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つながりの輪

 息子氏が発達障害と診断されるまで、いやわかった後も、私はひとりだった。
 学校の先生にもうまく伝わらない。家族にも理解してもらえない。息子氏の同級生のママ仲間と話をしていても、何とも空虚で、えもいわれない気持ちに襲われるだけだった。

 そんな孤独な日々に耐えられなくなって、勇気を振り絞って地元の発達障害について語り合う集まりに参加したり、ブログを書き始めたりした。

 ブログの中や地元で、初めて、発達障害の子を持つママさんたちに出会うことができた。どんな話をしても共感してもらえる、どんな話を聞いても共感できる。そのことが私にはとても心強かった。明日からまた頑張ろうと思えるエネルギーを得た。ママ仲間とのつながりがいかに明日への力になるかを実感した。

 そこで、私は、出会えたママ仲間と共に親の会を作った。親の会を作って発達障害の子を持つママ同士がつながっていくことで、さらにママ仲間のつながりの輪は広がっていった。

 そんな中で、私自身にも発達障害があることに気付いた。

 発達障害がある自分だからこそ、発達障害を持つ子どもたちの気持ちを代弁することができるかもしれないと思うようになった。もしかしたら、私は発達障害と定型発達の通訳になれるのかもしれないと。
 発達障害だから「できない助けて」と言うばかりでは、この社会では生きていくことが難しいと思う。発達障害の私たちが定型発達を理解しようとすること、また、社会に発達障害について言葉にして伝えていくことで、共に生きていきやすい社会になるのではないかと思う。障害のある側だけでなく、社会の側だけでもなく、お互いが歩み寄る必要があると感じている。
 私はその間をつなぐ架け橋になりたい。そう思うようになった。

 そんな時、ある医療系のプロジェクトに出会った。

【病気をもつ人の経験には価値がある】
【あなたにも私にもこれからの医療をつくる力がある】

 そんな熱い思いのもとに活動するプロジェクトだった。
 この言葉は私にとって衝撃であり、魅惑的なものだった。

 ただの発達障害者である私の経験にも価値があるんだ!
 私にも、医療を、社会を、変えるお手伝いができるのかも! 

 そんな思いが湧きあがり、勇気を振り絞ってプロジェクトに参加することにした。
 そのプロジェクトでは、様々な病気をもつ人たちやあらゆる立場の人たちがメンバーとなって、病気があっても大丈夫と言える社会の実現に向けて、これからの医療について考えている。

 そのメンバーのひとりとして出会ったのが、かんちゃんだ。

 神経難病を持つ彼女の表現力はいつも輝いていた。Zoomでのミーティングでは、いつも的確に、そして素敵な言葉で伝えていた。私もこんな風になりたいと憧れ、いつかゆっくりお話がしたいと思うようになっていた。

 あるオンラインイベントでかんちゃんと一緒になり、初めて話すことができた。初めてとは思えないほど、あっという間に意気投合した。直接会うことがままならない距離に住んでいる同士が、オンラインだけでこれほどまでに仲良くなれるのかと驚くほどに急速に親しくなった。

 かんちゃんの密かな夢は、病名を超えて語り合える場をつくること。
 私の密かな夢は、オンラインで発達障害について語り合える場をつくること。
 
 かんちゃんのお話を聞いて、私も病名を超えてお喋りできる場があったら素敵だと思ったし、ぜひ作りたいと思った。そして、かんちゃんもずっと発達障害について知りたいと思っていてくれたそう。

 話せば話すほど意気投合した。
 
「【あゆかん】で一緒にスペースやっちゃう?」

 あれよあれよという間に話が進み、Twitterのスペース機能を用いたおしゃべりの場【あゆかんスペース】を一緒に始めることになった。

 神経難病のかんちゃんと発達障害な私がやっているスペースなので、それぞれの病気に近い病気をもつ人を中心に、いろいろな病気をもつ方々が集まってくださる。

 気軽にお喋りをする場だからこそ、ふとしたきっかけで、本音を吐き出せる。実は心の奥底に押し込んでいたような思いが、背景などを詳しく知らない第三者の私たち相手だからこそ、吐き出せる。その思いを聞かせて頂くことで、私たちも新たな思いに気付くことができる。

 回を重ねていくうちに、リピーターになってくださる方や参加者の方を知る方々も参加してきてくださるようになっている。そして、偶然同じスペースに集まった方同士がつながっていく。
 つながりの輪が拡がっていく場に一緒に居られるのは、冥利に尽きる。

 ふらりと寄ったカフェに、神経難病のカンちゃんと発達障害の私が居て、コーヒーを飲みながらまったりお喋りをするような、そんな時間をいろんな方々とご一緒できたら… 
 そんな思いでやっている。

 私たちがここに居る。もう、ひとりじゃない。

 発達障害のママさんたちとつながっていくことで生きる力を得た私だからこそ、これからもつながりの輪の一部であり続けたいと思う。 

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