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きゅ~~~と高鳴る、胃袋!悶絶グルメエッセイ『すき焼きを浅草で』

“すき焼きを浅草で”。なんて心躍る響きなんだろう!

平松洋子さんのグルメエッセイ『すき焼きを浅草で』を読んだ。平松さんの本は初めてで、タイトル買いした1冊である。

私は明日は、週末は、来週は何を食べようと、わくわくしながらレシピ本をめくるのが好きなのだけど、この本から受ける食のインスピレーションは、かなりのもの。ちゃんとしたレシピがついているわけではないのだけど、すでに作ってみたい料理がいくつもある。

本書を紹介するにあたり、表題の「すき焼きを浅草で(p.105)」は絶対に外せないだろう。
浅草の新仲見世通りに本店を構える、あの今半のすき焼きが出てくるのだが

目前のすき焼き鍋に五代目手製の割下が注がれ、ぷくぷく泡立ったのを合図に、大人の掌ほどの牛肉が一枚、二枚、三枚、さっそく横たわる。
私は目を見張った。
ぶあつい!
厚みの立派な牛肉が、まだ食べてもいないのに確かな噛みごたえを伝えてくるので、生つばがぴゅーっと湧き出た。

なんて お い し そ う な の !

今半のすき焼きは、もちろん知っている。けど、食べたことは一度もない。私のなかで今半は高嶺の花というイメージだ。しかし、これを読んでいると、高いからおいしいのではなく、今半だからおいしいのだろうと予想がつく。

本書には店で食べるグルメだけでなく、平松さん自身が作った料理のエッセイも多い。

たとえば、ゆで卵を塩水につけて寝かせた「塩卵」(p.152:塩卵で先回り)。一晩置いた塩味風味の卵は、“これがとにかくうまい”のだそう。さらに漬け込み時間が長くなるほど、塩卵はねっとり濃厚な味わいに変化して、酒の肴になるのだとか(ごくり)。

卵つながりで「釜玉そうめん」(p.177:夏の即戦力)も、ぜひとも試してみたい。丼ぶりに卵を溶いて、しょうゆを少し。そこに、湯を切った茹でたてのそうめんを入れて、高速で混ぜる。仕上げに刻み海苔と七味唐辛子を振って完成だ。これはもう夏メシにもってこいの一品じゃないか。

あとはシンプルに「わさびめし」(p.155:わさびめし!)。 熱々のごはんにおかかを散らして、その上におろしたてのわさびをちょこん。おかかにかけるようにしょうゆをぽちっと。…たったのこれだけである。しかし、おろしたてのわさびがツーンとする感じ、しょうゆが染みたおかかに、ふっくら甘いごはんを想像しただけで、唾を飲みこんでしまう。

そしてこれは、私のとっておき! 「油揚げカレー」(p.187:油揚げカレー!)は間違いなくおいしいやつだ。

具材は油揚げと玉ねぎのみという、シンプルなカレー。しかし口に入れれば、一片の油揚げからカレーがじゅぶじゅぶ~と染み出てくる。これがきっとたまらない。

さて、そんな平松さん、旬の果物でジャムを作ったり、お米は土鍋で炊いたりなど、本書を読むだけでその丁寧な暮らしぶりがうかがえる。これだけ料理をされているのに、自宅に電子レンジはないそうだ。

しかし良い意味で度肝を抜かれる、というか、私のなかで出来つつあった平松像をくつがえしたのが「モンゴルでギャンブル」(p.84)という一編。平松さんがモンゴルのゲル(遊牧民の移動式住居のこと)に泊まっていたときのエピソードで、

午後いっぱい、馬で遠出をして戻ると、おやじさんが得意満面の笑みを浮かべて手招きする。近づくと、大ネズミみたいな小動物を解体中だった。
「タルバガン。めっちゃうまい」
おやじさんは鼻をふくらませて胸を張った。
(中略)
見ていると、骨ごとぶつ切りにした肉を厚い石窯に入れて蒸し焼きにする。「そろそろかな」と取り出した肉を棒に突き刺して差し出すので、おずおずと齧りついた。
へ?
間抜けな声が出た。
う、うまい……。

別に競っていたわけでもないんですが、この話を読んで素直に「負けた」と思った。食べることも、おいしいものも大好きだけど、解体されている大ネズミを目撃した時点で、私は食欲をなくしている……。

ああ、そうそう。これはお店のメニューなのだけど、唐辛子やコリアンダーシードなどのスパイスを使った「レモンサワー」(p.29:夕暮れのレイモンサワー)の話も、読んでいるだけで喉が鳴った。広島で瀬戸内レモンを使ったフレッシュなサワーを飲んで以来、爽快感たっぷりのレモンサワーに目がないのだ。

えぇい、これのうちのどれでもいい(※大ネズミ以外でお願いします)から、今すぐ食べたい(飲みたい)!


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