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赤いリップグロス

ドクメンタの2日目は朝からnoteの記事を書いていて、気がつけばホステルのキッチンで12時を迎えてしまった。前日に頭を使いすぎていて、身体がしんどい。もうオフモードでゆるゆるいくしかない。

ホステルを出て、北側の小さな会場をぶらぶらとめぐった。インスタレーションと映像展示がほとんどで、ラジオ放送局もあり、アテネの伝説的なバーを題材にして、夜には実際にバーになる作品もあった。

それにしても、くたくただ。もっとも北側の展示会場NORDSTADPARKで、草花の植栽でできたピラミッドを眺めたら、そのまんまその公園の芝生でしばし昼寝をした。

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ごろんと横になると、ほんとうに気持ちがいい。

しかし、この Agnes Denesによる《The Living Pyramid》だが、てっぺんをよーくみると、空き瓶のようなものが置かれていて不可解だ。キャプションに「Flowers,grasses,soil,wood,and paint」と書いある。誰かのいたずらなんだろうか。疲れている時の作品解釈は、ついその不機嫌さがそのまんま出てしまってよくない。

公園で気がすむまで昼寝をしたら、ぶらぶらと南下して、散歩がてらに展示会場に立ち寄る。カッセルがかなりコンパクトな街なのが体感できた。

ドクメンタ アテネでは、ほとんど見かけなかった街中のサインも、カッセルではしっかり展開されていて、迷わずにすむのでずいぶん助かる。

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展示会場やインフォメーションなどには、こうした矢印のグラフィックで近隣の会場までの簡単な案内があり、道の途中にも小さな丸い案内表示があるのだ。

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アテネでは「14」が、ドクメンタ14のグラフィックデザイン上のアイキャッチだったが、カッセルではフクロウが活躍している。

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さすがにドクメンタのお膝元とあって、展覧会と街とがきちんと接着している感があった。

また、マップではアーティストや作品紹介よりも先に、各会場が持つ歴史や日常での利用のされ方がしっかり記述されている。

例えば、NORDSTATPARKであれば、「夏の夜や週末には多くの人々で賑わい、周辺に住まう人々や学生など、多国籍で実に多様な人々が余暇を楽しんでいる」というようなことが書いてある。この丁寧さには驚いた。何かの機会にぜひ参考にさせもらおうと思う。展覧会のためだけに街を訪れる人には、その場所が日常でどんな利用をされているのかはなかなか知り得ない情報でもある。が、街の文脈上でその作品がどういう位置に置かれているかについては、作品理解の上でも重要なのだし、街により詳しくなれる機会が展覧会を通じて演出されているのは、住民にとっても訪問者にとっても実りがありそうだ。いわゆる「シビックプライド」と言われるものは、こうした小さな努力から生まれるのかもしれない。

19時すぎまで、1954年にドイツで初めての映画館としてオープンしたGLORIA-KINOで、中国の鉄道労働従事者とその家族のドキュメンタリー映像をぼんやりと眺めた。映画館を出てもまだ昼のように明るい空の下を歩いて、宿へと戻る。

帰り道でふと、ショッピングセンターに立ち寄り、シャネルの赤いリップグロスを買った。欧州の旅も、まもなく半月になるが、背が高くて顔の彫りの深い人々に囲まれていると、自分の平坦な顔がどうにも気になるのだ。何が足りないんだろうなぁ、と考えていて、「そうだ、口元に赤をさせば、きっといい」と思い立ったのである。買い物をしたら、元気が出た。

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