある?ということ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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