見出し画像

“恩田陸の孤島ミステリ”というパワーワードに出会う。8月の読了本まとめ12冊

恩田陸、クリスティーに加えて、ハイスミス、J・カーリイ。毎月1冊はこの人の作品を読もうというマイベスト作家が増殖する月だった。

当たりはずれの多かった先月に比べると、今月の面白さは高水準! 焦らずゆっくり読めばいいって頭じゃ分かっているんだけど、新たに読みたい本が多すぎて速読できない自分がもどかしい…(むしろ遅読)

「緋の収穫祭」S.J.ボルトン

独自の血生臭い伝統儀式が残る英国の小さな町。小さな女の子の墓が壊れ、中からいるはずのないもう2人分の子どもの遺体が現れてーー。

もうのっけから大興奮した1冊。首狩りだ、血の収穫祭だと不気味な儀式をしている町。古くて趣のある教会。神父と精神科医。子どもにだけ見える奇妙な女の子。正統派のオカルト・ミステリー。

大人だって怖い状況なのに、時おり挟まれる子ども視点の不気味さったら。頼りになるはずの大人から信じてもらえないって、絶望的だよね。幼いお兄ちゃんの勇敢ぶりは感動もの。

「島はぼくらと」辻村深月

瀬戸内の小さな島から、毎朝本土の高校へ通う男女4人の青春ストーリー。

孤島ミステリ好きが高じて、島の暮らしぶりが描かれた話を読みたいなあと参考文献的に手にした1冊。普段なかなかこの手の作品を読まないせいか、青春のみずみずしさに胸が爆ぜた。

移住者が希望してやってくる、のどかで小さな島。けれど、その土地で生まれ育った人と余所者のあいだには確執がなくもなかったり、住民同士でいさかいがおこったり、小さいがゆえの面倒くささもあって。

それを日常として受け入れる高校生たちの透明感って、やっぱりシティボーイやガールには出せないやつだと思った。たまにはこういう、ほのぼのとした作品もいいな。

「夢のような幸福」三浦しをん

三浦しをん節炸裂の爆笑エッセイ。

今月読んだというよりも、ベッドサイドに置いててちょこちょこ読んでいたものが終わったもの。いやあ、今回も笑わせてもらいましたわ。

氏のエッセイは気軽にちょこっと摘まんで読んでいけて、言い方あれだけどなにも考えなくていいところが好き。自分の笑いの沸点どうなっとんねんってくらい、たまにしょーもない(失礼)ことがツボにはまってしまうのもストレス発散になっている気がする。

そうしたらばガニ。いや、すみません、なんか言いたくなったんです。そうしたらば、ですよ。

具合が悪いというエピソードのなかで、唐突にあらわれたお気に入りのギャグ(?)ここだけ切り取っても面白さが伝わらないのもどかしi…

「スモールgの夜」P.ハイスミス

ゲイの集うビアレストラン、スモールg。常連客リッキーの若い恋人が殺された。死んだ青年を激しく愛していた少女。少女を支配する雇用主。再びリッキーの周辺で事件がーー。

先月読んだ「愛しすぎた男」に続いてハイスミス2作目。これを読んでクリスティーや恩田陸と同様、毎月1冊はハイスミスを読もうと決めたね。

殺人シーンからはじまるからミステリな雰囲気もあるけれど、リッキーを中心にスモールgの面々が力を合わせて厄介な問題を乗り越えていくストーリー。サスペンスフルな嫌~な展開もあるけれど、読後感としてはハートフル(?)

性嗜好や性別を問わず、みんなから愛されるリッキーがすき。愛さずにはいられない、とっても素敵なひとなのよ。今すぐにでも、リッキーにもう一度会いたい自分がいる。

「パズル」恩田陸

人々は過去の記憶に引き寄せられる。かつて存在した生活、かつて存在した感情、そして今はない営みに。

廃墟の島で、奇妙な遺体が複数見つかる。ひとりは餓死、ひとりは感電死、さらには飛び降りしたかのような全身打撲死体(でも建物の屋上にあった)。限りなく死亡時刻が近い彼らの死は事故? それとも殺人? ーー恩田陸が贈る“孤島”ミステリー。

恩田陸の孤島ミステリーってパワーワードがすぎるよね。

事件後に島にやってきた検事ふたりの会話劇的なストーリーで、恩田陸ワールド炸裂。彼女の孤島ものを楽しむ、という意味で文句のつけようがない。

すでに事件が終わったあとに、主人公ふたりが現場を巡ってあれやこれや語る、という内容だから新しく何かが起こるわけではないし、終始淡々としているから好みは分かれるだろう。けど、読書好きでミステリ好きで恩田陸好きにはたまらん組み合わせ。

「白墨人形」C.J.チューダー

まえに言われたことがあるんだ。秘密ってのは、ケツの穴と同じだって。誰でも持ってて、汚さにちがいがあるだけだってな

少年だったころ、友人たちと見つけたあの子のバラバラ死体。未だに頭は見つかっていない。30年後、友人のひとりが放った「真犯人を知っている」という一言から、あの夏の秘密が暴かれはじめるーー

S・キング好きな人にはたまらんだろうなあ。そもそもS・キングが推薦している1冊だからな。

白墨人形っていうのは、チョークで書いた棒人形のこと。主人公たちのあいだで、自分たちにしか分からないサインをチョークで記すのが流行っていて、なかなか不気味なモチーフになってる。

アルビノの謎めいた学校教師とか、移動サーカスの惨劇とか、夏の夜に汗ばみながら読みたい1冊。

「凍える島」近藤史恵

喫茶店のマスターと従業員、常連客たちが慰安旅行に訪れた孤島。和気あいあいとした旅になるはずが、こじれ合う男女関係。ひとり、またひとりと死体に変わり果てーー。

孤島ミステリーのおすすめ●選! みたいなやつに必ず入っている1冊だったから、満を持してという気持ちだったのだけど…ちょっと期待しすぎたかな。近藤史恵さんの「薔薇を拒む」とか、ほかに好きな作品はあるから、これがたまたまハマらなかったかな。

ネタバレになるから深くは言えないけれど、登場人物がだね…あまり好きじゃなかったかな。うん。

メフィスト特別号 2022夏

アイコニックな黒猫ちゃんカバーが毎巻かわいい〜!

会員制読書クラブ「メフィストリーダーズクラブ(MRC)」会員のみに届けられるミステリ雑誌メフィストの2022夏特別号。“あなたへの挑戦状”というテーマで、読みきりの2作品が収録されている。

作品は「水槽城の殺人」(阿津川辰海)と「ありふれた眠り」(斜線堂有紀)。絶対に前から順番に読んでください。という注意書きがわくわくする。

普段、実際に推理しながらミステリーを読む、ということはなかったから、本冊子も深く考えずに読んだけれども、とくに「水槽城の殺人」はもうちょっと考えればアハ体験できたかも…! と思えるくらいロジカルだった。

近所のカフェに持ち込んで一気読みしたけど、たまにはこういう週末のお楽しみがあるのもいいな~

「毒蛇の園」J.カーリイ

惨殺された女性記者の事件を調査する刑事カーソン。捜査の一環で面会した受刑者が毒殺され、酒場で殺された精神科医もこの事件と繋がっているようでーー?

先月読んで面白かったけど、続き物の4弾目(ブラッド・ブラザー)と知って歯軋りした刑事カーソンシリーズ。先に進むか、1作目に戻るか悩んでいたくせに、古本屋でシリーズ3弾目の本作が目に飛び込んできて同じ過ちを繰り返しました…。面白かったけど、主要人物の人間関係ネタバレがすごい。

海外ドラマにありそうな、正当派のバディ×異常犯罪ミステリ。カーソンと相棒がどんな結末にたどり着くのか、気になりすぎて読み出したらノンストップ。9月はシリーズ1作目を必ず読むぞ…!

「死が最後にやってくる」アガサ・クリスティー

わたくしは、これですべてが終わりになればいいですが、と申したんですよ。ときには、自分で終わりだと思ったことがほんの始まりに過ぎないといった場合がありますからね

舞台は紀元前2000年ごろのエジプト。族長が傲慢で美貌の妾を連れてきたことで、一族のなかに反目や憎しみが。妾が転落死したことで再び平和が戻るかと思いきや。

紀元前2000年のエジプトって時点で読めるか心配だったけど、今となってはクリスティーマイベストTOP3に入るお気に入り。というか、「ゼロ時間」と並んで2大トップかな。相変わらず人物の書き分けがすごいし、愛憎入り交じる人間ドラマが面白いし、ロマンスに見悶えるぅ…。

映像化があればぜひ見てみたいと思ったんだけど、さすがに紀元前2000年のエジプト舞台は予算的に厳しいか。なくて残念!

「赤と白のロイヤルブルー」C.マクイストン

ハンサムな大統領息子と、イギリスの美男子王子のロマンス小説。

同性同士の恋愛模様ながらも(といったら、時代的にまずいのかな…)、2019年のgoodreadsベスト・ロマンス賞に輝いた1冊。アドリアン・イングリッシュシリーズ然り、海外のM/Mは私好みがいっぱい眠っていそうな予感…!

本作も、いがみ合っていたふたりが、少しずつ距離を詰めていく様子に胸がときめく。というか、家柄といい顔面といいスペシャルすぎるのよ。スケールが大きい! こんなビッグカップル見てみたい!

ただ、文庫で650ページの大ボリュームで、体感にして450ページくらいはいちゃいちゃしてたのが気になった。個人的にはもっと一筋縄でいかない障害があったり、もどかしいすれ違いがあったりして、ひとりで孤独に愛を自覚していくようなことがあってもいいと思うよ。「帰国して3時間たった。早くも寂しい。まいったな。」ってメールし合うのもいいけどさ、現代っこめ。

まあ、ロマンス小説というジャンルが、こういうものと言われたら、門外漢なわたしは引っ込むしかありませんけども。ハンバーグ師匠もびっくりな甘さだよ。

「球形の季節」恩田陸

「噂がどうして流行るか考えたことある? それはね、みんなが望んでるからだよ、それを」

田舎の学生たちの間で流行るおまじないや不吉な予言。「地歴研」が調査していると、噂通りの行方不明者が出てーー恩田陸の学園モダンホラー。

デビュー作「六番目の小夜子」の次に出た作品。どちらも学園ものだけど、わたしは小夜子のほうが好みだった。さらに言えば、いちばんは「ネバーランド」の男子高校生たちだな。

わたしのなかで、恩田陸の男子校生ってめちゃくちゃ格好良いんだよな。煙草をすぱすぱ吸ってるんだけど、不良ってわけでもなくて、妙にサマになってて。球形の季節にいたっては、お前ほんとうに高校生かー! っていう男子もいたけど。いい感じにむき出しで、ヒリヒリとする女友達の関係性もどこか懐かしく、没入できる1冊だった。

2022年8月のマイベスト3(順不同)

  • 緋の収穫祭

  • スモールgの夜

  • 死が最後にやってくる

今月はこの3冊がぐんを抜いて面白かった! 次点…といったらあれだけど、「島とぼくらと」も他の月に読んでいたらマイベスト入りだったかも。刑事カーソンシリーズは2冊目だけど安定のおもしろさ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?