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『百人一首を自分なりにアレンジしてみた。』No.15 光孝天皇

君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ 

光孝天皇 (第十五番)

(現代語訳)

あなたにさしあげるため、春の野原に出かけて若菜を摘んでいる私の着物の袖に、雪がしきりに降りかかってくる。

*****

「おやまあ、雪ですか」
わたくしが外の景色を眺めておりますと、雪が降ってまいりました。
「冬もこれからですよ。雪くらい降りますとも」
お付の者は、当然といった様子です。
「そうそう、手紙を書いたので、送っておいてくれませんか」
わたくしは、先程したためた手紙をお付の者に託しました。
そのとき、春の七草も一緒に託しました。
「…あら、この七草も一緒に?」
「ええ。わたくしが思いを込めて摘んだ若菜たちですよ」
あの方が健康におられますようにと、願いながら詰んだ草々でした。
「かしこまりました。七草粥に間に合いますよう、急いで送っておきましょう」
お付の者はわたくしの意図をくみ取ってくれたのか、にこりと微笑んで若菜と手紙を大切に扱ってくれました。
「そうそう、若菜積みの最中、わたくしの袖に雪の結晶が乗ってきましてね」
わたくしは思い出したように若菜積みのことを話しはじめました。
「雪の結晶ですか」
「それはもう、きらきらと輝いて美しいものでしたよ」
「そういえば、あの時は濃い色の御着物をお召しになられていましたね。結晶まで見ることができたのですか」
お付の者は言います。
「ええ、それはもう、先程も申した通り、あの方のようにきらきらと輝いておりましたよ」
わたくしは、手紙の宛てとなるあの方を思い描き、夢心地になりました。

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