乳がんになった私 #57「豊田スタジアム-後編-」
舞台袖から、1人、ステージへ上がる。
息を深く吸い込み、歌い始める。
“君がナンバーワン 僕のナンバーワン 誰にも邪魔できない この気持ちは”
名古屋グランパス2021シーズンのオフィシャルサポートソングのこの曲。「ナンバーワン」という曲名をつける時には勇気が必要だったのだが、この年、グランパスはルヴァンカップで見事ナンバーワンとなった。
もちろんチームが優勝することを願って作ったのだが、他にも込めた想いがある。
コロナ禍で思い知った、好きなことを制限されてしまう状況、“好き”を守ることの難しさ。だけど、何かを“好き”だと思う自分の気持ちは、絶対に譲れない、譲りたくない。“好き”をおびやかすのは、コロナというウイルスなのか、取り巻く環境なのか、人間関係なのか。
2021年に“好き”を貫こうと思って歌っていた私は、2023年に乳がんになり、やっぱり“好き”を貫こうと思って歌っている。
「ナンバーワン」をピアノ弾き語りで歌い終え、2曲目は内田と2人での演奏。
内田が登場すると「おめでとー!」とステージに向かって声が飛んできた。
この日が、事実婚を発表してから初めての人前での演奏。
祝福の声が嬉しかった。そして、少し照れ臭かった。
私は、マイクから口をずらして「ありがとう!!!」と答えた。(そう記憶している)
2曲目の「Want」は2022シーズンのオフィシャルサポートソング。
バンドとしては、事務所とレーベルから独立して初めてのリリース曲で、そう言った意味でも思い入れがある。
“自分次第 ここからの時代”
サッカーチームと言っても、そこにいるのはそれぞれ1人1人の人間。選手だけじゃなく、スタッフも、サポーターも、関わる私たちも、皆、自分次第。個人個人が本気で己と向き合うことが大事なんだ。その集合体が最高のチームなんだ。
ラストの3曲目はもちろん、今シーズンの「たぎってしかたないわ」。
この曲を、サポートメンバーのジャズギタリスト竹内勝哉と3人で演奏した。
この日の試合の勝利を願い、全身全霊でライブをした。たぎってしかたなかった!
ライブを終え、ステージから降りた。
身体、痛ああああああああああああああああ!
痺れ、きつううううううううううううううう!
ライブ中は、アドレナリンが出ているおかげで気にならなかったのだが、ステージを降りた瞬間に自分の身体の辛さを思い出した。
ライブ中の精神と身体の関係って、すごい。
無事にライブを終えることができ、私は心底ホッとしていた。
そして、やはりライブというものは最高の時間だった。
グランパスの試合は、この日、悔しくも引き分けだった。
スポーツというものは実に厳しい勝負の世界。どうしたって結果が求められる。
だけど、どんな時だって “好き” な気持ちは変わらない。
勝った時の歓び、負けた時の悔しさ、接戦のハラハラ感、熱狂や興奮や感動…!
色んな感情を味わわせてくれるグランパスが、好きなんだ。
(#58へ続く)
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