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君が名前を呼んでくれるということ

某感染症が流行り始めた初期の初期、現場がことごとく延期・中止になった時期に推したちが「サインとこちらの任意の名前を手書きしてくれるソロショットチェキ」を受注でネット販売してくれた。どうやらこういう形態のものを、宿題チェキ と呼ぶらしい。

当時私はまだ現場にあまり行ったこともないし推しメンともお話したことのないドドドドド新規オタクだったけれど、これはなかなかないチャンスであるという波動を感じたので1枚だけ申し込んでみることにした。

それはもうかなりの数の申し込みがあったようで(あの時期推しメンは毎日「今日もチェキ書いてます」とツイートしていた気がする)、しばらく経ってからそれは家に届いた。

そこにはたしかに推しメンの手書きで「○○(私のHN)さんへ」と書かれていて、初めて手にするチェキがこれってとんでもないなと興奮したことを今でも鮮明に覚えている。

…という宿題チェキを手に入れたくだりは前説なのでここではこれぐらいでいいとして。


現場が再開されるようになって、対面の撮影会に足を運ぶようになった。

メンバーの手元に申込者リストがあるオンライン接触イベントと違って、対面接触ではこちらの名前を推しが事前に確認する術はない。

度重なるオンライン接触でなんとなく顔を覚えてもらっている感覚はあったけれど、それはあのオンラインの形式だからであって、手元に申込者名簿があって呼んでほしいHNも本名も記載されているからなんじゃないか。
しかしまた逆に、覚えてもらえているのにしつこく「○○です!」と名乗るのは失礼にあたるのじゃなかろうか。
慣れない対面接触を前に、どちらにしろ不安がつきまとっていた。

そこで私は、名前の入ったあの宿題チェキを透明なスマホケースの背面に入れて撮影会に通うようになった。

スマホで写真を撮ってもらっている間に、必要であれば推しが私の名前を確認できるように、と。


私のその魂胆が果たして成功していたのか、最早それすら不明だったけれど、少なくとも推しメンに「誰だこいつ」という顔をされることはなく、たまに名前を呼んでもらったりもしつつ、楽しく撮影会に通うことができていた。


先日のライブ後、写真撮影の付随しないただの対面お話会があった。
仕事と夏バテでヘロヘロだった私が「今日のライブ楽しかったです」と伝えたら、推しが「だってそのために仕事頑張ったんでしょ?」と笑ってくれた。
そうだ、前日のツイッターのリプライで、『明日のために今日は仕事頑張ってきました!』と送っていたんだった。

スマホケースの裏のお名前チェキを見ることもなく(だってスマホはカバンにしまっていたから)私のツイッターアカウントと顔を一致してくれていて、しかも昨日送ったリプライを覚えてくれていて、

心がいっぱいだった。

接触においてこちらの言葉を受け取ってくれるところまでが彼のお仕事だからオタクの把握なんてしてくれなくて全然構わないと強がっていたけれど、いつも言わないだけでちゃんと見てくれているんだなあと思った。

そしてそれをこちらに伝えてくれたことが何よりうれしくて。
笑顔で手を振って推しに背を向けた後、涙を必死にこらえた。



きっといつか推しが私のことを忘れてしまうような日がきたって、楽しくお話できるんだと思う。実際認知がなかった頃の接触だって、とっても楽しかったから。

だけど実際、その時は死ぬ程寂しいんだろうなあ。


もうこれ以上何も望みたくないという自戒も込めて、私はこれからもスマホケースに宿題チェキを挟み続けるんだろう。

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