裏会小説 第2話 開かれた扉
第1話はコチラ。
◇
チラシに乗っていた情報を頼りにたどり着いたのは、四角い建物と窓が並ぶ何の個性もないビル群の端っこだった。
ロードバイクに乗った若者が颯爽と通り過ぎたかと思えば
杖を突いたお年寄りがのんびりと歩く。
坂道が多いせいで、周りの景色が見渡せず、どこか閉塞感がある。
ここはどこなんだろう?
「ヴァンヴェール青山」
意識して探さないと見落としてしまいそうな
築10年ほどのマンションだった。
おそるおそる802号室の部屋番号を押すと思いがけず優しい雰囲気の返事があり少しホッとする。
迎えてくれた女性はノンナさんと言った。
「ようこそ。」
静かに微笑みながら招き入れてくれた。
◇
年に一度の祭典という割には飾りつけなどなく質素だ。
「今日は何かのお祝いなんですか?」
言ってから単刀直入すぎたと気づく。
「お祝い、というよりは、扉を、開けておくということです。
私達を知ることで、近づけることもありましょうから。
あなた様も、そう、そうですね。これから少しずつ波動が高まって、いきますよ。」
何のことを言っているのか少しも理解できなかったが、案内されるがままに奥へと進んだ。
ドアを開けると、リビングダイニング、和室が間仕切りなく一つの空間となっていた。
日当たりもよく、部屋の真ん中のラグで足をのばせば居心地がよさそうだ。
壁沿いに並ぶ本棚、作業用テーブル。
その上には、よくわからないものがゴチャゴチャ置いてある。
顕微鏡?三角や星を象った知恵の輪のようなオブジェ、たこ足配線で繋がれた古いAV機器、読み方のわからないカレンダーや神話に出てくるような世界地図もある。
そうかと思えば、テレビ画面ほど大きなスクリーンには、全世界の株価や為替チャートが映し出され、点滅したり、アラームが鳴ったりしながらリアルタイムの市場を映しだしている。
スピリチュアル研究とは何なのか。
呆気にとられていると、奥のキッチンから小綺麗な初老の男性が顔をのぞかせた。
「ようこそ。今日はメンバーもあまり居ないので、ゆっくりできますよ。」
と微笑んでまたキッチンへ戻った。愛嬌のある面持ちにまた少しホッとした。
どうやらコーヒーを淹れてくれるらしい。くるくるとコーヒーミルで豆を挽いている。
ノンナさんがダイニングテーブルに案内してくれたので座って待つことにした。棚に並べられた本のタイトルが目に入った。
ダウ理論、金融危機、ブッダの軌跡、曼荼羅、神の宮、天と地、六星占術、日本書紀、水の科学、満月の法則、暗号クラブ、ホピ族の習慣、時と精神の融合・・・
ぎっしり並ぶ本の合間に収納されたクリアファイルは、容量を超えてパンパンに膨れ上がっている。
「この世界に足を踏み入れてから、そう長くはないんですよ。」
淹れたてのコーヒーを出しながらその男性はにこやかに、それでいてどこが物憂げな様子でゆっくりと話し始めた。
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