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食べるひとり#2冷凍庫に潜む誘惑のパスタ

実はパスタが大好きなのだけれど、人にあまり言ったことがない。
なぜなら誰かと外食するときに、私の好物だからとパスタ屋さんを選んでくれても、「当たり」のパスタに出会える確率が少ないからだ。
せっかく外食したのに私の好みではなかったとき、嘘でも美味しいとは言えず「珍しい食感だね」とか、「具が大きくて贅沢だね」といった感想を述べることしかできない。だから一緒に食べている人に申し訳なくなるので、パスタのことは日頃から黙っている。
パスタ専門店だから良いとか、本格的だから良いとか、そう言った話しではなくて、本当に好みの問題で、パスタはなぜだかフィーリングというか、この感じ好き!と思えるか思えないかが、私の中で何故だかはっきりとしているのだ。



自分でちゃんと美味しいと思えるパスタを家で作ることは、とても難しい。
適当に調理しようものなら、あっけなく「食べなくてもよい」レベルのものになってしまう。
なんといっても、麺の食感やソースとの絡み具合、オイル系ならば乳化具合など、味の決め手となるものが、適当に作って運良く上手くいく確率が低すぎるのだ。炒め物のように残り物と良い感じの調味料と気合いでなんとかなるようなものではない。
何度挫けようとも負けずにパスタと向き合って調理してきた人は、自宅でも納得のいくものを食べることができているかもしれない。知り合いにも何人かいるが、完成したパスタをInstagram等に投稿されると見るからに美味しそうで、すぐにハートマークをタップしたくなる。
しかし、自分で作るパスタのハードルは高い。
例えば夕飯にだそうとして、2人前以上を一度に作るなんて私の技術的には自殺行為だ。
例えばカルボナーラは、卵を投入してから仕上げに素早く混ぜ温度調整が必要なので、どうやっても1人前じゃないとなめらかなソースにできない。ペペロンチーノのオイルを乳化させるのも同様だ。量が増えるとどうしても分離させてしまい、残念なパスタになってしまうのだ。



子どもの頃、両親が夜も働いていたために、夕飯は作り置きのものをレンジでチンして食べていたのだけれど、伸び切って乾きかけたスパゲッティのときだけは、申し訳ないけれど一口食べてはラップをかけ直し、食べずにスナック菓子でお腹を満たしていたことを覚えている。
ある意味私の中のパスタは、その記憶が全てだったような気がする。だからパスタはそもそも美味しいものだ思ったことはなかった。
しかし社会人になり、お店でパスタを食べたときは衝撃だった。
こんなに美味しいものを、どうやったらあんなに不味く(お母さんごめんなさい)なるのかと悩み、自分で家で作ってみたけれど、やはりあまり美味しくなくて、これは簡単に素人が手を出す料理ではないなと実感したのを覚えている。
パスタはお店で美味しいものを食べよう。そう心に決め、友人と外食するときは特別なものとしてパスタを食べることが多くなった。
社会人になり、週3で通ったお店もパスタがメインの洋食屋さんだった。

しかし、お店で食べてもハズレはあった。好みの味じゃないだけでなく、なんか普通というものや、見た目からも嫌な予感しか漂わない、口に入れてもまとまらない、お世辞にも美味しいと言えないパスタたちに、あるとき出会ってしまったのだ。
これには正直、パスタが嫌いになる理由が詰まりすぎていて、怒りというよりも悲しみの方が大きくて、麺嫌いになる一歩手前だった。
とはいえ、お値段500円程度でも美味しいお店もあれば、1,000円以上出しても納得のいかないお店もある。だからわたしは、パスタの好みがハッキリしているからこそ、自分の好きなお店でしか基本的には食べないようになり、安易にパスタを食べに連れていかれないように、パスタが好きだと人に言わなくなっていったのだ。

その後何年かイタリアンのお店で働き調理したことで、ある程度パスタを作るときのコツは掴んだけれども、失敗するのが嫌で家でパスタを食べる機会はグッと減った。



しかしそんな私が最近、家で美味しくパスタを食べている。料理の腕が上がったのかと言われるとそんなことはなく、ただ単にスーパーで良い出会いがあったからだ。
その名も「冷凍パスタ」である。
スーパーの冷凍食品コーナーにいくと、冷凍パスタがズラリと並んでいるので、見かけたことがあるだとか、よく利用しているよという人も多いかと思う。
私はパスタに関しては疑うことから入る人間になってしまったのでいつもスルーしていたのだけれど、その日はなんとなく口の中がケチャップ気分で、決してケチャップが好きなわけでもないし、ましてやナポリタンも苦手な方だったにも関わらず、特別価格198円のマ・マー「超もち生パスタ太麺ナポリタン」を買い物かごに放り込んでいた。

家に帰るとちょうどお昼時で、朝から何も食べていない空腹を満たすためにも特別価格198円のマ・マー「超もち生パスタ太麺ナポリタン」をパッケージの説明書きに従ってレンジに入れ、指定された600W4分30秒温めた。

チン!とは言わず流れる軽快なメロディを打ち消すように腹ペコの私は急いでレンジの扉を開けて、温めたパスタを皿に移した。
そして麺と上に乗ったソースをぐるぐるぐると混ぜ合わせていった。
ん?このツヤと麺の感じ、良さそうだけど。
期待していなかったのに、予想外に美味しそうでグゥーとお腹が鳴った。
粉チーズとタバスコを冷蔵庫から取り出し、テーブルにそれら全てを並べていただきますをした。
一口食べるとびっくりして、少し考えてしまった。これ、好きな感じ?!その後はノンストップでむしゃむしゃと頬張った。予想以上に美味しくて、一皿をあっという間に食べ終えてしまった。
198円でお家でこんなにも理想的なパスタが食べられることに感激した。
食感がとにかく素晴らしい。もちもちとして、みずみずしい。麺にソースがしっかりと絡んでいる。適当にグルグルグルと混ぜただけなのに、どの麺を食べても均一にナポリタンである。
このマ・マーのナポリタンの素晴らしいところは、酸味と甘みのバランスの良さだ。ソースの酸味がほどよく、食べ進めるたびに後を引く。ケチャップの酸味強めの本格的ナポリタンが好きな人には物足りないかもしれないけれど、ジャンキーでごってりなものが好きな私には、この濃厚さが理想的な味なのであった。

レンジで温める時間よりも短い時間で軽く1人前をぺろりと平らげてしまった。これはついついうっかり、もう1人前をレンジでチンしないように気をつけないといけない。
家で食べるということは、そういった罠が潜んでいる。おかわりしても、誰にも引かれないし、どれだけたべても誰にも止められないのだ。



この日私はパスタを2人前いただいた。
後悔はしていない。むしろ、しばらくパスタはいいかなと思うくらい、腹にしっかりと詰め込んだ。396円でこんなにも腹と心が満たされる昼食ができるなんて、冷凍食品の商品開発部の皆様には感謝の気持ちでいっぱいである。
食事の調理時間がボタン一つで済んだ分、食後のコーヒーは豆を弾き、丁寧にドリップして淹れて、本を片手にコーヒーを飲んだ。
それだけでもう、私の休日は充実したものに変わっていったのであった。



平日仕事でクタクタになり、何もしたくない土曜日の昼、家に引きこもっていても、頑張ってご飯を作らなくても、こうやって美味しい休日を提供してくれる冷凍食品は私たちの強い味方だ。
今後は美味しいのレパートリーが増えるように、冷凍食品記録でもつけていこうかと考えている。

それにしても、いつでもチンすれば食べられる美味しいものが家に常備されているというのは、常に私を誘惑してくるということでもある。

強い味方は、最大の敵でもあるということを、私は絶対に忘れてはいけない。
なぜなら寝る前に乗った体重計の数字は、どんなにラクをしても2度とパスタをチンしたくない数字であったからだ。

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