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Annaの日記 妊娠するという奇跡、命を諦めるという選択③

12万人。一つの市が出来るほどの人数だ。

 この数字は、昨年1年間で人工中絶手術をした人数。色々な事情で命を諦めた女性がこんなにもいて、心にも体にも一生の傷を負った。
他人事ではなく、私もその一人にはいるかもしれなかった。

 こんなにも世の中少子化が深刻になっているのに、昨年だけで12万人もの命が失われていった。
昨年の出生数が約75万人からみると驚くべき数字である。
 その中で、不妊治療から生まれてた子が約6万人。12人に1人は医学の力をかりないと誕生できなかった。
 そして、昨年自ら苦しい不妊治療クリニックの門を叩いた人が約45万人。
病院に抵抗のある人や、経済的に行けない人を含めると100万人くらいの女性が「妊娠」が出来ず苦しんでいる。

 つくづく神様は不平等だと感じる。
子供を望む人にはなかなか出来ず、望まない人に出来て一生の罪を生ます。


 私は産むと決めてからも、本当にこれで良かったのかと毎日悩んだ。
正直どこかで、自然流産しないかなと思う日もあった。

 そんな中で、保健所に「母子手帳」を取りに行く日が来た。
自分の母親くらいの人が担当をしてくれた。
気さくな人で、夫婦の年齢のことや不安を話していると何故かポロポロと涙がでた。中絶を考えていた事も思わず話をしてしまった。


「たとえ、中絶を選択したとしても、絶対に悪い事をしたと思ってはいけない。自分を責めてはいけないよ。苦しんでよく考えて、一番子供の幸せを考えた答えなんだから」

思わぬ回答だった。保健所の人にこんな話なんかしたら
「いい歳して命を粗末にするなんで考えられない!!」と説教でもされると思っていた。


「公園のトイレで産んで捨てました」
「お腹が痛いと思ったら赤ちゃんが出てきて怖くてほおっておいたら息をしなくなった」
という衝撃的なニュースを時々耳にする。

 そして、毎日のように聞く虐待やネグレクトからくる子供の死。
これらの心が苦しくなるニュースを聞けば、保健師さんが言った「子供の幸せを考えた答え」という言葉がすんなり入ってくる。

「中絶」=「絶対の悪」と思っていたが、無責任に産んで「殺人者」になるほうがよっぽど取返しのつかない事になる。


 妊娠と診断してもらってから悩む人もいれば、病院にいかずに
生理が何か月もこない状態で放置している人、
あきらかに体調がおかしいのに経済的な理由で病院にいけない人と様々ある。

 どうしようどうしようと悩んでいる間に一番大事な問題がくる。


  中絶手術が出来るのは21週と6日まで


 この法律を知らない若い女性は少なからずいると思う。
恥ずかしながら私もしらなかった。
そしてまたどうしようどうしようで、あっという間に臨月になりニュースのような悲劇が起きてしまう。

「親や友達に相談出来ていたら・・・」と軽々しくいう人がいる。
相談できる人がいるならとっくにしている。
大体、この最悪の状況になっている人は妊娠の根源である「男」にはもう相談出来ない状況にある人が多い。抱え込むのは女性ひとり・・・
幸せの象徴であるはずの「妊娠」が、多くの女性がつらい治療にまで耐えて望む「妊娠」が、ある人には残酷で苦しみを生む。

 私には幸いにも、相談できた人がいて、共に前を向けたから良かったが、
あのまま彼が首を縦に振らず、関係がこじれそのまま別れていたら、親にも友達にも言えず、だけど手術を受ける勇気も出ず、同じ道を歩んでいたかもしれない。40歳すぎたおばさんですら、こんな考えになるのに10代20代で妊娠してしまった子がベストな回答を出せるわけがない。

 35歳を過ぎたころから、もう子供のいる人生は全く描いていなかった。
未だに隣にいる小さな命が、自分の子供と思うと不思議で仕方ないと思う事がある。

 トツキトウカの間にいくつもの難関があり、その間に辛くも命を落としてしまう赤ちゃんがたくさんいる。私の身近な友達にも辛い経験をした子が何人もいる。


 私は産むとは決めたが、最初から「ハイリスク妊婦」の称号をもらった。
高齢出産に、特大の卵巣嚢腫まで抱えている。
両親含め、周りは喜びと同時にそれ以上の心配のほうが大きかった。
生まれるまでが待ち遠しいなんて感覚はひとつもなく、こんな母体で妊娠継続が出来るのか不安しかなかった。


                ~続く~



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