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誰かじゃなくて自分が、だよ。3月の読了本まとめ【10冊の感想メモ】+1冊追加あり

書き出して気づいたんだけど、自分比でなかなか読んた月だった。

4冊のみの2月と同じノリで書き出したら、まあ終わらない終わらない。

色んな意味で、濃い読書月間だった。

「インテンシティ」ディーン・クーンツ

サイコな殺人鬼と心理学を学ぶ女性が対峙するサスペンス小説。

誰それが衝撃のあまり数日寝込んだとか、読むと気が狂うとか、そう噂される本ってたしかにある。ただ、まさか自分がそうなるとは思わなかった。

もういっそ忌々しいくらい<緊迫>に満ちた小説。1週間くらい精神がしんどかった。主人公が弱いようで本当にタフだった。

 そのまま潜んでいれば安全なものを、今這い出すのは狂気の沙汰では? しかし他人の犠牲の上に自分の安全を図るのは臆病というものである。そして、“臆病”は、力と経験の不足する子供たちが自分を守るときだけに許される特権だ。
 今さら子供の領分に逃げ込むわけにはいかない。

「ランチ酒」原田ひ香

「見守り屋」というちょっと変わった仕事をしている主人公。昼夜逆転の生活で、仕事終わりにランチ酒をして帰る。

仕事で出会った人たちとのエピソード、主人公自身が抱えた問題に胸がちょっぴり切なくなるけど、おいしい料理と酒で1日を締めくくる姿に自然と元気がもらえるグルメ小説。

連作短編で、移動中などにちょこちょこ読んでいた。「インテンシティ」が強烈すぎて、ほっこりしたものが読みたいと中盤から一気読み。

時にはイヤ~な感じの依頼人もいる。けど悪人ってわけではない。関わらないに越したことはないけど、人生、避けてばかりでもいられない。

周りや誰かじゃなくて、自分が、前を向いて生きていくしかないんだと、気持ちがちょっぴり回復。

「瞑き流れ アドリアン・イングリッシュ5」ジョシュ・ラニヨン

ミステリー専門の古書店を営むアドリアン(オープンゲイ)と、LAの刑事ジェイク(ゲイであることをひた隠しに生きる)の不器用すぎる恋模様と殺人ミステリーを味わう人気シリーズ最終巻。

実はこの最終巻に至るまで、何度も投げ出したくなった。3巻あたりの解説が三浦しをん氏で、彼女もまあご立腹の様子だったから誰しもがモヤモヤしたのであろう。ジェイクのひどさったらもう…(何がとは言いませんが)

でも最終巻を読んでみると、これを運命と呼ばず、何と言う? 結局、片方が云々の話ではなくて、幸せでも、苦しくても、2人で生きる。それしかないんだと思わせる。

「姑獲鳥の夏」京極夏彦

古本屋店主で陰陽師の京極堂が憑き物を落として事件を解決する人気シリーズ1作目。高校時代に読んだときは小難しい…と思ったけど、語られる蘊蓄が不穏な世界観にマッチしてグワッと引き込んでくる。

内容も怨念とか妖怪めいたものを連想させるけど、実際はしっかり人間のしわざで決着がつく。そして個人的にはやっぱり、絶世の美男探偵が出てくるところが好ましい。二階堂黎人の不思議シリーズとか、篠田真由美の桜井京介シリーズとか、美男が名探偵ってもうそれだけで読みたい。硬派な本格ミステリなら尚よし。

榎木津はやっと私の方を向いた。
整った顔立ち。驚く程に大きい目。鳶色がかった瞳。皮膚のいろも東洋人とは思えない程白い。日に透かすと、髪の毛の色さえも栗色を通り越して茶色である。
色素の薄い男なのだ。
ああ、西洋の磁器人形(ビスクドール)に似ているのだ、と思った。

「ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫」エドガー・アラン・ポー

河合祥一郎氏による新訳版。KADOKAWAさんのRTキャンペーンでいただいた。

実は積読のなかに旧訳版があって、読み比べてみるとまあ違う。読みやすい。親しみやすいのに、思わず声に出して読みたくなる美しさ!

そしてポー作品、ひたひたと冷たい恐怖に浸る感じ、震えるほど面白い。彼の作品から感じる恐怖って、死そのものではなくて、死がやってくることなんだよな。ところどころに散りばめられた“生き埋め”は鮮烈だった。

「ヒヒヒ!ーーヒヒヒ!ーーそう、アモンティリャードだ。だが、もう夜も遅いんじゃないか? 屋敷じゃ俺たちを待ってるだろ、俺の奥方やみんながさ。もう行こうじゃないか」
「そうだね」と私。「逝くんだな」
「後生だから、モントレソール君!」

「こうして誰もいなくなった」有栖川有栖

ノンシリーズ中短編集。文庫版を入手したけど、単行本版の真っ赤で絵本みたいな装丁も気に入っている。お財布に余裕があるときに揃えたい。

個人的に彼の作品はキャラクター性的な魅力に惹かれるから、ノンシリーズだとやや物足りなさを感じた。ただ、表題の「こうして誰もいなくなった」はガッツリ読ませる中編で、クリスティの「そして誰もいなくなった」を現代設定でパロディ化していて面白い。

「575 朝のハンカチ 夜の窓」岸本葉子

エッセイスト岸本葉子さんの俳句本。

俳句ってたったの17音で人をハッとさせなきゃいけなくて、才能がなきゃ難しいと思っていたけど、むしろ日常で何気なくみた風景が、そのまま俳句になるって発見が新鮮だった。語彙力とか関係ないんです。

仕事がしんどかった日の夜。細かな汗をかいたグラスにたっぷりのハイボールを、とにかく息が続くまでゴクゴク呑んだ。ああ、この1杯があれば大丈夫かも。って気分になってきて、おかずも盛り盛り食べて、ふと燃え尽きた時の一句。

春浅し 完食の皿 鳴る氷


「無邪気な神々の無慈悲なたわむれ」七尾与史

プレスで気になっていたホラー小説。“子どもは神さま”と大切にされる因習が残る島。そこに旅行へやってきた主人公家族。なぜか島には子どもたちの姿しか見えなくてーー。

普段ホラー小説はほとんど興味ないのに、孤島というところに惹かれて読んで、インシニティほどではないけど闇落ち。何がしたいんだホント。

小説世界への引き入れ方がめちゃくちゃうまくて、読者はほんのり島で何が起こっているのか前情報を渡される。それ故に、呑気すぎる旅行者たちにハラハラ。私が免疫ないせいか、作者の発想力がすさまじいのか、こんな殺され方があるのか……ってゾッとした。

ただ、ホラーだから仕方がないのか、ミステリーのようにロジカルにスッキリするわけでなくて消化不良気味なところも。でもこんなにページをめくる手が止まらなくなる作品も久しぶりだった。めっっっちゃ怖かった……。

「隅の風景」恩田陸

恩田陸氏の旅行エッセイ本。読むとほんっと、旅に出たくなる。

どんだけ呑むねんってくらい移動中からお酒。現地につくまでにできあがっていて、二日酔いでも現地においしそうなお酒があれば呑んじゃう。

もちろん旅先の描写が好きというのも大きいんだけど、この本を読んでいて思うのは、移動中から楽しめる人でありたいなってことだ。いつか寝台列車で旅をはじめてみたい。


「乱鴉の島」有栖川有栖

3月最後に読んだ小説にして、年間マイベスト入り確定の面白さ!

まずタイトルからして期待がもてる。乱鴉(らんあ)の島! 作家アリスシリーズで、ポーの大鴉が重要なモチーフになっている孤島もの

鴉の群れが飛び交う孤島。詩人老人の家があって、そこに集ういわくありげな人々。迎えの船がくるまでは、外界との連絡が一切とれないシチュエーション。そして、転がる死体ーー。

そういう本を読んでいるから当たり前なんだけど、事件が発覚するまでの数ページの不穏さよ。うわあああ何か起こるぞ、きっとあの人、死んでしまったんだわ……って不気味な気配。あ、これ、死そのものではなくて、死がやってきそうな予感が怖いってポー作品の感想と通じるものがあるな。要するにツボすぎる。

自分の孤島もの好きを自覚せずにはいられない1冊だった。

【追記という名の追加】「来世は他人がいい」小西明日翔

追記)大切な1冊を忘れていた!コミック「来世は他人がいい」待望の新刊!発売日がくるや即書店へ行って近くのカフェで読破した。読書ノートに記録しておらず漏れてしまっていたのだけど、思えばコミックも読了の例外ではないはずだ。

一言で説明すると、関西のヤクザと東京のヤクザの孫同士が許嫁にされて始まる“ラブ・コメディ”。いや、ラブでもコメディでもないんだけど、ジャンル的にはコメディらしい(最近SNSで、作者本人も電子コミックのジャンルが総じてコメディなのに困惑されていた)

極道エンタメというのが一番しっくりくるけれど、とりあえず既存の枠組みに収まりきらない超大作だ。

実は愛した男が裏社会の人間だったとか、なぜかイケメン組長に溺愛されて困っていますなんていう恋愛漫画はあるっちゃあるけど、この作品を一緒にしちゃならん。

上っ面は爽やか好青年なのに、やることなすことガチでエグいしサイコだしとにかくヤベー男からドロドロに愛されてしまう不運な孫娘。そんな彼女が、とにかくサイコーにイカしてて痺れるほど格好良いのだ!!!!(語彙力飛んだ)

「極道の妻」って見たことないけど、あんな感じかな。媚びないし、ピシャッて怒るときの剣幕たるや、男を黙らすし。美人を怒らせると凄みがすごいというけれど、ぶっとい芯を感じる気高さがもうそれはもうそれはもう美しいのだ…早く次巻出ないかしら。

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