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ほぼひと月のアート旅も今日で終わり、まもなく機上の人に

ミラノでは「いかなくちゃ!」という衝動にかられる国際展をやっているわけではないので、朝もなんだかぼんやりと起きる。またも予定を決めずに宿を出て、モンテ・ナポレオーレ通りというミラノの高級ブティック通りを散策した。道の両側に高級店が並んでいて、ウィンドウを眺めているだけでも楽しい。

モンテ・ナポレオーレ通りは、歩いている人々の種類もちょっと違う。お買い物に来ている人たちは皆、肌や髪がつやつやしていてよく手入れをしていることが一目で分かるし、タンクトップ+ショートパンツ+サンダルのようなカジュアルであっても、小綺麗でとにかく靴が高そう。背の低いアジア人女性も、ヴィトンの小さなピンクのバックを腕でキュッと持って、腰まである綺麗な髪を揺らしながら、Aラインのワンピースとバレエシューズでサクサク歩いていて素敵だった。

ウィンドウショッピングに飽きたら、観光ツアーでもらったチケットをまだ使っていなかったなと、ドゥオーモ美術館に出かけ、教会の内外を彩る彫刻とタペストリーを見学した。室内全体を暗めに設定して、展示物をしっかりライティングする展示手法が鮮やかだ。1950年代にもレリーフ制作のコンペティションを行っているらしく、選ばれた作家の作だという彫刻が見事だった。

50年代といえば抽象彫刻も面白いご時世だったころのはず。この彫刻は抽象と具象の間を行き来しつつも、彫刻本来の骨格や造形の手腕が成熟した形で表現に現われ出ていて、作家の意欲を感じる。

あっという間にドゥオーモ美術館も見終わって、そのまま隣のミラノ市立近代美術館に入った。作品も展示構成も良く、素晴らしい。

展示の冒頭に、モディリアーニ、ピカソ、ブラックなど、絵画に抽象概念を根付かせる端緒を切り開いた作品群の小品が並ぶ。そこからイタリアの作家が具象絵画をキュビズムや抽象に展開させて表現の幅を広げていく様を丁寧に時系列で見せたりしていて、分かり良い。

美術史の流れでいう、抽象表現主義からポップアートなど、20世紀絵画はアメリカの動向を主流として語られがちだ。その陰に隠れてしまいがちなイタリアの作家たちが当時どんな作品を生み出していたかがよくわかった。アメリカにおける美術動向はどんどんコンセプチュアルな方向にシフトをしていって、「センセーショナル」なあり方を競っているところも感じられるが、イタリアの美術動向はもう少し正統派というか、美術史の流れをしっかりと組みつつ、コンセプチュアルな方向にも洗練されていくし、手の技についても置き去りにすることなく着実に表現をしている印象があった。


鑑賞の合間には、窓からドゥオーモとガッレリアを眺められて、得した気分だ。

昼もすぎてお腹がすいてきたので、ネットに載っていた「ルイーニ」というお店に行こうとしたら、休業日だった。ネットと相性が悪いみたいだ。すぐ近くに行列ができているピザ屋さんがあったので、入ってみることにした。

スタンディングで気軽に食べられる、ミラノ伝統の厚焼きピザのお店。生地はふわふわで、底がおこげみたいにパリパリしていて、とても美味しい。夕方近かったのに、かなりの人が並んでいた。ビールとマルガリータを一切れで6.5ユーロ。

なんとなく調子が出て、すぐ近くの日本食のスタンディングバーにも寄ってみることにした。

コーヒーみたいなカップに入った味噌汁と、手巻き寿司で7.5ユーロ。ミラノで食べる日本食なんて、ねー、と、期待半分だったのに、美味しかった! 手巻き寿司はご飯が多めで、ひとつでかなり満足できる。ほぼひと月ほど、日本食を食べていなかったので、「うまうま、はふはふ」で食べた。明日、飛行機に乗って帰るんだから、何も今食べなくってもいいだろうとは思ったんだけれど。

店内の装飾もなんだか面白い。ヨーロッパでは日本人シェフのいる飲食店がとにかく人気だというが、ここもうまくいっていそう。日本人に「プレーゴ」とか言われて手巻き寿司を渡されるのも、なんだか面白い。

お腹がいっぱいになったら、暑くってしょうがない(この日は猛暑)ので、もう宿に帰ることにした。パッキングをしなければだし、仕事のメールが来ていたりするので、なんだか落ち着かない。

宿に戻ってごろごろしながらも、「あー、日本、帰りたくないなー」とか、「味噌汁飲みたいなー」と、しょうもないことを考えてばかりいた。

ただひとつ言えるのは、旅に出たばかりの頃の自分の、旅を終えようとしている自分は随分と変化しているということ。なんだか、日本でごちゃごちゃ悩んでいたことが、本当にどうでもよくなってきた。誰かの目を気にしたり、自分以外の人が期待する自分になろうと努力すること、もうすっぱり辞めたらいいし、そこに幸せなんて永遠にないなと。だって、楽しいと思えることは、人によってかなり違うはずなんだから。



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