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裏会小説 第3話

第2話はコチラ

「僕がこの研究会を開いたのはたった5年前なんですよ。それまでは普通のサラリーマン。

と言っても、石油関係の会社だったから世界情勢や金目の話はよく耳にしていたんですけどね。

そこでの話を聞いていると、会社生活でできることの限界を感じてしまって。

ちょうどそのころ、母の体調が悪くなったのをきっかけに、思い切って会社を辞めることにしたんです。

これでも、会社では取締役まで昇進しておりました。周りからは、退職を反対されましたが、残りの人生を過ごすくらいの蓄えはあったのでね。

ユウイチくんはまだ独身かな?それなら尚更、誰かに支配されているなんて感覚は当然ありませんよね。


ハッキリ申し上げておきますと、この世界は、支配するか、支配されるかのどちらかです。

しかしこれが彼らの巧妙なところですが、あたかも自分の意思で生きていると思わせる手口を使うのです。

あなたが考えている以上に、世界は残酷なのですよ・・・。」


お茶目な風貌から出てくる辛らつな言葉の数々に、ユウイチは悲しみを覚えた。

この人は、何を見て、何を聞いて、此処にたどり着いた?

グレーがかったその瞳の奥に何を秘めている?

その時、突然 窓の外から騒音がした。

なんと、ヘリコプターが低空飛行している。どこかに着陸するようだ。こんな街中なのに?

ヘリは旋回しながら近くの緑地に着地した。

中から出てきたのは、真っ黒のスーツに身を包んだ数人の男たち。彼らが一列に整列した横を、杖をついた老人が付き人に支えられながらハイヤーに移動しあっという間に姿を消した。

一瞬の出来事だった。

「ユウイチくん。そういうことです。世界にはあなたの知らないことがまだまだあります。決して、見えるものだけ見ていてはいけないのです。」

その日はそれ以上話すことなくスピリチュアル研究会を後にした。

頭を休ませよう。ベッドに転がって老人の話を思い出す。

見えるもの、見えないもの。

自分の意思、残酷な世界・・・

だんだんぼうっとしてきた。

そういえば、あの老人、僕の名前を知っていたな

今日、僕は名を名乗ったっけ?


支配する側とされる側


薄れていく意識の中、老人の言葉がこだまする。

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