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死後事務について(実践成年後見91まとめ)

つい先日、被後見人の方が亡くなりました。タイムリーに実践成年後見のテーマも死後事務。覚書も兼ねて、簡単にまとめて考察してみます。

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後見人等が亡くなった後

 被後見人等が死亡した時は、当然に成年後見は終了します。(民法111条1項1号)しかし、死後も本人の火葬やら費用支払いを放置するわけにはいきません。実際に死後の手続きを後見人にしてもらえると思うから、施設も保証人なしで受け入れてくれるわけです。

これまでは、応急処分(874条による654条の準用)や相続人のための事務管理(697条)を根拠に対応していましたが、事務の範囲も明確でなく、問題とされていました。

平成28年、「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」により、民法873条の2が新設。死後事務における後見人の権限の明確化が図られました。

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873条の2(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

条文は、以上になっています。ポイントは、

①特定の相続財産の保存行為

②弁済期が到来した債務の弁済

③本人の「火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為

となり、③は、家庭裁判所の許可(死後事務許可。3号許可ともいう)を要する点と、「相続人の意思に反することが明らかな時」でないことです。


死後事務許可申立ての対象かどうか

具体的な契約を見ていきます。

1 火葬または埋葬に関する契約

 火葬・埋葬に関する契約は無論対象。しかし、葬儀はどうでしょうか。葬儀というものは、厳密には火葬・埋葬とは異なります。葬儀は、原則対象外。これは、宗派・規模により様々な形態があり、トラブルの元にもなりかねないからです。ただし、葬儀屋に火葬をお願いすると、最小限の葬儀はパッケージ化されており、宗教色が薄い葬儀であれば、火葬に付随する事務として許可されるようです。

この点、やはり葬儀は相続人等で行ってもらう(お金は喪主が払う)のが本来ですね。相続人が協力的であればですけど・・。私は遠方でしたが、親族にお願いし、無事に執り行われました。

2  納骨に関する契約

納骨に関する契約も、火葬に関する契約に準ずるものとして、死後事務許可の対象としています。

3 永代供養に関する契約

 本人の供養のあり方は、宗派や異母も含めて、本人の意向も踏まえて相続人が判断すべき事項。そのため、火葬に準ずる契約や相続財産の保存に必要な行為に該当す流とは直ちに判断できません。 (相続人が関わりを拒否しつつ、後見人に永代供養を委ねる意思を示しているのであれば、相続人からの委任に基づく行為として許容される余地あり)

4 預貯金の払い戻し

 払い戻しが必要な具体的理由に基づく必要があります。例えば、火葬・納骨の費用支払いや簡易な葬儀は、見積書に記載された費用までは許可されると考えられます。以下は、少し説明を記します。

(1)後見人報酬に関して

報酬支払い債務は、相続財産に属する債務となります。口座が凍結されてしまっている場合が問題。相続人に引き継ぎ後に報酬を請求する場合、支払いをめぐって法的紛争が生じる可能性も。そのような事態を避けるための払い戻しは、相続財産の保存に必要な行為と見ることができると解されています。相続人と関係性が良好ならば、そのようなことをする必要もないかと思います。

(2)残された動産の管理

被後見人死亡後、相続人に対して動産を引き継ぐ債務を負い、原則として相続人が動産を受領しない限り、消滅しません。動産により倉庫業者などと寄託契約の締結を要します。また、保管することでかえってコストがかかる動産は廃棄の許可審判を得て廃棄します。


これまでの応急処分や相続人のための事務管理はできない?

円滑化法施行後も、必要かつ相当な範囲で行われる限り、従前の対応が直ちに否定されたわけではありません。預金口座が凍結されていなければ、後見人は事実上預金を払い戻すことができます。その際に応急処分の要件を満たすのであれば、後見人に払い戻し権限が認められます。未凍結口座からの払い戻しが当然には違法となりません。

実務上、それほど3号許可申し立てが必要なケースは少ないのではないかなと思います。

今回関わったケースでは、3号許可を得ることなく、死後の施設利用費支払いのために口座から引き出し、葬儀は、小さいながらもお別れの会をしたいとの意向で、相続人に依頼しました。そして、施設に残された動産は、相続人の許可を得て処分。

この死後事務許可に関しては、許可申し立てをするかどうかは別として、後見人がするべき事務が何かを理解するために有意義です。

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